第133話 特許審査の行方

 薬師ギルド会員の退会手続きを終えた水龍ちゃんとおばばさまは、私物をまとめて出て来た元薬師ギルドマスターと共に、薬師ギルドを後にしました。


 そして、商業ギルドへと向かいました。新型治癒ポーションの販売は、商業ギルド主催による競売形式で各商会へと販売しているため、特許取得ができなかったことを報告し、今後の対応を決めなければならないのです。


 特許取得ができなかった理由については、元薬師ギルドマスターが、商業ギルドの関係者も含めて、まとめて話を聞かせてくれるそうです。


 商業ギルドでは、シュリさんが素早く応接室へと案内してくれて、商業ギルドマスターのプリンちゃんも来てくれました。


「さっそく話を聞かせてもらおうかー!」

「うむ。水龍が開発した新型治癒ポーションの特許審査についてだが、——」


 プリンちゃんが、応接室へ来てすぐに話を始めるように促すと、元薬師ギルドマスターが特許審査の話を始めました。


 新型治癒ポーションの特許審査は、薬師ギルド本部の特許審査部で行われていて、他から類似する特許申請もなく、特許審査部でも特許取得が確実視されていたといいます。


 しかし、先日、薬師ギルドの幹部から、薬師ギルドで秘密裏に開発が行われていた次世代ポーションレシピと酷似すると申し立てがあったというのです。


 さらに、今日説明に来ていた幹部は、新型治癒ポーションの特許申請者である水龍ちゃんが、まだ年端もいかぬ子供であり、ポーション開発は無理だから、薬師ギルドで開発したものが特許を取るのが妥当だとまで言っていたそうです。


 そして、その次世代ポーションレシピは特許申請されておらず、特許審査部も把握していなかったのですが、薬師ギルドでの開発は、常に特許申請しているものとして扱うべきだというのです。


 結局、特許審査部を含め、薬師ギルド本部の役員会で議論した結果、幹部たち役員会の重鎮達による賛同で、薬師ギルドの開発品については、優先的に特許申請してあるものとすると決まったそうです。


 なので、薬師ギルドが開発したという次世代ポーションが特許を取得することは確実で、水龍ちゃんが開発した新型治癒ポーションは、それと酷似するとして特許取得は叶わないということでした。


「なんだ、その茶番はー! 後だしジャンケンじゃないかー!」

「まさしく、どんな特許も申請された後で薬師ギルドで開発していたとすれば、全て薬師ギルドの特許となりますな」


 話を聞いて、プリンちゃんとシュリさんが、プリプリしながら、不正し放題だと指摘しました。


「そこは、私も指摘したのだが、薬師ギルドで不正を行うことなどありえないと言い張られたよ」

「まったく、薬師ギルドの上層部には馬鹿が多いと思ってはおったのじゃが、ここまで腐りきっておったとはのう……」


 元薬師ギルドマスターが、プリンちゃん達と同様の指摘をした時の話をすると、おばばさまは、眉間に深く皺を寄せて薬師ギルドの腐敗を嘆きました。


「薬師ギルドのことは、置いといてだー! まずは、新型治癒ポーションの製造販売を中止しないとなー!」

「特許取得が出来ないとなると、致し方ありませんな」


 プリンちゃんとシュリさんが、現実的な話を始めました。特許の取得が出来なかったばかりか、薬師ギルドが開発したと主張する次世代ポーションが特許を取得した場合のことが心配です。


「はっ!? まさか、高額請求されるのでは!?」


 そこで、ようやく水龍ちゃんが、青ざめた顔で声を漏らしました。仮に特許訴訟となれば、そこそこの損害賠償を請求されることも考えられます。


「そこは、安心してくれ。薬師ギルド側が、これまでの製造販売については特許訴訟は起こさないと明言した。幹部のクソジジイも、すぐに製造販売を停止すれば不問にすると言っていた」

「そうなんですね。よかったぁー」


 元ギルマスの口から、高額請求は無いと聞いて、水龍ちゃんは、ほっと胸をなでおろしました。


「それでは、競売は中止ということで、私の方から関係各所へ連絡いたしましょう。あとは、在庫の取り扱いですな」

「そーだなー! ついでに毒消しポーションの扱いについても決めるぞー!」


 シュリさんとプリンちゃんが、新型治癒ポーションの販売停止へ向けて再び話を始めましたが、なぜか毒消しポーションの話まで浮上しました。


「ん? 毒消しポーションの扱いって?」

「それはだなー! ——」


 頭にハテナを浮かべた水龍ちゃんに、プリンちゃんが説明してくれました。


 プリンちゃんの説明によると、現状、新型治癒ポーションの競売に合わせて、毒消しポーションも競売を行っているのですが、最近は、赤毒、青毒、どちらの毒消しポーションも価格が落ち着いてきているというのです。


 なので、商業ギルドとしては、競売をやめて、最近の価格をもとに卸売り価格を設定してエメラルド商会から各商会へ販売してはどうかと考えていたそうです。


 水龍ちゃんは、なるほどと、商業ギルドの提案を受け入れ、エメラルド商会の了承が得られれば、毒消しポーションの競売はやめることに決まりました。


「在庫の件は、水龍様には申し訳ないのですが、生産者側へと返品し、その分の代金を返金いただくという形になるかと思います」

「そうね。商業ギルドやエメラルド商会に迷惑はかけられないわ」


 シュリさんの意見に水龍ちゃんも同意し、在庫の件もあっさりと決まりました。こちらもエメラルド商会の了承を得てから、新型治癒ポーションの在庫の返品を開始することで話はまとまりました。

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