第119話 水くらげ草

 ダンジョンのとある階層の山奥で、水龍ちゃんとトラ丸は、きれいな泉を見つけてわさびを採集しました。


 水龍ちゃんは、泉の水面の上を歩いていますが、トラ丸は上手く水の上に乗れなくて、今は水龍ちゃんの肩に乗っかっています。


「なー?」

「水くらげ草は採らないのかって? 持ち帰るのが大変そうだわ」


 トラ丸は、水くらげ草を気にしているようですが、持ち帰る途中で臭くなるらしいので、水龍ちゃんは、ちょっと嫌そうです。


「なーなー」

「えっ? ポーション錬成したらどうなるかって? う~ん、どうだろう? 分からないわ」


「なー」

「試してみたらって? そうね、試せば分かるわね」


 トラ丸に促されて、水龍ちゃんは、水くらげ草を使ってポーション錬成してみることにしました。


 水龍ちゃんは、水の上をパシャパシャと歩いて水くらげ草の生えているところへ行くと、しゃがみ込んで泉の水に手を当て、水流操作で水くらげ草に鈴なりについている小さなクラゲのような花を1つもぎ取りました。


 そして、小さな花を水の玉に包み込んだまま、ポンっと空中へ取り出して、岩場まで運びました。


 そして、水龍ちゃんは、小さな花の入った水球を空中に浮かべたまま、バックパックから錬金釜を取り出して、水流操作で器用に水の玉から水くらげ草の花をポトリと錬金釜へと落としました。


「う~ん、分量とか分からないわね。それに、素材は刻んだ方がいいのかしら?」

「なー」


「そうね、柔らかそうだし、適当に潰しながらポーション錬成してみましょ」

「なー!」


 水龍ちゃんは、トラ丸の応援を受けて、魔法で適当な量の水を出して錬金釜へと注ぎ入れると、ミスリル製の掻き混ぜ棒へ魔力を込めてポーション錬成を始めました。


 すると、錬金釜の中が淡い光をぽわっと放ち、だんだんと濁った黄土色に変わってゆきました。


「なんかいい感じ――、って、くっさーい!」

「ぅな”ー!!」


 なんということでしょう、錬金釜の中から臭いにおいが発生したようで、水龍ちゃんとトラ丸が酷い顔で叫びました。


 取りあえずといった感じで、水龍ちゃんは、手を伸ばして錬金釜を遠目に見つめ、トラ丸は、水龍ちゃんの肩から飛び降りて距離を取りました。


「これはダメだわ」


 水龍ちゃんは、顔を顰めてそう言うと、錬金釜の中身を岩場の陰に捨ててしまいました。そして、魔法で水を出して、錬金釜と掻き混ぜ棒をジャブジャブと綺麗に洗いました。


「ポーション錬成の反応はあったみたいだけど……」

「なー?」


 水龍ちゃんが、黄土色の濁った臭い水を捨てた場所を遠目に見ながら渋い顔をして呟くと、トラ丸が、そーなのー? と渋い顔で首を傾げました。


「だけど、あのにおいはダメね。ちょっと残念な気もするけど、諦めるしかないわ」

「なー、なー」


「えっ? 青い掻き混ぜ棒を使ったらどうかって? う~ん、どうかしら?」

「なーなー」


「そうね、ヒール草は、それで上手くいったわね。臭いのは嫌だけど、試してみましょうか」

「なー!」


 水龍ちゃんは、トラ丸のアドバイスを受けて、ヒールジカの角を加工した青色の掻き混ぜ棒を使って、もう一度ポーション錬成してみることにしました。


 先ほどと同じように水くらげ草の花を採って錬金釜へ入れ、魔法で水を出して注ぎ入れると準備完了です。


 水龍ちゃんは、青い掻き混ぜ棒を取り出すと、魔力を込めてゆっくりと錬金釜の中を掻き混ぜてゆきます。


 すると、錬金釜の中が淡い水色の光をぽわっと放ちましたが、先ほどとは違って、黄土色に染まることも臭いにおいを放つこともありませんでした。


「今度は、臭いにおいを発しないわね。それに、水くらげ草の花が溶けていくみたいだわ」

「なー!」


 水龍ちゃんの言う通り、水くらげ草の花が、ぽわわと淡く水色の光を放ちながら、だんだんと小さくなってゆき、やがて消えてしまいました。水龍ちゃんの肩の上から覗いていたトラ丸が、わーい! と喜んでいます。


「ふふっ、ヒールジカの角ってすごいわね。こんな変化が起こるなんて思わなかったわ」

「なー」


「そうね、トラ丸が教えてくれたおかげよ。ありがと、トラ丸」

「な~♪」


 水龍ちゃんが、トラ丸にお礼を言うと、トラ丸は、とても嬉しそうな顔で胸を張っていました。


 それから、水龍ちゃんは、錬金釜に鼻を近づけて、すんすんとにおいを嗅いでみました。


「う~ん、微妙に生臭いような気がするわね」

「なー?」


 水龍ちゃんが、小首を傾げて呟くと、トラ丸が、そうなの? と小首を傾げます。そして、水龍ちゃんが錬金釜を地面に置くと、今度はトラ丸がすんすんと錬金釜のにおいを嗅いで、微妙な顔をしていました。


「まぁ、取りあえず、ポーション錬成成功ということで持ち帰りましょ。なんかキラキラ感もあるし、おもしろそうだわ」


 水龍ちゃんは、そう言うと、保管用のポーション瓶を取り出して、水くらげ草の花を使って錬成したポーション?を注ぎ入れました。


 小瓶に入れたポーション?は、ほぼ透明ですが、どこかキラキラした感じのする不思議な液体です。


「ふふっ、帰ったらポーション鑑定してみたいわね」

「なー」


 水龍ちゃんが、ポーション瓶を光にかざして、キラキラ感を眺めながら、楽しそうに言うと、トラ丸は、そだねー、とかわいらしく相槌を打つのでした。

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