第128話 濃いめ

 商業ギルドの応接室で、トーマスさんが用意した4種類の毒消しサンドを試食した水龍ちゃん達は、その美味しさに大満足でした。


「毒消しマヨネーズを使って作った新商品のお味はどうでしたか?」


 ひと通り毒消しサンド食べ終えた後、皆で紅茶を飲みながら一息ついていると、トーマスさんがにっこり笑顔で尋ねてきました。


「あたしは、焼肉サンドが好きだぞー! ちょっと辛みの効いたソースがうまかったなー!」

「なー!」

「ふふっ、トラ丸は、フィッシュフライサンドがとても美味しかったのね」


 プリンちゃんとトラ丸が勢いよく答えると、トーマスさんは、とても満足そうな顔でうんうんと頷きます。


「私は、ピリ辛ツナサンドが良かったですな」

「ツナマヨかー! ちょっと辛みが強くなかったかー?」

「そうね、おいしかったけど、すこし辛かったかも」


 続いてシュリさんが、ツナサンドの味を思い出すように語ると、プリンちゃんと水龍ちゃんから少し辛みが強いとの意見がでました。


「いえいえ、あれくらいの辛さがちょうど良いのですよ」

「「ええー」」


 どうやら、シュリさんは少し辛さが強い方が好きなようで、プリンちゃんと水龍ちゃんは控えめな方が良いようです。


「いやはや、今回用意したツナサンドはですね、赤毒マヨネーズをベースにさらに辛みを加えたものでして、シュリさんのように少し辛めの味がお好きな方へ向けて作ったのですよ」

「確かに、絶品でしたな」


 トーマスさんの説明に、シュリさんが、とてもいい笑顔で頷きます。プリンちゃんと水龍ちゃんは、そんなものかな、と顔を見合わせました。


「それでですね、今回試作品を作った者達から もう少し辛みが強くても良いので毒消し成分の濃い毒消しマヨネーズが欲しいと提案がありました」

「毒消し成分を濃くするんですか?」


 トーマスさんの話に、水龍ちゃんは、目をパチクリさせました。


「はい、毒消しマヨネーズを少なめにしたソースやタレを作りたいとのことでして、今のままでは、1食分にすると毒消し成分が足りないのだそうです」

「なるほどー! 毒消し成分の濃いマヨネーズがあれば、上手いこと調整できるということだなー!」


 続くトーマスさんの話で、プリンちゃんは、なるほどと、生産者たちの意図するところを指摘しました。


「その通りです。毒消し成分の濃いマヨネーズならば、卵サンドを作りたいときには普通のマヨネーズを加えて毒消し成分を調整すれば良いのです」

「分かりました。一度サンプルを作ってみましょう」


 トーマスさんが、具体例を話してみせたところで、水龍ちゃんは、笑顔で濃いめの毒消しマヨネーズを作ってみることを了承しました。


「ありがとうございます。上手くいけば、さらに毒消し料理の幅が広がりそうです」

「私の方もマヨネーズの量が減って、作るのが楽になりそうだわ」

「運搬も楽になるから、良いことずくめだなー!」


 お礼を言うトーマスさんに、水龍ちゃんが自分にも利点もあると告げると、プリンちゃんが良いことずくめだと話をまとめました。


 その後、どれくらいの毒消し成分量が良いのかという話になり、とりあえず、2倍と3倍、そして5倍の毒消し成分を混ぜ込んだマヨネーズを赤毒、青毒それぞれ試作してみることに決まりました。


 そして、今日試食した毒消しサンドに卵サンドを加えた商品を販売する方向で話がまとまりました。


 濃いめに作る毒消しマヨネーズの確認と、各商品の毒消し効果の確認が出来次第、販売を始めたいとのことで、トーマスさんの方では、ダンジョン村で屋台販売する予定で準備を進めるそうです。


 楽しい試食会が終わり、トーマスさんが帰って行くのを見送って、水龍ちゃんは応接室へ残ってシュリさんと向かい合い、バックパックから帳簿と伝票を取り出しました。


 個人経営を始めたばかりの水龍ちゃんは、こうしてときどき帳簿に間違いがないかをシュリさんに見て貰っているのです。


 なぜかプリンちゃんも残ってトラ丸と静かに遊んでいますが、水龍ちゃんもシュリさんも気にする様子はありません。


 シュリさんは、真剣な眼差しで帳簿と伝票を照らし合わせて確認してゆくと、ひと通り目を通した後に、にっこり笑顔を見せました。


「問題ありません。丁寧に帳簿を付けられているようで安心です」

「えへへ、確認ありがとうございます」


 特に間違いも無かったようで、水龍ちゃんも嬉しそうです。

 そこへ、トラ丸と遊んでいたプリンちゃんが、声を掛けて来ました。


「シュリー! マーサのところの経営状況を調べておいてくれー!」

「ふむ、くらげ印のマーサ様のところですかな?」


「そうだぞー! 今度、水龍ちゃんが取引きを始めそうだからなー!」

「なるほど。かしこまりました」


 プリンちゃんからの指示に、シュリさんは、恭しく一礼して承諾しました。そんな2人のやり取りに、水龍ちゃんとトラ丸は、話の意図が見えないようで頭にハテナを浮かべていました。


「えーっと、私の名前が出たんだけど、ちょっと状況がのみ込めないわ」

「マーサの奴は、腕はいいけど、いろいろポンコツだからなー! 普通に取引して大丈夫かどうか、調べておくんだぞー!」


 水龍ちゃんが、説明して欲しそうに言うと、プリンちゃんはトラ丸をあやしながら陽気に教えてくれるのでした。

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