第114話 瀕死の重傷者
ダンジョンのとある階層で、水龍ちゃんは、怪我人を助けて欲しいと頼まれましたが、あいにく研究中のポーションしか持っていませんでした。
とにかく怪我人へポーションをと、焦るハンターの男と一緒に、水龍ちゃんとトラ丸は、彼のパーティーの下へと駆け付けました。
「ポ、ポーションを持ってるって言うんで、と、取りあえず連れて来たぞ!」
水龍ちゃんを連れ帰った革鎧を着けた男が、少しどもりながら告げました。水龍ちゃんから研究中のポーションの話を聞いてしまい、微妙にやっちまったかな?という思いがあるのでしょう。
対して、彼の仲間達は、水龍ちゃんとトラ丸の姿を見て、子供? とか、猫? とか、信じられないものを見たと言った顔つきで小さく声を漏らしていました。
水龍ちゃんは、見た目は普段着を着た子供ですし、子猫を連れているしで、ダンジョンでは場違い感が半端ないので、彼らの反応も頷けます。
「落ち着け、みんな」
鎧を着た男が、仲間を制するように言うと、みんな我に返ったようで、静かになりました。雰囲気からして、この男が、パーティーリーダーのように見えます。
「あー、君の持つポーションを譲ってくれるということで、いいのかな?」
「わたしが持ってるのは、研究中のポーションだけです。人間に使ったことは無いのでお勧めできませんよ?」
リーダーらしき男が、確認するように尋ねてきたので、水龍ちゃんは、手短にお勧めできないと言い切りました。
すると、彼らは、一様に怪訝な顔をして、水龍ちゃんを連れて来た男は、ばつが悪そうに苦笑いしました。
「そ、そうか……。君のパーティーの回復役に、彼女の回復をお願いしたいのだが引き受けてくれるだろうか。彼女はうちのパーティーの回復役だが、重傷を負ってしまってね、ポーションも使い切ってしまい、このままでは命が危ういんだ」
リーダーらしき男が、理由も述べて女性の回復を頼んできました。彼の視線の先には、ぐったりと地面に横たわり、仲間に見守られる女性の姿がありました。
「この人にも言いましたけど、わたし、パーティー組んでないですよ? この子と2人だけです」
水龍ちゃんが、そう告げると、みんなは、まさかという顔をして、水龍ちゃんを連れて来た男に視線を向けました。
視線を一身に浴びた男が、言い訳をしよう口を開いたところ、リーダーらしき男が手で制しました。
「つまり、回復魔法を使える者はいなくて、普通のポーションもなし。あるのは、君が研究中というポーションだけというのだね?」
「そういうことです」
リーダーらしき男が、落ち着いた態度で、状況を的確に理解し、確認するように尋ねてきたので、水龍ちゃんは、大きく頷きました。
リーダーらしき鎧の男が、心配そうに、ちらりと重傷者を見てから意を決したように再び水龍ちゃんへと向き直りました。
「その研究中のポーションを譲って欲しい。彼女を助けるためには、もう他に手はないんだ」
真剣な眼差しで、彼はそう言いました。
「何が起こっても、わたしは、責任取れませんよ?」
「もちろんだとも。全責任は、パーティーリーダーである俺が取る」
水龍ちゃんが短く告げると、彼は、真剣な眼差しのまま、強く言い切りました。
「分かりました。研究中のポーションですが、類似した物を魔獣に使ったところ傷が治ったのは確認しています」
水龍ちゃんは、そう言って、バックパックから黄色いポーション?を取り出しました。
「こ、この色は、ハイポーションなのか?」
黄色いポーション?を見て、リーダーが目を見張って言いました。彼の仲間達も、どよめいています。
「ハイポーションではないですよ。わたしが作った研究中のポーションです。まだ、人間に使ったことはないため、副作用を含めて何が起こるかわかりません。最悪、怪我が悪化して、死んでしまうかもしれませんよ?」
水龍ちゃんが、最悪の可能性に言及すると、一部の人達が怪訝な顔をしました。
「そうか、では、2本頂きたい。俺が試しに使ってみて、怪我の治り具合と副作用について確認してから仲間に使うこととしよう」
リーダーの言葉に、彼の仲間達がどよめきました。しかし、リーダーが覚悟を持った目を向けると、誰も何も言えなくなりました。
「分かりました。では、2本お渡しします。何が起きても、わたしに責任を問わないでくださいね」
「もちろんだとも。ありがとう。少ないだろうが、ポーションの代金だ。足りなければ、後で必ず支払おう」
水龍ちゃんが、ちゃっかりと責任回避を確認しながら黄色いポーション2本を手渡すと、リーダーは、軽く微笑んで革袋を差し出してきました。
「ポーション代はいりません。人間相手に効果を試せると思えば、安い物です」
「そ、そうか。ならば、ありがたく試させてもらうとしよう」
水龍ちゃんが、ちょっぴり皮肉をきかせて革袋の受け取りを拒否すると、リーダーは、少し戸惑いつつも引き下がりました。
「傷口にかけてみるといいですよ。魔獣の時は、それで怪我が治りましたから」
「ポーションは、飲むものじゃないのか?」
「う~ん、美味しそうに飲む魔獣もいますけど、人間が飲んで大丈夫かは試してないので分かりません」
「そうか……。よし、傷口にかけてみることにしよう」
そんなやり取りの後、リーダーの男は、ポーション1本を仲間に預け、もう1本の蓋を開けると、仲間が見守る中、意を決して左腕の傷にパシャリとかけました。
「うぐおぉぉぉぉぉ!!!!!」
その瞬間、ポーションをかけた傷口が、ほんわかと淡い光を放ち、リーダーの男は苦痛に顔を歪ませて、大きな叫び声を上げたのでした。
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