第122話 奇抜な行動

「ぐはぁぁぁ~ん!!!!♡」

「えっ!? マーサお姉さん!?」

「ぅな!?」


 水龍ちゃんの作った水くらげ草の錬成品をひと舐めしたマーサさんが、突如、白目を剥いて仰け反ってしまい、水龍ちゃんとトラ丸は驚きの声を上げるのでした。


「くわっ!!♡ この衝撃は何なのぉぉぉん!!♡」

「えっ!? 復活した!?」

「ぅな!?」


 倒れるかと思いきや、マーサさんは、すぐに復活して絶叫し、水龍ちゃんとトラ丸は、再び驚いてしまいました。


「もしや!!♡ ぐびぐびぐび~ん♡」

「えっ!? 飲んじゃうの!?」

「なぅぅ……」


 さらに、マーサさんは、何かに気付いたかのようにはっとしたかと思うと、急にポーション瓶を銜えてラッパ飲みするものだから、水龍ちゃんは、またまたびっくりしてしまい、トラ丸は、ちょっと呆れ顔です。


 マーサさんの奇抜な行動に、水龍ちゃんとトラ丸が驚いている間、おばばさまとプリンちゃんは、マーサさんのことをよく知っているためでしょう、冷静に成り行きを見守っていました。


「うおぉぉぉ~ん♡」

「えっ!? 今度は泣き出した!?」


「もう、感激よん♡ こんなに潤い成分たっぷりの素材は初めてだわ~ん♡」

「えっ!? 成分が分かるの!?」


 どうやらマーサさんは、感激して泣き出してしまったようです。水龍ちゃんは、錬成品の成分について語るマーサさんに対して、またまた驚きの声を上げるのでした。


「相変わらず、せわしい奴じゃのう」

「ふははははー! マーサらしいなー!」


 おばばさまとプリンちゃんは、のんきなものです。



 そして、今の今まで涙を流して感激していたマーサさんが、水龍ちゃんへと迫ってきました。


「水龍ちゃん!!♡ 是非ともこの錬成品を売ってちょうだい!!♡」

「えっ!?」


 マーサさんが、ぎらついた目で、真上から覆いかぶさるように、ちょっと怖い顔で迫ってきたため、水龍ちゃんは、またまた驚きの声を上げました。


「これがあれば、究極のドロくさパックが出来るわん!♡」

「あの……」


 すっかり自分の世界に入ってしまっているようで、ぐいぐいと顔を近づけて来るマーサさんに、水龍ちゃんは、ちょっと引き気味です。


「金貨5枚、いいえ、10枚出すわ!!♡ 売ってくれるわよね!♡ !ね♡」

「えっと……」


 さらに、マーサさんが、勝手に売買金額を決めて迫って来るものですから、水龍ちゃんは、どうにも困惑顔です。


 そこへ、おばばさまが、どこから出したのか、特大ハリセンを両手で握りしめ、マーサさんの背後から大きく振り回しました。


 スパーン!!!

「ほげぇ!!♡」


 特大ハリセンは、マーサさんの側頭部へと吸い込まれるように命中し、良い音が響き渡りました。


「落ち着かんか、マサゴロウ」

「いやん♡ 本名で呼ぶのはやめて欲しいわ、お師匠様ぁん♡」


 おばばさまにハリセンでしばかれて、少し落ち着きを取り戻したマーサさんが、ぶたれた側頭部をさすりながら、困った顔をみせました。


「肌に良い素材が見つかったからといって、がっつき過ぎじゃわい」

「しょうがないわよん♡ 私は、美肌に命を懸けてるんだからん♡」


 おばばさまが窘めるも、マーサさんは、信念を主張してウインクするのですから、おばばさまは大きく溜め息を吐くしかありませんでした。


「ふはははは、マーサがこうなると、どうにもならないなー! 是が非でも水龍ちゃんの作った錬成品を手に入れるつもりだぞー!」

「うふふっ♡ さすがはプリンちゃんねん♡ よく分かってるじゃないのん♡」


「金貨20枚でも買うと思うぞー!」

「んまっ♡ 余計なことは言わなくていいわよん♡」


 しれっと、価格を吊り上げてみせるプリンちゃんに、マーサさんは、眉根を下げてちょっと困り顔です。しかし、払わないと言わないところを見ると、マーサさんは金貨20枚でも払うつもりのようです。


「どうするのじゃ? 適当な価格で売ってやるのが一番面倒がないのじゃが……」

「そうねぇ……」

「なー?」


 おばばさまに問われて、水龍ちゃんは腕を組んで考え込みます。トラ丸も、どうするのー? と首を傾げて水龍ちゃんを見上げました。


「マーサお姉さんは、これを使ってフェイスパックを開発するつもりなのよね?」

「そうよん♡」


「う~ん、だったら、サンプル品として無料で提供するわ」

「へっ?♡」


 水龍ちゃんの言葉に、マーサさんは、ハトが豆鉄砲を喰らったような顔で呆けた声を上げました。


「まだ試作段階のものだし、フェイスパックの開発が上手く行くとは限らないわ。だから、今回はお試し用ということでお金は取らないことにするわね」

「ほわわわぁぁ~ん♡」


 水龍ちゃんが、無料にした理由を説明すると、マーサさんは、ぽわーんとした表情になりました。


「あれ? マーサお姉さん?」

「天使だわん♡」


 ようすがおかしいマーサさんへと水龍ちゃんが声を掛けると、マーサさんは、ぽつりと呟きました。


「えっ?」

「サンプルとはいえ、こんな素敵素材を無償で提供してくれるだなんて……♡ 水龍ちゃん、あなたって、お肌の天使ちゃんだったのねん♡」


 きょとんとする水龍ちゃんに、マーサさんは、ほんわかとしながらも両手を胸で組み、感涙の涙を流して崇めるように見つめてきました。


「えっと……」

「誓うわん♡ お肌の天使ちゃんに授けられたこの素敵素材を使って、最っ高のフェイスパックを作って見せるとねん♡」


 ちょっと困惑気味の水龍ちゃんに、マーサさんは、ポーション瓶を握りしめ、勝手に誓いを立てました。


 そして、マーサさんは、すっと立ち上がり、ニカっといい笑顔を見せると、またねぇん♡ と手を振りながら颯爽と去って行きました。


「相変わらず騒がしい奴じゃのう」

「マーサは、マーサだなー!」


「ビックリ箱みたいな人だったわねぇ」

「なー」


 マーサさんの背中を見送った水龍ちゃん達は、それぞれに感想を零すのでした。

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