第113話 助けを求められ

 水龍ちゃんのヒール草研究は、現在、採れたてのヒール草をベースに、いろいろな薬草を加えてポーション錬成してみる実験を行っています。


 今日も水龍ちゃんとトラ丸は、ヒール草のお花畑へ来ていて、水龍ちゃんはヒール草のポーション錬成実験を行い、トラ丸は、おしゃれに蝶ネクタイを着けてヒールジカちゃん達と元気に遊んでいます。


 昨日、ソレイユ工房へ行き、トラ丸の蝶ネクタイとヒールジカの角を加工した掻き混ぜ棒を手に入れたばかりなのです。


「ふふっ、ずいぶんと掻き混ぜやすくなったわね。これなら実験も捗る気がするわ」


 水龍ちゃんは、新しく手に入れた青色の掻き混ぜ棒を使ってポーション錬成しながらご満悦です。


 気分よく作業をすると調子も上がるのでしょうか、用意してきた薬草の分量を変更しながらテキパキとポーション錬成しては、ポーション瓶へと入れて保管します。


 毎度のことながら、水龍ちゃんが、水流操作でろ過すると、目ざとく見つけたヒールジカちゃん達がやって来て、ろ過して取り除いたヒール草と余ったポーションをおねだりしてきます。


 ほかの薬草も混じっているのですが、ヒールジカちゃん達には、なぜかしら好評でおねだりが止まりません。なので、水龍ちゃんは、少し多めにポーション錬成しているくらいです。


「う~ん、今日のところは、こんなもんかな」

「なー?」


 水龍ちゃんが、3つの深皿に余ったポーション?を分け入れて、ヒールジカちゃん達へと与えながら呟くと、トラ丸が、もういいの? と水龍ちゃんを見上げてきました。


「今日は、これがあるから、作業が捗ったのよ」

「なー」


 水龍ちゃんが青色の掻き混ぜ棒を見せると、そーなんだー、とトラ丸がかわいらしく鳴き声を上げるのでした。





 水龍ちゃんとトラ丸は、ヒールジカちゃん達に、また来るね、と言って、いつものように断崖絶壁をぴょいっと飛び降りました。


「なーなー」

「ん? まだ行ったことのないところへ行きたいの? そうね、今日はまだ早いし、もう少し奥の方へ行ってみましょうか」


 トラ丸の要望をきいて、水龍ちゃんは、ダンジョンの奥へ行くことにして、2人でタタッと駆け出しました。



 とある階層の見通しのよい荒野を走っていると、正面にハンター達の姿が見えたので、水龍ちゃんとトラ丸は、適当な距離を取って迂回しようと、進路を少し逸らしました。


「おーい! 待ってくれー!」

「あら? あの人、こっちへ向かって来るわね。わたし達に用事があるのかしら?」

「なー?」


 ハンター達の1人が、大きく手を振り、大声を出しながら水龍ちゃん達へ向かって駆けて来るので、水龍ちゃんは、立ち止まってようすを見ることにしました。


「すまないが、仲間が大怪我をして死にそうなんだ。頼む、助けてくれ」

「えっと……」


 革鎧に身を包んだハンターの男に、突然、助けを求められて、水龍ちゃんは、ちょっと困り顔です。


「君の仲間に回復魔法を使える者がいるだろう? 頼む、仲間に回復魔法を掛けてくれ!」

「えっと、回復魔法は使えませんよ?」


 切羽詰まったようすで回復魔法を求める男に、水龍ちゃんが、正直に答えると、男は一瞬まさかといった顔をしました。


「いや、こんな階層まで来るのだから回復魔法を使える者が仲間にいるだろう? 君のパーティーメンバーはどこにいるんだ?」

「わたし、パーティー組んでないですよ? この子と2人だけです」

「なー」


 男が必死な様相で食い下がり、周辺に水龍ちゃんの仲間を探しますが、いるはずもありません。そして、トラ丸は、水龍ちゃんの相棒だと言わんばかりに、自信満々に胸を張ってみせていました。


「そんな……。くっ、そうだ、ポーションがあったら譲って欲しい。手持ちは全て使い切ってしまったんだ。頼む!」


 男は、絶望的な顔をしましたが、すぐに頭を切り替えて、今度はポーションをと必死に頼んできました。


「えっと、研究中のポーションならありますけど――」

「ありがたい! 詳しい話は、走りながら話そう! ついて来てくれ!」


 水龍ちゃんがポーションという言葉を出すと、男は話を遮って、仲間の方へと走り出しました。仲間の容体がかなり悪いのでしょうか、かなり焦っているようです。


 仕方が無いなと、水龍ちゃんとトラ丸は、男を追いかけて走り出しました。男が言ったように、水龍ちゃんは、男と並走しながら話し掛けました。


「あの、研究中のポーションなので、どれだけの効果があるか分かりませんよ?」

「うん? 普通のポーションは持ってないのか?」


「残念ながら、研究中のポーションだけです」

「そ、そうか……」


 水龍ちゃんが、研究中のポーションしか持っていないと知って、男は何だかがっかりしたようすです。


「魔獣相手に使ったら怪我が治ったのですけど、人間相手には使ったことが無いんですよね。だから、副作用とか出るかもしれないですよ?」

「えっ? 副作用?」


 さらに、水龍ちゃんが、研究中のポーションについて説明すると、男の顔が、不安げに変わりました。


「そうです。もし研究中のポーションを使ったとして、何かしら副作用が出ても責任は取れないですからね?」

「いや、えっと、まぁ……、と、とにかく急ごう」


 そして、水龍ちゃんが、責任は取れないとはっきり言うと、男は、悩まし気な顔つきで言葉を濁しながら、とにかく仲間の下へと急ぐのでした。

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