第131話 薬師ギルドのお偉いさん

 水龍ちゃんとトラ丸は、賑わう朝のダンジョン村の屋台巡りを満喫してから帰路につきました。


 帰宅後、今度は薬師ギルドへと向かいます。いつもより遅くなりましたが、治癒ポーションの買い取りをしてもらうためです。


「こんにちはー」

「なー」


 水龍ちゃんとトラ丸が、いつものように陽気に挨拶をしながら薬師ギルドへ入りましたが、今日は何やらようすが違うようです。何というか、職員のお姉さん達がちょっと困った顔をしています。


「ようやく来たかのう」

「ばばさま。何かあったの?」


 おばばさまが、受付から出て来て声を掛けて来たので、水龍ちゃんは、単刀直入に尋ねました。いつもならば、おばばさまは受付になど出て来ないので、その辺りにも違和感を覚えます。


「それがのう、薬師ギルドの本部から偉いさんが来とって、ちと困ったことになっておるのじゃ」

「困った人が来たってこと?」


 おばばさまが、うんざりした顔で言うと、水龍ちゃんは、小首を傾げて問い返しました。


「お前さんにも関係あることじゃぞ」

「えっ? どういうこと?」

「なぅ?」


 水龍ちゃんに関係ありと聞いて、水龍ちゃんもトラ丸もちょっと驚いたようです。


「そうじゃ、お前さんが開発した新型治癒ポーションじゃが、特許が取れなかったというのじゃ」

「えっ? そうなの?」


 続くおばばさまの言葉に、水龍ちゃんは、きょとんとした顔で目をパチクリさせました。


 以前、水龍ちゃんが、飲みやすい治癒ポーションを作ろうと、試行錯誤した末に辿り着いた新型治癒ポーションですが、ここロニオンの街の薬師ギルドマスターにより特許申請をしていたのです。


 そして、特許審査の一環として特許審査部トップの前で、新型治癒ポーションの作成をお披露目したとき、特許申請中ということで製作販売しても良いと言われて、現在生産しているのです。


 薬師ギルド本部の特許審査部トップからお墨付きを得ていたため、特許取得は間違いないだろうと思われていました。


「今、ギルマスが詳しい話を聞いとるところじゃよ」

「う~ん、何がどうなってるのかしらね」

「なー」


 水龍ちゃんもトラ丸も、意外と落ち着いたようすで小首を傾げました。


 そこへ、ギルドの奥にある応接室の1つから、お偉いさんっぽい人達がギルマスと共に出て来ました。そこには、以前会った特許審査部トップの男の姿もあります。


 特許審査部トップの男は、水龍ちゃんの姿を見つけると、隣の偉そうにしている老人へ何やら言っていました。


 すると、偉そうな老人は、水龍ちゃんへと視線を移し、ニヤリと口角を上げて近づいてきました。


「ぐふふふふ、こんな子供が新たなポーションを開発したなどとは、やはり信じられぬな」


 偉そうな態度の老いた男は下卑た笑い声を漏らし、水龍ちゃんを見下ろしながら、そう言いました。


「しかし、ポーション作りの腕前はなかなかのものでして……」

「ふん、少しばかしポーション作りが出来たとて、そこは子供よ。まともにポーション開発など出来るわけがあるまい」


 特許審査部トップの男が、へりくだった言葉遣いで、水龍ちゃんの腕前を告げましたが、偉そうな老人は、鼻を鳴らしてまともに聞こうとはしませんでした。


 特許審査部トップという立場の男が気を使っている姿をみると、この老人が、おばばさまの言う薬師ギルド本部のお偉いさんなのでしょう。


「だいたい、こんな子供を薬師ギルド会員にするなど、言語道断。今すぐ薬師ギルドの会員資格を剥奪する」

「ええっ!?」


 突然、薬師ギルドの会員資格剥奪宣言をされて、水龍ちゃんは驚きの声を上げました。ギルドの職員達も皆驚いています。


 すかさず、薬師ギルドマスターが声を上げました。


「さすがに、それは横暴が過ぎるぞ!」

「薬師ギルド幹部のわしが決めたことだ! 異論は認めん!」


「ギルドの幹部とて、何をやっても良いわけではない! 今すぐ撤回すべきだ!」

「ぐぬぅ、貴様、あくまでわしに盾つく気か……」


 薬師ギルドの幹部だという老人を諫めるギルマスに対して、幹部の老人は苦虫を噛みつぶしたような顔で睨みつけました。


「ふん、盾つくとは心外だな。ギルド上層部の横暴な振る舞いを目の当たりにして、やめるべきだと進言しているだけなのだが?」

「ぐぬぬぬぬぅぅぅ、言わせておけば、この小娘が! もう堪忍袋の緒が切れたわ! 貴様はクビだ! 今すぐギルドを出て行くがいい!」


 ギルマスが鼻を鳴らして反論するも、幹部の老人は激しく怒りを爆発させて、ギルマスへ一方的に解雇を突き付けてきました。


 皆が驚き目を見開く中、いち早く口を開いたのは、特許審査部トップの男でした。


「なっ!? ギルマスをクビにするなど、本部の者達も黙っていないでしょう。大丈夫なのですか!?」

「ふん! 本部の方には、あらかじめ こうなる可能性は伝えてある。その場合、当面、わしがギルマスを兼務することになっておるわ」


 慌てた物言いの特許審査部トップの男に対し、幹部の老人は、口角を上げて勝ち誇ったような顔で答えました。


「そんな横暴が――」

「ふはははははは、笑わせてくれるのう」


 ギルマス、いえ、元ギルマスが、怒気をはらんだ抗議の声を上げ始めたところで、その声を遮るように、おばばさまの高らかな笑い声が響き渡り、皆の注目を一気に集めるのでした。

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