2.水龍ちゃん、部活を始める

第135話 ポーション入りドリンク

 水龍ちゃんは、今日もダンジョンの泉へやって来て、美肌ポーションの研究を続けていました。


「トラ丸ー、お昼ご飯にするわよー」

「なー!」


 水龍ちゃんが呼びかけると、泉の上で遊んでいたトラ丸が、パシャパシャと水の上を駆けて来ます。


 今日のトラ丸は、昨日までとは打って変わって、まるで覚醒したかのように水上歩行が上手く出来て、今では嬉しそうに水上を自由に駆け回って遊んでいるほどです。


「トラ丸、水の上を上手に走れるようになったわね」

「な~♪」


 水龍ちゃんが褒めながら優しくトラ丸をなでると、トラ丸はとても嬉しそうにすりすりしてきました。


「ふふっ、練習、頑張った甲斐があったわね」

「な~♪」


「さぁ、ご飯を食べましょ」

「なー!」


 今日のお昼ご飯は、ダンジョン村の屋台で買い揃えてきた おにぎりと唐揚げ、野菜たっぷりのスープです。


 薬師ギルドへ行くことがなくなったため、水龍ちゃんとトラ丸は、朝早くに家を出て、ダンジョン村の屋台へ立ち寄って来たのです。ちなみに、トーマスさんのところの特性バゲットサンドは、朝食に頂きました。


「おいしいね~♪」

「な~♪」


 水龍ちゃんもトラ丸も揃っておかかのおにぎりを美味しそうに食べます。お皿に乗ったゴロンと大振りな唐揚げは、とても食べ応えがありそうです。


 そして、野菜のスープは、水筒に入るように野菜が小さく切られていて、水龍ちゃんが魔法で温めたため、あったかスープがいただけます。


「なー」

「ん? 美肌ポーションはどうかって? 生臭い匂いを出さずにポーション錬成する方法はつかめたけど、ポーションの美肌効果? というのが良く分かんないのよね」


「なー?」

「味? 味はね、ちょっとピリッとする感じかな。直接飲むものじゃないみたいだから研究すべきかどうか悩みどころよね」


 もぐもぐと、おにぎりや唐揚げを食べながら、トラ丸と水龍ちゃんは、美肌ポーションについて話します。


 これまでの研究で、水龍ちゃんは、生臭い匂いを元から絶つことが出来ていて、当初の狙いは達成したのですが、錬成した美肌ポーションの効果については、実のところさっぱりなのです。


「こんなもんかなっていう試作品を2種類作ってみたから、それをマーサさんに渡して効果のほどを確かめてもらって、良ければ販売することになるのかな?」


 水龍ちゃんは、美肌ポーションの商品化について呟きました。


「あー、でも、マーサさん、プリンちゃんに呼ばれてから、そのまますぐに帰っちゃったらしいのよね。そのうち、また来るって、ばばさまが言ってたけど、いつ頃来るかしら……」


 水龍ちゃんは、思い出したように呟きます。美肌ポーションについては、マーサさんが購入したいというので研究を続けてきたため、今のところ他に売るような相手はいないのです。


 お昼ご飯を食べ終えた水龍ちゃんは、テキパキと荷物を片付けました。今日の目標は2種類の試作ポーションをポーションバックいっぱいに作る事だったので、食事の前に全て終わらせていました。


「トラ丸、まだ時間があるから、何か素材を探しながら帰りましょうか」

「なー」


 水龍ちゃんとトラ丸は、泉を後にすると、良さそうな素材を探しながら、帰路につくのでした。




 水龍ちゃんとトラ丸が帰宅すると、お客さんが来ていて家の中が賑やかでした。


「「「「お帰りなさーい」」」」


 薬師ギルドのお姉さん達が、リビングへ顔を出した水龍ちゃんとトラ丸へ、一斉に声を掛けてくれました。


 実は、水龍ちゃんとおばばさまが薬師ギルドを退会した後、薬師ギルドお姉さん達は仕事終わりに水龍ちゃんを訪ねて来て、新型治癒ポーションの在庫があれば譲って欲しいとお願いしてきたのです。


 もちろん彼女たちは、美容のために新型治癒ポーションを薄めて飲むことが目的ですが、その情熱は熱いものがあります。


 そんな逞しいお姉さん達に、おばばさまは微笑みながら、販売は出来ないが、お茶の代わりに出すくらいなら構わないだろうと告げたのです。


 それから、薬師ギルドのお姉さん達は、仕事が終わると、おばばさまを訪れて来ることになったのです。もちろん、おばばさまの了解を勝ち取ってのことです。


「水龍ちゃんもポーション入りドリンク飲む?」

「ハーブブレンドが美味しいわよ。私のお勧めはレッドブレンドね」

「イエローブレンドもいけるわよ」

「果実水に入れても美味しいのよ」


 お姉さん達が、和気あいあいとポーション入りの飲み物を勧めてきました。お姉さん達は、美容のためとはいえ、複数のハーブをブレンドした市販のハーブティーや果実水でポーションを薄めて楽しんでいるのです。


「私は、ポーションなしの普通のハーブティーがいいわ」

「なー」


「そうよね。水龍ちゃんは、お肌プルプルだから必要なさそうね」

「お肌の悩みがなさそうで羨ましいわ」


 水龍ちゃんとトラ丸が、素直に普通のハーブティーを望むと、お姉さん達は、水龍ちゃんの瑞々しい肌に納得顔でレッドブレンドのハーブティーを入れてくれました。


「水龍ちゃんは、今日はどこへ行ってきたの?」

「ダンジョンで、美肌ポーションの試作をしてきたんですよ」


「「「「美肌ポーション!?」」」」


 お姉さんからのなにげない問いかけに、水龍ちゃんが素直に答えた途端、お姉さん達の驚く声が重なり、一気に注目を集めてしまうのでした。

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