第136話 お姉さん達の盛り上がり

 おばばさまの家に集まっていた薬師ギルドのお姉さん達に、水龍ちゃんが、美肌ポーションの試作をしてきたと話すと、お姉さん達は驚愕の声を上げるのでした。


「「「「美肌ポーション!?」」」」

「是非とも詳しく教えてちょうだい!!」


 見事にハモったお姉さん達の声に続いて、お姉さんの1人が、ものすごく食いついてきました。


 水龍ちゃんは、お姉さん達の獲物を狙う狼のような気迫の籠った眼差しを一身に浴びてしまい、トラ丸は、ビクッとして水龍ちゃんの膝へと飛び込んでしまいました。


「えっと、水くらげ草を使ったポーションなんですけど……」

「水くらげ草ですって!?」

「肌の潤い成分がたっぷり含まれているという!?」

「あれって、ポーション錬成すると酷いにおいがするっていうわよ」

「それでいて、ものすごく高いっていうわ」

「だけど、すごく効果が見込めるんでしょ」

「そういえば、水くらげ草の錬成品を使ったフェイスパックがあるわね」

「知ってる。すごく臭いけど、効果抜群らしいわよ」


 水龍ちゃんが、美肌ポーションは水くらげ草を使ったものだと話すと、お姉さん達は水くらげ草の話で盛り上がります。


「でもでもぉ、水龍ちゃんが作ったポーションだったら、ひょっとして……」

「「「「におわないかも!?」」」」


 騒がしかったお姉さん達の声がピタリと止まり、再び水龍ちゃんへと視線が集まりました。


「ん? 臭いにおいは元から絶ちましたよ?」

「「「「やっぱり!?」」」」


 水龍ちゃんが、こともなげに話すと、お姉さん達の声がハモりました。


「ねぇねぇ、その美肌ポーションを見せて欲しいんだけど、だめかしら?」

「ん? 別に構わないですよ」


「ほんと!? 嬉しいー!」

「ちょっと取ってきますね」


 お姉さんにお願いされて、水龍ちゃんは、トラ丸を連れて調合室に置いてある美肌ポーションを取って来ました。


「これが、美肌ポーション!」

「水くらげ草から作ったのよね!」

「なんかキラキラしてるわ!」


 お姉さん達は、美肌ポーションを目の当たりにして、興奮気味に声を上げます。


「においを嗅いでみましょう!」

「「「「おおー!」」」」


 お姉さんの1人が、ポーション瓶を手に取り、そのにおいを嗅ぐと宣言すると、周りから勇気を称えるような声が響きました。


 勇気あるお姉さんは、水龍ちゃんが作ったのだから大丈夫よ、と小さく呟いてからポーション瓶の蓋を開け、すんすんとにおいを嗅ぎました。


「全然臭くないわ!」

「「「「おおー!」」」」


 勇気あるお姉さんの声に歓声が上がり、ほかのお姉さん達も、次々とにおい嗅いでゆきます。


「ほんと、臭くないわ」

「そうね、ほんのり生姜っぽい香りがするかも?」

「確かに……」


 美肌ポーションのにおいを嗅いだお姉さん達が、次々と感想を述べました。


「ひょっとして、これって、水龍ちゃんの治癒ポーションの代わりになるかも?」

「えっ!? ほんと!?」

「確かに、美容効果が期待できるかも」

「救世主キター!」

「すてき!」


 お姉さん達は、愛飲している水龍ちゃんのポーション入りドリンクの代わりになるかもという話で、またまた盛り上がりました。


「お前達、期待に胸を膨らませるのもいいのじゃが、そいつの値段がどれくらいか考えておるのかい?」

「「「「あー……」」」」


 おばばさまに指摘され、お姉さん達は、現実が頭をよぎったのでしょう、ため息にも似た声を漏らしました。


 薬師ギルドで働いているお姉さん達なのですから、水くらげ草がどれくらいの値段で取引されているのかだいたい予想がつくのです。ましてや、臭いにおいの全くしない錬成品であれば、さらに高値で取引されることは容易に想像できます。


「それに、そいつはまだ試作段階じゃからの? 美容効果の検証はされておらんし、副作用の可能性もあるのじゃ。まだまだ安全に使用できるかも怪しいのじゃぞ」

「おばばさま……」

「私達、ちょっとはしゃぎ過ぎたわね……」


 おばばさまに諭されて、お姉さん達は、少し反省したようです。


「まぁ、期待するのも分かるのじゃ。わしも若返りの効果があるのではないかと、ちぃとばかし思うとるしのう。ふはははははは」

「もう、おばばさまったら」

「私も若返りたい!」

「あんたは、十分若いわよ」


 続いて、おばばさまが若返り発言で笑い飛ばすと、沈んだ空気が、再び明るく賑やかなものに変わりました。


「うふふっ、水龍ちゃんも女の子ね。美容効果が見込めるポーションを作っちゃうんだから」

「そうね。商品化されるのが待ち遠しいわ」

「期待してるわね」


 お姉さん達は、期待の眼差しを向けてきましたが、水龍ちゃんは、ちょっと小首を傾げました。


「ん? 商品化するのは、マーサお姉さんよ?」

「「「「えっ!?」」」」

「誰?」


 水龍ちゃんの言葉に、お姉さん達が、驚きの声を上げ、そして、お姉さんの1人がマーサさんとは誰なのかと首を傾げました。


「ふはははは、マサゴロウの事じゃよ。くらげ印のマーサと言えば分かるじゃろ?」

「「「「あー……」」」」


 くらげ印のマーサと聞いて、お姉さん達は、マーサさんが誰なのか分かったようです。


「美容の鉄人ならぬ、美容の変人と呼ばれる、あの……」

「美の追求の為なら悪魔にだって魂を売ると豪語していたという……」

「確かに、あの人ならば、水龍ちゃんの美肌ポーションを使って、是が非でも美容商品を作り出すわね」


 どうやら、お姉さん達の間では、マーサさんは、なかなかの有名人のようです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る