第139話 処遇


「おい、マサゴロウ。お前さん、これから毎日、朝から晩まで美容商品の開発ができると思って、浮かれておるんじゃなかろうな?」

「ぎくぅぅっ!?♡」


 借金まみれのマーサさんに、美肌ポーションを使った美容商品を開発させようというプリンちゃんの話が進められる中、おばばさまが、ニマニマしていたマーサさんをギロリと睨みつけて問いかけると、マーサさんは、その心境を声に出してしまうほどに驚くのでした。


「その焦りよう、図星のようじゃな……」

「そ、そ、そ、そんなことないわよん!♡」


「こりゃ、ダメじゃな。面倒見切れんわい」

「そんな!♡ お師匠さまぁぁぁん!♡」


 おばばさまが、マーサさんの心境を的確に読み取り匙を投げてしまうと、マーサさんは、焦りを露にして必死に縋りついてきました。


「おばばに見捨てられたら、マーサは借金奴隷コース確定だなー!」

「ひぃっ!!♡ お師匠さまぁぁ、何でもするから助けてぇぇぇぇん!♡」


 プリンちゃんが、腕を組んで、まぁ、いいか、くらいの軽い感じで発言すると、マーサさんは、顔を真っ青にして、泣きながらおばばさまへと縋り付きました。


「ほう、何でもするんじゃな?」

「出来ることなら何でもするわよん!!♡ だから見捨てないでぇぇぇぇん!!♡」


 おばばさまが、鋭い目をキラリと光らせニヤリと口角を上げて言うと、マーサさんは、もう後がないとばかりに泣きながら縋り続けます。


「ならば、昼間は、みっちり働いて借金を減らすことじゃな」

「えっ?♡」


「それと、開発は1日2時間までとするのじゃ」

「そんなぁぁぁぁ!!!♡ 働くのはともかく、開発時間が短すぎるわぁん!♡」


 おばばさまから2つの条件を突きつけられて、マーサさんは絶叫しました。特に開発時間が短いところが突き刺さったようです。


 そんなマーサさんの反応を見て、おばばさまは、ニヤリと悪魔のように口角を上げて見せました。


「そうじゃなぁ、中央病院で薬の調合をするのがよかろう。あそこなら3食込みの職員寮があるから住むところにも困らんじゃろ」

「ええぇぇっっ!!♡ ここに住まわせてくれるんじゃないのぉぉぉん!♡」


「そんなことすれば、夜中にコソコソと開発しそうじゃからのう。却下じゃ」

「そんなぁぁぁぁ…‥♡」


 さらにおばばさまが、マーサさんの行動を見越して、仕事先から寮住まいまで言及すると、さすがのマーサさんも絶望に顔色を染めるのでした。


「ふん、何でもすると言ったじゃろ。プリン、マサゴロウを中央病院へ放り込んどいておくれ」

「任されたぞー! あそこは人の出入りが激しいからなー! いつも薬師を募集してるはずだー! まぁ、募集してなくても押し込むけどなー!」


 かっくりと項垂れるマーサさんを横目に、おばばさまとプリンちゃんの間でマーサさんの処遇がまとまりました。


 ちょっとマーサさんが可哀想な気もしますが、身から出た錆びですので仕方がないでしょう。トラ丸が、マーサさんの膝をポンポンと叩いて慰めていました。




 プリンちゃんとマーサさんが帰った後、水龍ちゃんは、おばばさまと一緒に調合室の整理と素材の棚卸をしました。


 おばばさまが言うには、マーサさんは、美容関係となると周りが見えなくなってしまい、素材の管理もおろそかにしてしまうので、こちらできっちり管理しておく必要があるのだそうです。


 普段からきちんと整理整頓していたため、それほど時間を掛けずに棚卸を終えて休憩していると、薬師ギルドのお姉さん達がやって来ました。


 お姉さん達は、陽気に挨拶をしてから、おばばさまにひと言断って、テキパキとポーション入りドリンクを作ってリビングに集まり、きゃいきゃいと話し出しました。


「ねぇねぇ、マーサさんの薬屋さんが廃業になったって聞いたけど、美肌ポーションの製品化ってどうなるのかしら?」

「マーサさん、かなりの借金があるらしいから、借金奴隷になっちゃうかも」

「えー、それじゃぁ、美肌ポーションはどうなっちゃうの?」


 お姉さん達の話にマーサさんのことが上がりました。やはり美肌ポーションを使った美容商品のことが気になるようです。


「マーサお姉さんなら、今日、ここへ来たわよ」

「えっ!? 本当!?」

「なになに? 詳しく教えて!」


 水龍ちゃんの声に、お姉さん達は食いつきました。水龍ちゃんは、マーサさんが街の中央病院で働くこと、そして、美肌ポーションを使った商品開発は、1日2時間までという制限付きで行うことが決まったのだと簡単に話して聞かせました。


「そうなのね。マーサさんも大変ね」

「でも、1日2時間だなんて、部活動みたいね」

「ふふっ、美肌ポーション研究部ってところかしら?」

「えー、美容商品開発部じゃない?」

「どっちでもいいわよ」

「あー、そんな部活動なら私も入りたいわ」

「私も、私もー」


 お姉さん達の話の流れは、なぜかしらそんな方向へ行ってしまいました。

 そして、そんな話を聞いていたおばばさまが面白そうな顔をして口を開きました。


「ふはははは、面白そうじゃのう。お前さん達にその気があるなら、倶楽部活動としてやってみるかの?」

「「「「「えっ!?」」」」」


 おばばさまの発言に、お姉さん達は、声を揃えて驚くのでした。

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