第110話 ヒール草はおもしろい

「さぁ、やるわよ。もう一度、カップでポーション作りよ!」

「なー!」


 お昼ご飯を食べ終えて、水龍ちゃんは、ふんすとやる気を出すと、トラ丸の応援を受けながら再びポーション作りにチャレンジです。


 新たに採取したヒール草をみじん切りにしてカップへ投入し、魔法で水を出して注ぎ入れます。そして、水の温度をゆるりと上昇させながら、ヒールジカの角に魔力を込めて、ゆっくりと掻き混ぜてゆきます。


 すると、どうでしょう、カップの中の水がだんだんと黄色く染まってゆきました。


「うん、いい感じね。というか、最初に作った時より、なんかキラキラしている感じじゃないかしら」


 水龍ちゃんが言うとおり、カップの中のポーション?は、きれいな透き通った黄色をしていて、光の反射でしょうか、ところどころキラキラしているように見えます。


「う~ん。この違いがなんなのか気になるわね。よーし、もっといろいろ実験してみましょ」


 それからしばらく、水龍ちゃんは、いろいろと条件を変えながら生のヒール草を使ったポーション錬成の実験を行いました。


 今回は、メモ用の紙と筆記用具を持ってきたので、実験内容は、ちゃんと記録しています。


 ポーションケースいっぱいに空のポーション瓶を持ってきたので、作ったポーションを保管することも出来ました。


「ふむふむ、ヒール草を採取してからの時間によって、錬成したポーションの色とキラキラ感が変わっているわね……」

「なーなー」


 水龍ちゃんが、何度目かの実験を終えて、腕を組んで呟いていると、トラ丸が声を掛けて来ました。


「ん? そろそろ帰らないとって? そっか、もうそんな時間なのね。トラ丸、教えてくれてありがと」

「なー」


 実験に夢中になっていた水龍ちゃんは、帰る時間のことなどすっかり忘れていたようで、教えてくれたトラ丸にお礼を言ってなでました。


 バックパックに括り付けておいた時計を見ると、いい頃合いの時間でした。トラ丸は、水龍ちゃんが実験に夢中になっていることに気づいていたのでしょうか?


 とにもかくにも、水龍ちゃんは、手早く後片付けをします。実験するたびにヒールジカちゃん達が、使用済みのヒール草や余ったポーション?をおねだりに来ていたので、その都度片付けていて、後片付けに時間は掛かりませんでした。


「それじゃ、また来るわね」

「なー」


 水龍ちゃんとトラ丸は、ヒールジカちゃん達に挨拶をして、断崖絶壁からぴょいっと飛び降りると、帰り道で遭遇した魔獣をさくっと捕まえて、ダンジョンを後にするのでした。




 魔物ショップに魔獣を売って帰宅する頃は、ちょうど夕日が赤く染まって綺麗な夕焼け空でした。


「ただいまー」

「なー」


 玄関ドアを開けて、元気よく家に入った水龍ちゃんとトラ丸は、荷物を部屋に置くと手洗いうがいをしてから台所へ向かいました。


「お帰り、もうすぐ、ご飯が出来るからの」

「ただいま、ばばさま。う~ん、いい匂いね~」

「な~♪」


 台所で晩ご飯を作っていたおばばさまと軽く挨拶をして、水龍ちゃんは、ご飯の準備を手伝いました。


 今日の晩ご飯は、おばばさまが作った魚の煮物とカボチャの煮っころがし、卵スープ、そして水龍ちゃんが作った野菜サラダです。


 おかずを並べてご飯をよそって準備完了、みんなで食卓を囲み、揃っていただきますをすれば、楽しい晩ご飯の時間です。


「このお魚、味が染みていておいしいわ♪」

「な~♪」

「ふはははは、昔ながらの味付けじゃよ」


 水龍ちゃんとトラ丸が、とても美味しそうに魚を食べると、おばばさまは、とてもいい笑顔で、謙遜気味に答えました。


 おばばさまが作った魚の煮物は、おそらく家庭の味なのでしょう、ほろりと崩れるほどに柔らかな魚の身に、煮汁の味が染みていて、ほっぺたが落ちそうなほどに美味しいのです。


「今日ね、ヒール草のお花畑に着いたらヒールジカちゃんが3頭もいたのよ。3頭ともかわいくて、トラ丸とすぐに打ち解けて遊んでいたわ」

「ほほう、良かったのう、トラ丸」

「なー」


 水龍ちゃんは、いつものように、ご飯を食べながら今日あったことを楽しそうにおばばさまに話して聞かせました。おばばさまも相槌を打ち、微笑みながら聞いてくれます。


 そして、水龍ちゃんが、生のヒール草をポーション錬成してみた時の変化について身振り手振りを交えながら話すと、おばばさまは、ときに驚いたり、ときに微笑んだりと実に楽しそうに聞いてくれました。


「ふはははは、すっかりヒール草にハマってしまったようじゃのう」

「えへへ、ちょっとしたことで、違った変化が現れておもしろいの。研究のし甲斐があるわね」


 おばばさまの言葉に、水龍ちゃんは、ヒール草研究が面白いとのだと、とても嬉しそうに言いました。


「そうかそうか、しばらくはダンジョンに通うことになりそうじゃの」

「ふふっ、そうね、採れたてのヒール草をもっと研究したいから、できるだけダンジョンへ行くつもりよ」

「なー」


 どうやら、水龍ちゃんは、しばらくの間、可能な限りダンジョンへ通って、ヒール草の研究を続けるようです。トラ丸も、やったー、と大喜びなのでした。

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