第124話 臭み取り

 水くらげ草を使ったポーション錬成品の改良を目指す水龍ちゃんは、僅かに臭みのあるポーション錬成品をポーション瓶へと移して錬金釜と掻き混ぜ棒を綺麗に洗いました。


 それから水龍ちゃんは、バックパックから小さな籠を取り出して敷物の上に置きました。籠には、小さな瓶詰めの液体や紙包みが入っています。


 水龍ちゃんは、おばばさまと相談して、臭み取りに効きそうなものを少量ずつ籠に詰めてきたのです。


「まずは、酢を使って臭み取りよ」


 水龍ちゃんは、籠から酢の入った小瓶を取り出すと、計量スプーンを使って錬金釜へと酢を入れ、錬金釜を片手に再び水の上を歩いて水くらげ草の下へ行きました。


 水流操作で水くらげ草を取って錬金釜へと器用に落とし入れると、さらに魔法で出した水を注ぎ入れ、水の上をパシャパシャと泉の畔へ戻ってきました。


 そして、青い掻き混ぜ棒に魔力を込めて錬金釜の中をゆっくりと掻き混ぜると、淡い水色の光とともに、水くらげ草の花がゆっくりと溶けて消えてゆきました。


「よし、いい感じだわ。においの方は、すんすん、う~ん、ほんのり酢の香りの奥に僅かだけど生臭さが残っているわね。だけど、酢を入れないよりはずっといいわ」


 水龍ちゃんは、メモ用の紙へ結果を記録すると、作ったポーション錬成品をポーション瓶へと移し入れて、錬金釜と掻き混ぜ棒を綺麗に洗いました。


「次は、お酒を試してみましょ」


 そう言って、水龍ちゃんは、小さな籠からお酒の入った小瓶を取り出すと、計量スプーンを使って錬金釜へと入れました。


 そして、先ほどと同様に、水の上をパシャパシャと歩いて水くらげ草を取って来てポーション錬成を行いました。


 錬金釜の中では、淡い水色の光とともに、水くらげ草の花がゆっくりと溶けて消えてゆきました。


「よし、出来たわ。においの方は、すんすん、う~ん、僅かなお酒の香りに混じって生臭さも感じるわね。生臭いのは酢を入れた時と同じくらいかな?」


 水龍ちゃんは、生臭いにおいを自分なりに評価すると、お酒の使用量などの条件と共にメモ用紙へと記録しました。


「次は本命、ばばさま特性、臭み取りハーブよ」


 そう言って、次に水龍ちゃんが籠から取り出したのは小さな紙包みで、おばばさまに頼んで分けてもらった特性ハーブです。


 おばばさまが、とある魚の臭み取りにと数種類のハーブをブレンドしたもので、長年改良を重ねて辿り着いたという、スペシャルブレンドハーブなのです。


 さっそく、水龍ちゃんは、紙包みを開けて錬金釜に臭み取りハーブを入れます。あらかじめ、分量を量って小分けに包んでおいたため、計量スプーンの出番はありません。


 そして、先ほどと同様に、水の上をパシャパシャと歩いて水くらげ草を取って来てポーション錬成を行いました。


 錬金釜の中では、細かなハーブが漂う水の中に、淡い水色の光がぽわわと浮かび、水くらげ草の花がゆっくりと溶けて消えてゆきました。


「ん? このにおい、どこかの火山で嗅いだにおいね。生臭くはないけど嫌なにおいだわ。何でこんなにおいになるのかしら?」


 水龍ちゃんは、硫黄臭くなったことに若干顔を顰めながら首を傾げます。臭みを取るためにブレンドしたハーブ類には、硫黄臭くなる要素は全くないはずなのですから全くもって不思議なことです。


「期待していたんだけど、これはダメよね」


 そう言って、水龍ちゃんは、少し離れた岩場の隅へと硫黄臭いポーション錬成品を捨て、錬金釜と掻き混ぜ棒を魔法の水で綺麗に洗いました。


 ちょっと残念そうな顔で、敷物のところへ戻ると、トラ丸がトコトコと歩いてきました。


「なー」

「どうしたの? もう練習は終わり?」


「なー」

「疲れたから休憩? ふふっ、頑張ったみたいね。おいで、乾かしてあげるわ」


 ちょっとお疲れ気味のトラ丸は全身濡れていました。何度も水の上を歩こうと頑張ってみては、ポチャリと水に浸かってしまっていたようです。


 水龍ちゃんは、トラ丸を優しくなでながら、その体を濡らしている水を水流操作で集めてゆきます。トラ丸は、頭の先から徐々に乾いてゆき、気持ちよさそうな顔をみせました。


 あっという間に、トラ丸を乾かした水龍ちゃんは、トラ丸の頑張りを労うように優しく頭をひとなですると、バックパックからお弁当を取り出しました。


「少し早いけど、お昼ご飯にしましょうか」

「な~♪」


 お昼ご飯と聞いて、トラ丸は嬉しそうに鳴き声を上げました。

 水龍ちゃんは、トラ丸用のお皿を取り出して、お弁当を取り分けます。


 今日のお弁当はバゲットサンドで、ゆで卵と野菜類、ツナマヨと野菜類を挟んであります。さらに、トラ丸の大好物のたこさんウインナーも用意してあります。


「いっただっきまーす」

「な~♪」


 さっそくトラ丸は、大好きな たこさんウインナーをもぐもぐと食べ始めました。水上歩行の練習をたくさんしたからでしょうか、いつも以上に勢いよく食べてゆきます。


 そんなトラ丸を微笑ましく見つめながら、水龍ちゃんもゆで卵と野菜を挟んだバゲットサンドを美味しそうに食べるのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る