第117話 スイーツのお店

 今日は、久しぶりにアーニャさんとお買い物です。水龍ちゃんとトラ丸は、噴水公園でアーニャさんと待ち合わせです。


「おはようございます、アーニャさん」

「なー!」

「おはよう、水龍ちゃん。トラ丸も元気そうね」


 水龍ちゃんとトラ丸は、噴水の前で待っていたアーニャさんを見つけて、軽く挨拶を交わします。


「あら、トラ丸、おしゃれな蝶ネクタイね」

「なー」

「先日、ソレイユ工房で作ってもらったんですよ」


「とっても似合っていて、素敵だわ」

「な~♪」


 アーニャさんが、トラ丸を抱き上げて蝶ネクタイを褒めてくれたので、トラ丸は上機嫌です。


 さっそく、みんなでお目当てのお店へと歩き出しました。


「そうそう、先日、ダンジョンでパンプルムースを助けたんですって?」

「パンプルムース?」

「なー?」


 アーニャさんが、にっこり笑顔で話題を投げ掛けてきましたが、水龍ちゃんもトラ丸もなんのことやら頭にハテナを浮かべました。


「あら? 子猫を連れた女の子にポーションを譲ってもらったって聞いたから、てっきり水龍ちゃんとトラ丸のことだと思ったんだけど、違ったかしら?」

「もしかして、あの人体実験の人達のことかしら」

「なー」


 水龍ちゃんとトラ丸は、先日ダンジョンで出会ったハンター達のことを思い浮かべて顔を見合わせます。


「人体実験? なんか物騒な言葉が出て来たわね」

「それがですねぇ、——」


 怪訝な顔をするアーニャさんに、水龍ちゃんが、先日、やむを得ず研究中のポーションを提供した旨を話して聞かせました。


「なるほど、そんな事情があったのね」

「初めて人間相手に使ったもので……」


「で、人体実験と」

「まぁ、そういうことです」


 アーニャさんは、話を聞いて納得するも、やはり人体実験という言葉には少し眉を顰めました。


「事情は分かったけど、人体実験なんて物騒な言葉、使うもんじゃないわよ」

「はぁい。気を付けます」

「なー」


 アーニャさんに窘められて、水龍ちゃんは、素直に反省しました。なぜかトラ丸も返事をしているところがかわいらしいです。


「あの女の人、パンプルムースって名前だったんですね」

「えっと、人の名前じゃなくて、彼らのパーティー名なんだけど、もしかして知らなかったの?」


 水龍ちゃんの勘違いをアーニャさんが正してくれましたが、何で知らないのかと疑問に思っているようです。


「そう言えば、あの人達の名前とかパーティー名とか、聞いてなかったわね」

「なー」

「えっ? 彼ら、命の恩人に名乗りもしなかったの?」


「誰も名乗らなかったわね。わたしも名乗らなかったけど」

「なー」


 水龍ちゃんとトラ丸が、お互い名乗りもしなかったことを思い出していると、アーニャさんが、ちょっと驚いていました。



 そんな話をしていると、目的の服屋さんに辿り着きました。水龍ちゃんは、アーニャさんと店員さんが楽しそうに勧めるままに、いろいろな服を試着して、気に入った物を購入しました。もちろんアーニャさんの服選びも楽しみました。


 お昼ご飯を挟んで、今度は小物やアクセサリーを売っているお店を何件かまわってから、休憩を兼ねてスイーツ店へと入りました。


「うわぁ、とってもおいしそうだわ♪」

「な~♪」


 ショーケースに所狭しと並べられた色取りどりのスイーツ達を見て、水龍ちゃんとトラ丸がキラキラと目を輝かせました。


 そんな水龍ちゃん達をみて、アーニャさんも店員さんも微笑んでいます。


「どれもおいしそうだけど、いちごのショートケーキにするわ」

「なー」


「トラ丸はエクレアがいいのね」

「な~♪」


 水龍ちゃんとトラ丸が、ショーケースを見て気に入ったスイーツと紅茶を注文し、アーニャさんは、モンブランと紅茶を頼んでいました。


 店員さんに案内されて席に着くと、すぐに注文した品が出て来て、嬉しそうに食べ始めました。


「おいし~♪」

「な~♪」


 みんなで互いのスイーツを分け合って、水龍ちゃんとトラ丸が、とても幸せそうに食べる姿を前に、アーニャさんは、にっこり微笑みながら上品に紅茶を嗜みます。


「そうそう、エメラルド商会が、猫の手印の毒消しマヨネーズをパン屋さんに売り込んでいるそうね」

「よく知ってますね。実はですね、――」


 アーニャさんから、毒消しマヨネーズの話題が出てきて、水龍ちゃんは、一連の経緯を説明しました。


「うふふっ、いろんなお店で毒消しマヨネーズを使った料理を作るだなんて、大胆な発想ね。ハンター達も喜ぶわ」

「えへへ、みんなで考えたんですよ」

「なー!」


 アーニャさんも何だか嬉しそうで、トラ丸は、自分も考えたのだと言わんばかりに胸を張ってドヤ顔をしていました。


「だけど、料理に使うとなると、どれくらいの毒消し効果があるのか、分からなくなるわね」

「そこは、お店の方で、毒消しマヨネーズの使用量を提示してもらうようにしようって話になってます。ポーション1個分の量と一緒にね」


 アーニャさんが、気になることを素直に口にすると、水龍ちゃんが、トーマスさん達と打ち合わた対策を答えました。


「なるほど、毒消し効果の目安にするのね」

「あと、加熱調理したりすると、毒消し効果がどうなるか分からないので、その辺りも注意書きしてもらうとか、お店にお願いすることにしていますよ」


「ふふっ、いろいろ考えているのね」

「あくまで、毒消し成分入りと言うだけなので、毒消し効果を過度に期待しないように、トーマスさんが、お店側と上手くやり取りしてくれるそうです」


 エメラルド商会が上手く立ち回ると聞いて、どうやらアーニャさんも安心したようでした。

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