第126話 研究中ですよ?

 水龍ちゃんは、マーサさんから美肌ポーションを売って欲しいと熱望されました。


「えっと、その美肌ポーション? ですけど、まだ研究中ですよ? もう少し待ってもらえますか?」

「あらん♡ 昨日の美肌ポーションで十分に優れた効果があったわよん♡ においも全然しないし、もう完璧だと思うわん♡ あれで研究中だなんて、どこに研究要素があるのか聞いてみたいわねぇん♡」


 水龍ちゃんが率直に話すと、マーサさんは、興味津々な様子で尋ねてきました。


「まだ、少し生臭いにおいがするんですよね。そこんところをもう少し何とかしたくて今日もダンジョンに入って研究してきたんですよ」

「んまぁ♡ さらに高みを目指すなんて、さすがはお肌の天使ちゃんねぇん♡ ねぇねぇ、今日、研究してきたっていう美肌ポーションがあれば、見せて貰えないかしらん♡」


 水龍ちゃんが、研究ポイントを話すと、マーサさんは胸の前に手を組んで感激し、研究中のものを見たいと言いだしました。


 マーサさんが、水龍ちゃんがダンジョンへ入って研究しているところに疑問を持たないのは、水龍ちゃんを待っている間におばばさまから話を聞いていたからなのでしょう。


 水龍ちゃんは、にっこり笑顔を見せると、バックパックからポーションケースを取り出して、テーブルの上へと置きました。


「今日、試作してみた美肌ポーション? ですよ。昨日のに比べて生臭さは抑えられたんだけど、もう少しいろいろ試してみたいわ」


 水龍ちゃんは、ポーションケースを開けながら研究状況を簡単に説明しました。ポーションケースの中には、美肌ポーションがキラキラとしています。


 マーサさんは、すてき♡ と呟きながら、うっとりと美肌ポーションを見つめ、おばばさまは、うんうんと感心しきりに頷いていました。トラ丸は、いつの間にやらポーションケースの隣にちょこんと座ってドヤ顔です。


「ねぇねぇ、この素敵な美肌ポーションちゃんたちって、これからどうするつもりなのん♡」

「とりあえず、ポーション鑑定魔道具に掛けてみてから、何日か時間を置いて変化がないか観察しようと思っているわ」


 マーサさんが、なぜかもじもじしながら質問してきたので、水龍ちゃんは、淡々と答えました。そして、なぜかおばばさまが、呆れた顔でマーサさんのようすを見ています。


「さすが、お肌の天使ちゃん♡ 水くらげ草の花って、時間と共にどんどんにおいが強くなってゆくものねぇん♡ でも、でもぉ、これ全部で試さなくてもいいんじゃないかしらん♡」

「う~ん、そうかも?」


「そうよん♡ でね、でねぇ、いくつか時間経過による変化を調べる分を残して、余った分を譲って欲しいのよん♡」


 やはりというか、マーサさんが、研究中の美肌ポーションを欲しがってきました。


「まぁ、いいですけど……」

「ほんと!♡ 嬉しいわぁん♡ さっすが、私の天使ちゃん♡」


 水龍ちゃんが、仕方がないなと了承すると、マーサさんが、飛び上がるほどに喜びました。


「まだまだ研究中なので、このあと、ポーションの効果が変化する可能性がありますけど、そこのところは了承してくださいね」

「うふふっ♡ もちろんよん♡ 私の方も美肌ポーションの可能性について、いろいろ研究してみるわねん♡」


 水龍ちゃんが、懸念点について、しっかり釘を刺すと、マーサさんは、嬉しそうに了承して胸を躍らせていました。


 水龍ちゃんは、まずはポーション鑑定をしてくると告げ、マーサさんに待ってるわん♡ と陽気に送りだされて、トラ丸と調合室へと向かいました。


 てっきりマーサさんが、ポーション鑑定について来るかと思われましたが、どうやらそんな気は無かったようです。


 水龍ちゃんが、調合室にあるポーション鑑定の魔道具へ美肌ポーションを1つセットしてスイッチを入れると、キュイーンと甲高い音が鳴り、魔道具正面のアナログメーターがゆるゆると動き出し、しばらくしてピロリロリ~ン♪と鑑定完了を告げる音が鳴りました。


「う~ん、かろうじて5級かしら。全然反応しないのね」

「なぅぅ……」


 結果を受けて、水龍ちゃんが残念そうに呟くと、トラ丸もしょんぼり顔です。

 残念な結果ですが、一応、水龍ちゃんは、持ち帰った全ての美肌ポーションを鑑定してメモ用の紙へと記録しました。



「ポーション鑑定結果はどうだったかしらん♡」

「どれもかろうじて5級ってところだったわ」


 リビングへ戻り、マーサさんの問いに、水龍ちゃんは残念そうに肩を竦めて答えました。


「まぁ、順当な結果ね♡ ポーション鑑定の魔道具自体が、治癒ポーション用に作られているのだから当然といえば当然なんだけどねぇ♡」

「毒消しポーションの鑑定も同じ魔道具を使ってますよ?」


 マーサさんの言葉に、水龍ちゃんが、あれ?という顔で疑問を投げかけました。


「ふふっ♡ それは、たまたま毒消しポーションでも等級と効果に相関関係が確認できたから流用できたってだけなのよん♡」

「ほうほう」


「だから、ダンジョン産のハイポーションを鑑定しても5級という結果が出ちゃうらしいわよん♡」

「なるほど」


 マーサさんの説明に、水龍ちゃんは、相槌を打ちながら、そういうことかと納得顔です。


 そんな水龍ちゃんに、マーサさんは、素直な天使ちゃん♡ 素敵よん♡ と感激していたのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る