第120話 予感

 水くらげ草で作ったポーションをダンジョンから持ち帰った水龍ちゃんは、帰宅途中でプリンちゃんに会いました。


「おー! 水龍ちゃんじゃないかー!」

「プリンちゃん、お仕事かしら?」

「なー!」


「いや、仕事はサボりだー! 何か、こっちの方に面白いことがありそうながしてなー!」

「ふふっ、相変わらず楽しそうね」

「なー」


 軽く挨拶を交わすと、プリンちゃんは、トラ丸をなでながら、なんとも曖昧な理由でこの辺りへ来たと語ります。商業ギルドマスターは忙しそうに思えるのですが、いいのでしょうか?


「水龍ちゃんも楽しそうだなー! 何かいいことあったのかー!」

「ふふっ、それがね、水くらげ草を見つけてね、ポーション錬成してみたらいい感じに錬成反応があったの」


「なんとー! もの凄く臭くなるって話だぞー!」

「それがねぇ、(もごもご)……」


 楽しそうに話そうとした水龍ちゃんの口を プリンちゃんがちょっと慌てたようすで押えました。


「ちょっと待つのだー! 何だか、その先は聞かない方が良さそうだぞー! ひょっとして、あまり臭くないものが錬成できたのではないかー?」

「(こくこく)……」


「さすが水龍ちゃんだなー! だが、普通とちょっと違う錬成をしたんだろー?」

「(こくこく)……」


「なるほどー! そういうことは、人に話すものじゃないぞー! 特許が取れるような案件だからなー!」

「(ぱちくり)……」


 プリンちゃんは、そう忠告すると、水龍ちゃんを解放しました。


「ぷはー……。別に大したことやってないんだけど……」

「ふははははははー! さすが水龍ちゃんだなー! だがしかしー! 水龍ちゃんがそう思っても、世間じゃぁ一攫千金も夢じゃないくらいの大発明なのだー!」


「一攫千金!!」

「そうだー! 一攫千金だー!」

「なー……」


 一攫千金と聞いて、水龍ちゃんの目が金貨のようになりました。テンション高い水龍ちゃんとプリンちゃんの隣で、成り行きを見守っていたトラ丸だけが、大丈夫だろうかと心配顔をしています。


 夕暮れ時の通りをおばばさまの家へと向かいながら、プリンちゃんが、水くらげ草を使った商品について教えてくれました。


 プリンちゃんによると、水くらげ草を使った美容関連品は、その酷いにおいにも関わらず、お肌の潤い効果がピカイチなため世の裕福な女性達に根強い人気があり、高値で取引されているそうです。


 さらに富裕層から湯水のように開発費用が注がれていて、新たな商品開発戦争が日々繰り広げられているのだとか。


 最近 水クラゲ草を錬成した成分を含んだパックが発売されたらしいのですが、鼻栓が必須な上に、2~3日の間、臭いにおいがとれくて、強烈な香水で誤魔化さなければならないのだとの噂も聞くそうです。


 そんな話を聞いて、水龍ちゃんとトラ丸が、あの臭いにおいを思い出したのでしょうか、ものすごく嫌そうな顔をしていました。


「そこへ、あまり臭くない錬成品が出来たとなるとだー! 美容関連商品の開発者たちが放っては置くわけがないなー!」

「つまり、売れるということね!」


 水龍ちゃんは、瞳をキラキラ輝かせて、鼻息荒く拳を握り締めるのでした。


 そんな話をしながら、水龍ちゃん達は、家へと帰ってきました。


「ただいまー」

「おじゃまするのだー!」

「なー」


 水龍ちゃん達は、玄関ドアを開けると、元気に声を上げて家の中へと入りました。そして、リビングへ向かうと、おばばさまと筋肉モリモリの人が談笑していました。


「おー! マーサじゃないかー!」

「あ~ら、プリンちゃんじゃないのん♡ 相変わらプリっプリのお肌で羨ましいわねぇん♡」


 リビングへ入るなり、プリンちゃんとマーサと呼ばれた筋肉モリモリの人が、軽く挨拶を交わしました。どうやら、2人は知り合いのようです。


「うふっ♡ そちらの可愛らしいお嬢ちゃんが水龍ちゃんで、子猫ちゃんがトラ丸ちゃんね♡」

「あ、はい。水龍です」

「なー」


 マーサさんは、水龍ちゃん達のことをおばばさまから聞いていたのでしょう、嬉しそうに2人の名を呼んできたため、水龍ちゃんとトラ丸は、思わずと言ったように軽く挨拶をしました。


「私の事はマーサお姉さまって呼んでくれると嬉しいわん♡」

「えっ? あの、男の人なのにお姉さんなんですか?」


 マーサさんの要望に、水龍ちゃんは、素直に疑問を投げかけました。マーサさんは女性物の服装で化粧をしていますが、その顔つきや体格、声の太さからして男だと思われます。


「やーねぇ♡ 体は男でも、心は女・な・の・よん♡」


 マーサさんは、そう答えると、パチンとウインクをして見せました。


「なるほど。いろいろあるんですね。マーサお姉さん」

「んまぁ♡ なんて素直でいい子なのん♡」


 水龍ちゃんが、にっこり笑顔でマーサお姉さんと呼ぶと、マーサさんは、頬に手を当てて飛び上がるほどに喜ぶのでした。


「ところで、マーサー! 何の用事でロニオンの街に来たんだー? マーサの家はずっと遠くの街だろー?」

「うふっ♡ 特に用事なんてないわよん♡ こっちの方へ来れば、素敵なめぐり逢いが待っているってがしたから来たのよん♡」


 プリンちゃんの問いに、マーサさんは、とてもいい笑顔で答えたのでした。

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