第121話 ドロくさパック改

 素敵なめぐり逢いの予感を頼りにロニオンの街へ来たというマーサさんは、なかなかにおしゃべりが好きなようで、何も言わずとも自分から自己紹介がてら、いろいろ話してくれました。


 マーサさんは、ここ、ロニオンの街から遠く離れた街に薬屋を開いているそうで、なんと、おばばさまの弟子の1人だといいます。それで、久しぶりにと、おばばさまへ挨拶に来ていたとのことです。


 マーサさんの薬屋では、普通の薬やポーションも売っているのですが、特に美容関連商品に力を入れていて、先日、最新作のフェイスパックを開発して売り出したところ、なかなか好調に売れているのだそうです。


「これが、私が開発した最新作のフェイスパック、ドロくさパック改よん♡」


 マーサさんは、そう言いながら、どこから出したのか小瓶をデンっとテーブルの上に乗せました。小瓶には『ドロくさパック改』と書かれたラベルが張られていて、中には焦げ茶色の物体が入っています。


「ドロくさパック改はねぇん、とある場所から採れるミネラルたっぷりの泥に、私が水くらげ草を特別な方法で錬成した成分を混ぜてあるのよん♡ だからお肌が見違えるほどにプルップルのつやっつやになるのよ~ん♡」


 マーサさんは、自身の開発したフェイスパックをとてもいい笑顔でアピールしました。


「ふははははは、水くらげ草の錬成成分が入ってるってことはだー! ものすごく臭いにおいがするってことだなー!」

「ぅなー……」


 プリンちゃんが、軽く笑い飛ばしながらにおいについて言及すると、トラ丸がとても嫌そうな顔で、とても嫌そうな声を上げました。水龍ちゃんも無言でしたが、ちょっと渋い顔をしています。


「うふふっ♡ 大丈夫よん♡ 泥にいろいろと混ぜ合わせたのと、水くらげ草を錬成する過程でひと工夫をしたことで、従来品よりかなりにおいを抑えられたのよん♡ おかげで、売れ行きは絶好調だわん♡」

「おおー! すごいなー! で、抑えたにおいってどれくらいなんだー?」


 マーサさんが、自信満々ににおいを抑えたことをアピールすると、プリンちゃんが詳しい話を促しました。


「従来比50%ってところかしらん♡ 鼻栓なしでも4~5分くらいは耐えられる感じよん♡」

「なるほどー! ちなみに従来品は鼻栓なしだと何分耐えられたんだー?」


「そうねぇ、2分が限界ってところかしらねぇん♡ もちろん私基準だから、においに敏感で即効気絶しちゃった人もいたわよ~ん♡」

「ふははははははー! 気絶するほどとは、すごいなー!」


 マーサさんが、さらりと自身の嗅覚基準でにおいの程度を説明してくれましたが、もちろん一般的な基準ではありません。マーサさんが、どれだけ悪臭に耐性があるのかも分からないので、あくまで当社比感覚での説明です。


「そんなマーサに朗報だぞー!」

「んまっ♡ 何かしらん♡」


「あたしの友達の水龍ちゃんがなー! 水くらげ草を使って、あまりにおいのしない錬成品を作ったらしいぞー!」

「んまぁ、素敵ねぇん♡ いったい、どれくらいにおいを抑えられたのかしらん♡」


 プリンちゃんの一声で、みんなの視線が水龍ちゃんへと集まりました。プリンちゃんはもちろん、マーサさんもおばばさまも興味津々のようすです。


「えっと……、実物を見てみます?」


 水龍ちゃんは、そう言って、バックパックの中に入れていたポーションケースから2本のポーション瓶を取り出しました。


「おおー! なんかキラキラしてるなー!」

「これ、本当に水くらげ草の錬成品かしらん♡ 色が全然違うわよん♡」


「たぶん、水龍ちゃんが、特別な錬成をしたからだぞー!」

「それにしても、別物に見えるわよん♡」


 ほぼ透明でどこかキラキラした感じのする不思議な液体の入ったポーション瓶を見つめながら、プリンちゃんとマーサさんが話しています。マーサさんは、それが本当に水くらげ草を錬成したのかどうか疑わしく思っているようです。


「お前達、まさかとは思うが、家の中に臭いにおいをぶちまけようなどとは考えておらんじゃろうな?」

「も、も、もちろんそんなことは考えてないわよん♡ お師匠様ぁん♡」


 おばばさまのひと言に、マーサさんは、額にだらだらと冷や汗を滲ませながら慌てて言い繕いました。


「ふんっ、どうだかのう。とにかく、そいつは外で確かめるとするのじゃ。万が一、家の中ににおいが染みついてしまっては堪らんからのう」


 おばばさまの一声で、みんな夕暮れ時の外へと移動しました。



「それじゃぁ、開けてみるわよん♡」


 みんなの注目を浴びる中、マーサさんがポーション瓶を開けました。おばばさまとプリンちゃんは、鼻をつまんで強烈なにおいに備えています。


「あらん♡ すんすん、全然におわないわよん♡」

「すんすん、おおー! 全然臭くないぞー!」

「すんすん、ほほう、ここまでにおわないとは、予想外じゃのう」


 ポーション瓶を開けても予想した強烈なにおいが感じられず、みんな拍子抜けしてしまったようです。そんなようすに、水龍ちゃんは嬉しそうに笑顔を見せて、トラ丸はドヤ顔です。


「これって本当に水くらげ草を使ってるのかしらん♡」


 マーサさんは、そう呟いて、ポーション瓶の中身を少し手の平に零すと、味見とばかありにペロリと舐めました。


「ぐはぁぁぁ~ん!!!!♡」

「えっ!? マーサお姉さん!?」

「ぅな!?」


 突如、マーサさんが、白目を剥いて仰け反ってしまい、水龍ちゃんとトラ丸は、驚きの声を上げるのでした。

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