3.水龍ちゃん、ダンジョン素材を探し回る

第116話 素材探し

 今日も水龍ちゃんは、お花畑でヒール草をベースにしたポーションの研究をしています。もちろん、トラ丸はヒールジカちゃん達と仲良くお花畑を駆け回っています。


 そして、ポーション作りが終わると、水龍ちゃんは、いつものように、ヒールジカちゃん達に、ろ過して取り除いた薬草混じりのヒール草と余ったポーション?を与えます。


「いろいろな薬草と一緒にポーション錬成してみたけど、どれも今一つなのよね」

「なー?」


 水龍ちゃんが、ヒール草をむしゃむしゃするヒールジカちゃんをなでなでしながら呟くと、トラ丸が、そうなの? と首を傾げてみせました。


「ヒール草と相性のいい薬草があればと、いろいろ試してみたけど、今のところ良い結果は得られていないのよ」

「なー」


 水龍ちゃんが、トラ丸を抱き上げて、ため息交じりにヒール草研究の進展がないことを吐露すると、トラ丸が、そーなんだー、とのんきに相槌を打ちます。


「何とか魔力が維持できるものを作りたいんだけど、ほかの薬草を入れてポーション錬成してもダメそうなの」

「なー?」


「全部試したのかって? 手に入り易い物は片っ端から試したわ」

「なーなー」


「じゃぁ、ダンジョンで薬草を探せばいいって? そうね、それもいいわね。良い気分転換にもなりそうだしね」

「なーなー」


「うふふっ、薬草以外でも混ぜてみればいいっていうの? トラ丸は大胆ね」

「なー」


 水龍ちゃんは、トラ丸と話をしたことで笑顔を取り戻しました。トラ丸も笑顔の水龍ちゃんを見て嬉しそうです。


「お昼ご飯にしましょうか」

「な~♪」


 水龍ちゃんは、トラ丸を下ろすと、バックパックからお弁当を出して、お昼ご飯の準備を始めました。


「今日は、具だくさんのおむすびよ」

「なー!」


 トラ丸用のお皿にデデンと取り置かれたおむすびは、焼き魚をほぐした身が、はみ出るほどにたくさん詰められています。そして、脇にはトラ丸の大好物のたこさんウインナーが添えられていました。


「いただきまーす」

「なー」


 水龍ちゃんとトラ丸は、美味しそうに具だくさんおむすびを頬張ります。すぐ側では、ヒールジカちゃん達が、お花畑のヒール草をむしゃむしゃと食べています。


 みんなで美味しくお昼ご飯を食べ終えると、お茶を飲んで一息つきます。

 お花畑にそよ風が吹き、ヒール草の青くかわいらしい花がゆらゆらと揺れて、とても心地よく感じられます。


「よし、お昼ご飯も食べたことだし、素材探しに行こっか」

「なー!」


 水龍ちゃんは手早く後片付けを済ませると、ヒールジカちゃん達に、また来るね、と挨拶をして、トラ丸と共に断崖絶壁をぴょいっと飛び降りました。


「えーっと、珍しい薬草がありそうなのは、やっぱり森の中かしらね。だったら、あの階層がいいかも」

「なー」


 水龍ちゃんとトラ丸は、とある階層へと向かいました。




 その階層にある森は、鬱蒼としたジャングルのように木々が生い茂っていて、やや薄暗いですが、いろいろな植物が生えていそうなところです。


「この階層は、ハンター達もあまり来ないそうなのよ」

「なー?」


「なぜって? 密林に潜む魔物は、厄介なんだって」

「なー」


 水龍ちゃんのプチ情報に、トラ丸が、そーなんだー、とのんきに相槌を打ちます。

 実際、すぐ近くに擬態した魔物が潜んでいるのですが、水龍ちゃんとトラ丸をやべー奴だと思っているのか、じっとしたまま襲い掛かって来るようすはありません。


 水龍ちゃんとトラ丸も、素材探しに来たので、近くに魔物がいてもスルーしていて静かなものです。


「珍しい素材がたくさんあると思ったけど、すぐには見つからないわね」

「なー?」


 水龍ちゃんが、辺りをきょろきょろ探しながら呟いていると、トラ丸が、何だろう? と大きな木のそばに生えている紫色の草を覗き込みました。


「ん? 何か見つけたの?」

「な-」


 水龍ちゃんが、トラ丸の方を覗き込むと、トラ丸が、これー、と、気になる紫色の草をちょんちょんして示します。


「あら、紫ドラゴラね。マンドラゴラの仲間で、むやみに引っこ抜くとうるさいから気を付けてね」

「なー」


 どうやら、トラ丸の気を引いたのは、紫ドラゴラという魔物(魔草)だったようです。トラ丸が、水龍ちゃんの言うことを聞いて、紫ドラゴラから離れると、紫ドラゴラは、何だかほっとしたように見えます。


「周りにはマンドラゴラもどきが、たくさん生えているわね。どちらもなかなか手に入らない素材だから、まとめて採集しましょ」


 紫ドラゴラの周りには、葉っぱの色が僅かに薄い紫ドラゴラそっくりな草がいくつも生えていました。


「なーなー?」

「引っこ抜くとうるさいんじゃないかって? ふふっ、こうやって採れば大丈夫なのよ」


 水龍ちゃんは、自信ありげにそう言うと、両手を前にかざして、魔法で大きな水の玉を作り出しました。


 そして、ゆっくりと大きな水玉を紫ドラゴラの上へと被せてゆき、半分くらいを土の中へ染み込ませました。紫ドラゴラと周囲のマンドラゴラもどきをすっぽりと包んだ水玉は半球状のドームを形作っています。


「それー!」


 水龍ちゃんの掛け声と共に、ドームの中の水が濁り出し、あっという間に泥水になってしまいました。


 そして、泥水が渦巻くドームの上からポポポンっと薄い泥水に包まれた紫ドラゴラとマンドラゴラもどきが飛び出してきました。


 どうやら、水龍ちゃんは、土に染み込ませた水で土壌を緩め、水流操作で土ごと草花を水の中に浮き上がらせて撹拌し、狙った素材だけを器用に取り出したようです。


「なー!」

「ふふっ、水に包んでおけば、紫ドラゴラの絶叫も聞こえないわ」


 トラ丸が、すごいー! と絶賛する横で、水龍ちゃんは、紫ドラゴラへ包んだ水ごしにデコピンを放って仕留めました。


 見事に紫ドラゴラとマンドラゴラもどきを採集した水龍ちゃんは、良い素材が手に入ったとほくほく顔なのでした。

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