第130話 ダンジョン村の屋台

 いつもよりも早起きした水龍ちゃんは、トラ丸と一緒にダンジョン村へとやって来ました。今日は、トーマスさんが肝いりで立ち上げた毒消しサンドの屋台がオープンするのです。


「うわぁ、たくさんの屋台が出ているわね」

「なー」


 ハンターギルド出張所前の広場では、ダンジョン入口方面へと向かって、たくさんの屋台が立ち並んでいます。


 この広場は、夕方にはダンジョンから帰って来たハンター達が、商人たちと魔物素材の買い取りを行っていて大変賑わう場所なのですが、朝は、こうして屋台が立ち並び、ダンジョンへ入るハンター達へと食事やお弁当、ポーションなどを販売しているのです。


 水龍ちゃんは、いつも薬師ギルドでポーションの買い取りを済ませてからダンジョンへとやって来るので、その頃には多くの屋台は片付けられていて、こんなふうに屋台が立ち並ぶ光景を見ることはありませんでした。


「ふふっ、いろんな屋台があるわね。食べ物屋さんが多いけど、ポーションを売ってる屋台もあるのね」

「なー」


「そうね、おいしそうな匂いがしてきて、たまらないわね」

「なー」


「なんか食べようって? だめよ。まずは、トーマスさんの屋台を探さなくっちゃ」

「なぅぅ……」


 水龍ちゃんは、串焼きや唐揚げ、焼き魚など、屋台からの美味しそうな匂いに誘われるトラ丸を抱え上げて、お目当ての屋台を探し回ります。


「あ、トーマスさんだわ」

「なー」


 水龍ちゃんが、トーマスさんの姿を見つけました。トーマスさんは、すこし離れたところから、屋台のようすを笑顔で見つめていました。


 屋台の上には、大きく『バゲットサンド』と書かれたの看板がかけられ、『毒消しサンドあります!』の文字も目立ちます。


「おはようございます、トーマスさん」

「なー!」

「これはこれは、水龍ちゃんではないですか。おはようございます。これからダンジョンへ入られるのですか」


「いえ、今日は、オープンしたばかりの毒消しサンドの屋台を見に来たんです」

「そうでしたか。こんな朝早くから来ていただき、ありがとうございます。毒消しサンドを目当てに、早朝からちらほらとお客さんが見えておりますよ」


 トーマスさんは、とても楽し気に屋台の立ち上げ状況を話してくれます。今もハンターが2人、屋台で注文をしています。


「各種毒消しサンドも用意しておりますが、それ以外の品もありますので、是非とも覗いて行ってください」

「はい」

「なー」


 トーマスさんに案内されて、水龍ちゃんとトラ丸は、屋台へと近づきました。


「毒消しサンド以外にも、ここでは好きな具材を選んで、お好みのバゲットサンドを楽しむことができるのですよ」


 屋台には、厚切りハムや焼き魚、ゆで卵にチーズ、ブロッコリーや青菜炒めのような惣菜まで、全部で10種類の具材が用意されています。


「うわぁ、どれもおいしそうね」

「な~♪」


 小さな水龍ちゃんでも何とか見える高さに並べらた具材たちをみて、水龍ちゃんと彼女の肩に乗ったトラ丸は、ちょっとテンション高めです。


「具材は1つだけでなく、複数の具材を選んでもらうのがお勧めで、特性マヨソースをかけてお出ししております」

「えっ!? それじゃぁ、ハムタマチーズサンドとか、三色サンドとか頼めるってことじゃない?」

「なー!」


 続くトーマスさんの説明に、水龍ちゃんもトラ丸もテンション上げ上げで、瞳をキラキラと輝かせています。ハムタマチーズサンドは分かりますが、三色サンドの具材はちょっと謎です。


「具材ごとに料金が設定されていて、頼んだ具材の分だけ加算され、ベースのバゲット料金と合わせてお支払いいただく形になります」

「なるほど! さっそくお願いします!」

「なー!」


 トーマスさんからの説明が一段落したところで、さっそく水龍ちゃんが、注文を始めました。


 水龍ちゃんは、厚切りハムとゆで卵、ブロッコリー、チーズを挟んでもらい、特性マヨソースをかけたハムタマチーズサンドにしました。


 トラ丸は、焼き魚と厚切りローストチキンを主張しましたが、水龍ちゃんに、野菜も食べなくちゃダメよ、と青菜炒めを追加されて、特性タルタルソースをかけてもらいました。


「いただきまーす!」

「なー!」


 水龍ちゃんとトラ丸は、トーマスさんの計らいで、屋台の後ろに設置された作業用のテントの一角を借りて食事をさせてもらいました。


「ん~、お~いし~い♪」

「な~♪」


 水龍ちゃんもトラ丸も幸せいっぱいの笑顔で特性サンドを頬張ります。そんなようすに、トーマスさんも従業員さんも微笑み顔です。


「もう少しすれば、多くのハンター達がダンジョンへと向かいます。彼らは、朝食を食べたり、お弁当を買ったりと、屋台を利用してくれますから忙しくなりますよ」


 トーマスさんは、人が増えつつある広場をみながら、とても嬉しそうに呟きます。きっと商売をするのが楽しいのでしょう。


「なにかお手伝いしましょうか?」

「それには及びませんよ。従業員たちが、きちんとお客様の対応をできるかも見極めねばなりませんからね。今日は私も手を出さずに見ているつもりです」


 水龍ちゃんの申し出に、トーマスさんは嬉しそうに微笑みながらも丁寧に手伝いが不要な理由を添えてお断りしてきました。


「なるほど。いろいろ考えてるんですね」

「いやはや、これも商売の醍醐味というものですよ」


 納得顔の水龍ちゃんに、トーマスさんは、にっこり笑顔で答えました。


 しばらくすると、どんどんハンター達が集まって来て、広場は大賑わいです。もちろん屋台も大忙しで、毒消しサンドも売れています。


 具材を選べるバゲットサンドも好評で、トーマスさんは、ほくほく顔でした。

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