4.水龍ちゃん、臭み取りに励みます
第123話 水上歩行の練習
水龍ちゃんとトラ丸は、今日もダンジョンへとやってきました。向かう先は、水くらげ草を見つけた泉です。
途中、泉を源流とする川が見えると、トラ丸の目がキラリと光りました。
「なー!」
「ちょっと待って! 蝶ネクタイは外しておいた方がいいわ」
トラ丸が、歩くぞー! と張り切って飛び出したところを 水龍ちゃんが素早くキャッチして、トラ丸の蝶ネクタイを外しにかかります。
水上歩行の練習中に蝶ネクタイが濡れてしまっては大変です。水龍ちゃんなら、すぐに乾かすことも出来ますが、濡れない方がいいに決まっています。
「さぁ、これでいいわ。頑張ってね、トラ丸」
「なー!」
水龍ちゃんに蝶ネクタイを外してもらい、トラ丸は、今日こそ水上歩行をしてみせるとばかりに、元気よく川へと飛び出しました。
バシャバシャッ……ピチャッ……。
「なぅぅ……」
しかし、意気込みとは裏腹に、トラ丸の足は水の中へと沈んでしまい、トラ丸は、足取りを止めて悲し気に水面を見つめました。
「そんな顔しないの。まだ練習を始めたばかりじゃない」
「なー……」
「ほら、ちゃんと川の水を操って、自分の足を水で押し上げるようにするのよ」
「なー」
意気消沈するトラ丸に、水龍ちゃんは、励ますと同時にアドバイスをします。
トラ丸は、そんな水龍ちゃんを見上げながら、少し元気が出て来たようです。
「そうねぇ……、初めは、こうして水の踏み台を作ってみるといいかもしれないわ」
「なー?」
水龍ちゃんは、ハテナを浮かべるトラ丸を前に、緩やかな流れの川の水を操って小さな丸い踏み台を2つ作ってみせました。
「これを足よりちょっと小さめにして、その上に乗るのよ」
「なー!」
水龍ちゃんが、実際に足の裏より小さめの踏み台の上に足を乗せて、水の上に立ってみせると、トラ丸は、わかったー! と嬉しそうに鳴き声を上げました。
「なー」
トラ丸は、川辺から川の水をジッと見つめて意識を集中します。トラ丸が見つめる先では、下から水が湧き上がるように水面がボコボコと押し上げられ、小さな水の小山が4つ浮かび上がりました。
どうやらトラ丸は、4つの足用に水を操作して踏み台を作るつもりのようです。しかし、小さな水の小山はなかなか安定せずに微妙に大きくなったり小さくなったりを繰り返しています。
「う~ん、なかなか安定しないわねぇ」
「なー……」
なかなか上手く出来なくて、トラ丸はしょんぼり顔です。
「水流操作の特訓が先ね。空中に魔法で水を出して、それでいろんな形を作ってみるといいわ」
「なー?」
「それで上手くいくのかって? ふふっ、こういうふうに、ちゃんとした足場を作れるようになればいいのよ」
「なー!」
水龍ちゃんが、実際に空中へ魔法で水を出して、トラ丸用にと4つの小さな足場を作って見せると、トラ丸もイメージが湧いたようで、さっそく魔法で水を出して足場作りを練習し始めました。
「その調子で頑張るのよ」
「なー?」
水龍ちゃんが、水流操作の練習に励むトラ丸を両手で持ち上げると、トラ丸は、どうしたのー? と首を捻って水龍ちゃんの顔を見上げました。
「このまま泉へ向かうわ。トラ丸は、水流操作の練習を頑張ってね」
水龍ちゃんは、そう告げると、川の上に突き出した岩の上をひょいひょいっと飛び移りながら上流へと向かいました。
「ぅなー!?」
「ふふっ、移動しながらでも水流操作の練習はできるわよ。頑張って、トラ丸」
驚いて水流操作が乱れてしまったトラ丸に、水龍ちゃんは、にっこり笑顔で声を掛けます。すると、トラ丸も何かを悟ったのか、水流操作の練習を再開するのでした。
水龍ちゃんは、トラ丸を抱えながらも軽快に川を遡上し、泉へ辿り着くまでそう時間は掛かりませんでした。
「さぁ、水くらげ草の研究をするわよ。マーサお姉さんが買ってくれそうだから、もっと良い商品に仕上げなくちゃね」
「なー!」
泉の畔で、水龍ちゃんが、ふんすと気合を入れると、トラ丸が、がんばれー! と声援を送ってくれました。
昨日、水龍ちゃんは、マーサさんの奇抜な行動に戸惑いはしたものの、良いお客さんになってくれそうに感じたのです。
おばばさまとプリンちゃんからも、必ず追加で購入すると言い出すから準備をしておいた方が良いと言われています。
水龍ちゃんは、バックパックから小さな敷物を取り出して泉の畔に敷くと、続いて錬金釜や青い掻き混ぜ棒を取り出して、敷物の上に並べました。
「う~ん、1度、前と同じように作ってみてから、改善策を試して比較した方がいいわね」
水龍ちゃんは、そう呟くと、錬金釜を片手に水の上をパシャパシャと歩いて水くらげ草の生えているところへ向かいました。
トラ丸は、泉の畔で一生懸命に水の足場を作る練習をしています。
水くらげ草の下へと着いた水龍ちゃんは、しゃがみ込んで泉の水に手を当て、水流操作で水くらげ草の花を1つもぎ取り、水の玉に包み込んだまま、ポンっと空中へ取り出しました。
そして、器用に水の玉から水くらげ草の花をポトリと錬金釜へと落とし入れると、魔法で水を出して、錬金釜へと注ぎ入れました。
水龍ちゃんは、楽しそうにパシャパシャと水の上を歩いて泉の畔へ戻ると、青い掻き混ぜ棒を手に取り、魔力を込めてゆっくりと錬金釜の中を掻き混ぜ始めました。
錬金釜の中が、淡い水色の光に包まれると、水くらげ草の花が淡く水色の光を放ちながら溶けるように小さくなって消えてゆきました。
「よし、いい感じね。においの方はっと、すんすん、やっぱりちょっと生臭いわ。ちゃんと改善しなくちゃね」
水龍ちゃんは、生臭いにおいに若干眉根を寄せながら、改めて改善の必要性を感じるのでした。
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