第125話 美肌ポーション?

 お昼ご飯を食べ終えた水龍ちゃんは、再び水くらげ草のポーション錬成研究を続けるようです。トラ丸は、お腹が膨れて元気が出たようで、再び水上歩行の練習を始めました。


「う~ん、ばばさま特性ハーブがダメだったのは痛いわね。あと、準備してきたのはブルーライムくらいだわ」


 水龍ちゃんは、バックパックからブルーライムと小皿を取り出して、ナイフでブルーライムを半分に切るとぎゅっと絞って小皿へ果汁を取りました。


 そして、計量スプーンを使ってブルーライムの果汁を錬金釜へ量り入れると、錬金釜を片手に、パシャパシャと水の上を歩いて行き、水くらげ草の花を取ってきてポーション錬成を始めました。


 水龍ちゃんが、魔力を込めながら青い掻き混ぜ棒でゆっくりと混ぜてゆくと、錬金釜の中は淡い光に包まれて、水くらげ草の花がぽわわと淡い水色の光を発しながらゆっくりと溶けて消えてゆきました。


「よし、出来たわ。においの方は、すんすん、うん、ブルーライムの香りが生臭さを和らげているみたいだけど、まだ少し生臭さを感じるわね」


 水龍ちゃんは、ちょっと残念そうに呟くと、メモ用の紙に実験結果を記録して、ブルーライムを加えて作ったポーション錬成品をポーション瓶へと移し入れて錬金釜と掻き混ぜ棒を綺麗に洗いました。


「う~ん、ほかに臭み取りの材料は持ってきていないのよね。酢とお酒、ブルーライムの量を変えて実験してみようかしら」


 水龍ちゃんは、素材の分量をいろいろ変えて実験を繰り返すことにしたようです。

 単純に酢やお酒の使用量を増やしてみたり、複数の素材を投入してみたりと、思いつくままにいくつもの実験を行ってゆきました。



「なー」

「ん? 休憩?」


 トラ丸の呼び声に、休憩かと思った水龍ちゃんでしたが、トラ丸がつんつんと前足で敷物の上に置かれたバックパックをつついています。


「なー」

「あら、もうこんな時間なのね。時間が経つのは早いわね」


 トラ丸がつついていたのは、バックパックにつけていた時計で、もうそろそろ帰る時間を示していたため、水龍ちゃんは実験の手を止めました。


「教えてくれてありがと」

「なー」


 水龍ちゃんは、お礼を言うと、濡れていたトラ丸の体を乾かしました。それから、テキパキと後片付けをして帰路につきました。







「ただいまー」

「なー」

「お帰りなさ~い♡」


 家に着いた水龍ちゃんとトラ丸が、玄関扉を開けて中に入ると、ドタドタと足音を鳴らしてマーサさんが出迎えてくれました。


「マーサお姉さん、来てたんですね」

「なー」

「ええ♡ お肌の天使ちゃんを待ってたのよん♡」


 なんだか、マーサさんは、とても嬉しそうです。


「私ですか? ということは、水くらげ草を使ったポーションの件ですか?」

「うふっ♡ そうなのよん♡ 詳しくはお茶を飲みながら話しましょ♡ さぁ、上がってちょうだい♡」


 やはり、水くらげ草のポーション錬成品のことのようでしたが、マーサさんは、なぜか自分の家のように水龍ちゃんを招き入れるのでした。


 リビングへ向かうと、おばばさまがお茶を飲んでいました。


「うふっ♡ 美味しいお茶を用意するから座っててちょうだい♡」

「えっと……」

「まぁ、好きにさせておくとええ」


 まるでお客様のように扱われて、ちょっと戸惑う水龍ちゃんに、おばばさまが、呆れ顔で放っておけと言います。水龍ちゃんが、少し気にしたようすでソファーに腰かけると、トラ丸が膝の上に乗ってきました。


「あ奴は、昔っから世話を焼くのが好きじゃからのう。本人が好きにやってるのじゃから、放っておくのが一番じゃよ」

「そうなんだ」


 おばばさまから、マーサさんの世話好きは昔からと教えてもらい、水龍ちゃんは、少しほっとしたようすで、膝の上のトラ丸をなでました。


 どこか楽しそうにお茶を入れてくれたマーサさんは、おばばさまにも追加のお茶を勧めると、自身のカップにも追加のお茶を注ぎ入れました。


 水龍ちゃんが、バックパックからトラ丸用の小さな深皿を出して、自身のお茶を分け入れていると、マーサさんは、あら、まぁ♡ と言いながら、水龍ちゃんのカップへ追加のお茶を注ぎ入れてくれました。


「それでねぇ、昨日、天使ちゃんに頂いた美肌ポーションを使って、さっそくドロくさパックを作ってみたのよん♡」

「ん? 美肌ポーション?」


 マーサさんが、話し始めてすぐでしたが、水龍ちゃんが、聞きなれないポーションの名前に首を傾げました。


「ええ♡ そしたらねぇ、全っ然嫌なにおいがしなくなって、泥のにおいの方がきついくらいなのよん♡ それでねぇ、さっそくパックしてみたんだけど、これが、もう素晴らしいのなんのって、お肌がプルップルのつやっつやになるのよぉん♡」


 マーサさんが、水龍ちゃんの疑問を軽く流して、新たに試作したドロくさパックの素晴らしさを身振り手振りを交えて嬉々として語ります。


「でね、でね、私、美肌ポーションには、もっともっと可能性があると思うのよん♡ だからね、天使ちゃんに美肌ポーションを売ってもらいたいって、お願いに来たのよん♡ いいでしょ♡ ねぇ♡」


 マーサさんはテンション高く、水龍ちゃんへと、ずずずいっと迫ってきました。


「えっと、美肌ポーションって初めて聞いたんだけど、水くらげ草を使って作ったポーションのことでいいですか?」

「あらん♡ 天使ちゃんが作ってくれた特別なポーションのことよん♡ 私がそう名付けたの♡ 素敵でしょ♡」


 水龍ちゃんが、改めて確認すると、マーサさんは、にっこり笑顔で嬉しそうに答えてくれました。どうやらマーサさんが、勝手に『美肌ポーション』と呼び始めたようです。

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