2.水龍ちゃん、いろいろと実験をする

第111話 魔獣実験

 水龍ちゃんとトラ丸は、ちょくちょくダンジョンのお花畑へ通っては、ヒール草の研究を行っています。


 まずは、基礎研究ということで、生のヒール草をいろいろと条件を変えてポーションを錬成しては、実験結果を積み上げています。


 最初は、お茶を飲むために持ってきていたカップで錬成していましたが、錬金釜を使った方が良さそうだと分かり、今では、ちゃんと錬金釜を使っています。


 トラ丸は、もちろんお花畑でヒールジカちゃん達と楽しそうに遊んでいます。


「うん、いい感じね。魔力も感じられるし、キラキラ感もいい感じに出てるわ」


 水龍ちゃんは、作り立ての黄色いポーション?を入れたポーション瓶を光にかざしてキラキラ感をみながら満足げに呟きました。


「問題は、時間が経つと魔力が霧散してキラキラ感も無くなっちゃうことよね」

「なー」


 水龍ちゃんは、ろ過して取り除いたヒール草をヒールジカちゃん達に与えながら呟きました。トラ丸は、のんきに尻尾をゆらゆら揺らして、そだねー、と相槌を打ち、水龍ちゃんとヒールジカちゃん達を眺めていました。


 そんな感じで、ほどよく実験を終えると、水龍ちゃんとトラ丸は、お花畑を後にするのです。




 道すがら、捕獲する魔獣を探していると、トラ丸が何かを見つけたようで駆け出しました。水龍ちゃんもトラ丸の後に続きます。


 トラ丸の向かった先には、羊のような魔獣がいましたが、何かようすがおかしいです。


「あら? あの魔獣、怪我をしているみたいね」

「なー?」


 水龍ちゃんが、羊魔獣が後ろ足を引きずるようにして動くのを見て呟くと、トラ丸が、そうなのー? と首を傾げました。


 水龍ちゃんとトラ丸が近付くと、羊魔獣は、もうダメだと諦めたように、その場に横たわりました。どうやらもう逃げる体力も無いようです。


「なー?」

「捕まえるのかって? う~ん、怪我をしてるし元気もないから、捕まえても高くは売れないわね」


「なー……」

「そうだ! いいこと思いついたわ!」


 トラ丸が、残念そうに羊魔獣を見つめると、水龍ちゃんが何か閃いたようで、ぱんっと手を打ち鳴らすと、バックパックを下ろしました。


「ヒール草から作ったポーションが怪我に効くのか、試してみましょ」


 なんと、水龍ちゃんは、バックパックから黄色い実験ポーション?を取り出して掲げてみせました。


「なー?」

「大丈夫かって? どうかしら。でも、このまま放っておいてもこの子は死んじゃうだろうから、試してみるのも悪くないわよ」


 水龍ちゃんは、さっそくポーション瓶のふたを開けて、羊魔獣の怪我をしている後ろ足に黄色いポーション?をかけました。


 すると、ほんわかと淡い光を放って傷口が塞がってゆきました。


「傷が治ったわ! さすがヒール草から作ったポーションね」

「なー!」


 水龍ちゃんとトラ丸も大喜びです。


 羊魔獣は、少し驚いた様子で目をパチクリした後、立ち上がり、怪我をしていた後ろ足のようすを確かめるように動かしていました。


「怪我が治って良かったわね」

「なー」


 水龍ちゃんとトラ丸が、羊魔獣へ向けて言葉を掛けると、羊魔獣は、ちょっと驚いたような顔を見せた後、メェー、とお礼を言うかのようにひと鳴きしてから駆け出しました。


 羊魔獣は、何度か立ち止まって、にっこり笑顔で見送る水龍ちゃんとトラ丸の方を振り返っては、鳴き声を上げて去って行きました。


「なーなー?」

「捕まえなくてよかったのかって? おとなしい魔獣だし、あまり高くは売れそうにないからいいのよ。それより、あのポーションの回復効果が確認できて良かったわ」


 水龍ちゃんは、とても嬉しそうに微笑むと、上機嫌で帰路につきました。もちろん途中で魔獣を捕まえるのは忘れませんでした。





 そして、翌日、水龍ちゃんとトラ丸は、ソレイユ工房へとやって来ました。予定どおりであれば、トラ丸の首飾りの試作品が出来上がっているはずです。


 ソレイユ工房は、頑丈な石作りの建屋で大きな木の看板が掛けられていました。


「こんにちはー」

「なー」

「いらっしゃい、水龍ちゃん、トラ丸」


 水龍ちゃんとトラ丸が、開けっ広げな入口から元気よく挨拶すると、気付いたサラさんが歓迎してくれました。


「さぁ、入って入って」

「お邪魔しまーす」

「なー」


 サラさんに促され、水龍ちゃんとトラ丸は、作りかけの家具や作業台の間を通り抜けて奥のテーブルへと着きました。


「小さな工房だけど、歓迎するよ。今、お茶を持ってくるから待っててね」


 サラさんは、そう言って、奥の扉へと入って行きました。キッチンなどの水回りは扉の奥にあるようです。


「木の香りがして、心地いいわね」

「なー」


 水龍ちゃんが、きれいに整理整頓された工房のようすを眺めて微笑むと、トラ丸も そだねー、と相槌を打ちました。


 そんな感じで、のんびりと待っていると、ドタドタと足音がして奥の扉がバーンと開け放たれました。


「トラ丸ちゃんは、どこ!?」


 扉から飛び込んできた少女が、開口一番、そう叫んだかと思うと、すぐにテーブルの上にちょこんと座るトラ丸をロックオンしました。


「キャー! かわいいー!! あなたがトラ丸ちゃんねー!!」

「ぅなっ!?」


 少女がテンション高く叫びつつ、素早く駆け寄りトラ丸へ手を伸ばすと、驚いたトラ丸が水龍ちゃんの胸元へと飛び込みました。


「あっ! トラ丸ちゃん!」

「こら、ニーナ! お客さんにダメじゃないか!」


 少女が、トラ丸に逃げられて悲しそうに叫ぶと、お茶を持ってきたサラさんが、彼女を叱りつけました。


「ひぃっ! 姉さん! これはね、その……」

「まったく……。言い訳はいいから謝りなさい」

「ご、ごめんなさい……」


 ニーナと呼ばれた少女は、小さく悲鳴をあげてあわあわしていましたが、サラさんに言われて、水龍ちゃんとトラ丸へ申し訳なさそうに頭を下げるのでした。

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