第109話 なんか違う感じ?
水龍ちゃんは、トラ丸を連れてダンジョンへと入り、断崖絶壁を登って岩山の頂上にあるヒール草のお花畑へとやって来ました。
「あら? ヒールジカちゃんが増えてるわ。家族かしら」
「な~♪」
お花畑には、3頭のヒールジカがヒール草を食んでいて、トラ丸が嬉しそうに駆け寄って行きました。ヒールジカちゃん達もトラ丸に気付くと、嬉しそうに跳ね回ります。
「ふふっ、仲良しさんね」
水龍ちゃんは、楽しそうなトラ丸とヒールジカちゃん達を微笑ましく見つめると、バックパックを下ろし、敷物を敷いて拠点?作りです。
「今日は、ちゃんと準備してきたから、思う存分ポーション錬成を試せるわ」
そう言って、水龍ちゃんは、敷物の上に小さな錬金釜とミスリル製の錬金棒、まな板に小型ナイフ、空のポーション瓶が入ったポーションケースなどを次々と出してゆきました。
「さぁ、ヒール草を採ってポーション錬成するわよ。まずは、前回と同じ条件で作ってみて、魔力の違いを確認してみたいわね」
水龍ちゃんは、フンスとやる気を出すと、さっそく周囲のヒール草を採り始めました。
敷物の上には、先回作って持ち帰ったポーションがちょこんと置いてあります。改めて作ったポーションと比較するために持ってきたのです。
水龍ちゃんは、採ったばかりのヒール草をまな板にのせ、ナイフでみじん切りにすると錬金釜へ入れました。そこに魔法で水を出して注ぎ入れます。
「ふふん、やっぱり錬金釜があるといいわね」
水龍ちゃんは、にっこり笑顔でそう言うと、手にしたミスリル製の掻き混ぜ棒に魔力を込めて錬金釜を掻き混ぜます。もちろん魔法で適度に温度を上げてゆきます。
「んん? なんだろう? 前と同じようにしたんだけど、なんか違う感じ?」
水龍ちゃんは、錬金釜を覗き込みながら首を傾げました。
錬金釜の中の水の色は青緑色で、先回作った時は黄色くなっていたので明らかに違うと分かります。
「色も違うし、魔力も感じないわね。う~ん、前と違うのは、錬金釜を使っていることかなぁ……」
水龍ちゃんはポーション錬成をやめて、腕組みしながら考えます。
そんなこととは露知らず、トラ丸とヒールジカちゃん達は、楽しそうにお花畑を駆け回っています。
「よーし、もう一度、錬金釜なしで作ってみよう」
水龍ちゃんは、フンスと意気込むと、バックパックからお茶飲み用のカップを取り出して、ヒール草の採取を始めました。
採取したヒール草をまな板でみじん切りにして、カップへ入れると、魔法で出した水を注ぎ入れました。
「あー、前は掻き混ぜ棒がなかったから、ヒールジカの角で掻き混ぜたのよね。あれは家に置いて来たから、これでいいかな」
そう言って、水龍ちゃんは、ミスリル製の掻き混ぜ棒を使ってポーション錬成を始めました。
徐々に温度を上げ、魔力を込めて掻き混ぜていくと、薬草から青緑色の成分が染み出てきました。
「あれ? 黄色くならないわ。もしかして、ヒールジカの角を使わないとダメってことかな?」
水龍ちゃんは、ポーション錬成の手を止めました。
「確かめるためにも、ヒールジカの角を見つけないとならないわね」
そう言って、水龍ちゃんは立ち上がり、お花畑の中を探し始めました。
すると、お花畑で遊んでいたトラ丸とヒールジカちゃん達が寄って来ました。
「なー?」
「ん? 何してるかって? ヒールジカの角を探しているのよ。ヒール草でポーションを作るために必要みたいなの」
「なー!」
「ふふっ、みんな一緒に探してくれるのね、ありがとう」
トラ丸とヒールジカちゃん達も加わって、抜け落ちたヒールジカの角を探して回ります。
トラ丸とヒールジカちゃん達が、あっちこっちでうろうろキョロキョロ探し回る姿はなんだかほっこりします。
「なー!」
しばらく探していると、トラ丸が見つけたようです。すぐに、ヒールジカちゃん達がトラ丸の下へと集まり、そのうちの1頭が角をくわえて持ち上げました。
「見つけてくれたのね。ありがとう」
「なー!」
水龍ちゃんは、タタッと駆けて来たトラ丸たちにお礼を言うと、ヒールジカちゃんから角を受け取り、みんな順番になでました。トラ丸たちは、なでられてとても嬉しそうです。
それから、水龍ちゃんは魔法で水を出して角を洗い、魔力を込めてカップの中を掻き混ぜました。すると、青緑色だった水が、黄緑色に変わってゆきましたが、時間を掛けてもそれ以上黄色くはなりませんでした。
「う~ん、色が変わったし魔力が感じられるけど、やっぱり何か違う感じ?」
水龍ちゃんは、ポーション錬成をやめて、カップを覗き込んで呟きました。
そして、ヒールジカちゃん達もキラキラした目でカップをガン見しています。
「ん? ふふっ、あなたたち、これが飲みたいのね?」
水龍ちゃんが、視線に気付き、微笑みを浮かべて尋ねると、ヒールジカちゃん達は揃ってコクコクと頷きました。
「ふふっ、仕方ないわね」
そう言って、水龍ちゃんは、人差し指をひょいっと立てると、カップからヒール草混じりのポーション?が浮き上がり、空中で3つに分かれてヒールジカちゃん達の前へふよふよ動いて行きました。
「はい、どうぞ」
水龍ちゃんの声に、ヒールジカちゃん達は、まるで天使でも見るかのように瞳を輝かせて、ヒール草混じりのポーション?にぱっくりとかぶりつきました。
「ふふっ、トラ丸、わたしたちもお昼ご飯にしましょうか」
「なー」
水龍ちゃんは、美味しそうにむしゃむしゃするヒールジカちゃんのかわいらしい仕草に微笑むと、バックパックからお弁当を取り出して、お昼ご飯にするのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます