第108話 商品サンプル
水龍ちゃんとトラ丸は、商業ギルドで楽しく毒消しマヨネーズの製造販売の打ち合わせを終えた後、トーマスさんとシュリさんとお昼ご飯を食べに行きました。
シュリさんのお勧めで、商業ギルド近くのお店に入り、美味しい餃子とチャーハンを食べて、水龍ちゃんもトラ丸も大満足でした。
その後、トーマスさんの竜車でエメラルド商会へ行き、毒消しマヨネーズを作るためのマヨネーズを購入して家まで送ってもらいました。
帰宅した水龍ちゃんは、ハーブティーを入れて、トラ丸と一服してから、ポーション錬成部屋へ入りました。
「さっそく、毒消しマヨネーズを作りましょ。今日は、ポーションの在庫も作る予定だから、がんばらなくっちゃ」
「なー!」
やる気満々の水龍ちゃんに、トラ丸が声援を送ります。
水龍ちゃんは、青毒ポーション作りから始めると、途中で、ろ過して取り除いた薬草をすり鉢ですりつぶして、お皿に取り置いておきました。
青毒ポーションを作り終えると、大きなボウルを準備して、大瓶入りのマヨネーズを開封して入れてゆきます。瓶の中になるべくマヨネーズが残らないようにへらで器用にこそぎ取るのを忘れません。
大瓶マヨネーズの量は決まっているため、青毒ポーションに使用した薬草の量に合わせて計算し、端数の分のマヨネーズは、きちんとはかりで量って入れました。以前よりも多く青毒ポーションを作っているので、マヨネーズの量も多いのです。
ここに、取り置いておいたすりつぶし済みの薬草を加えます。以前はこれにブルーライムの果汁を入れていたのですが、今回は入れません。シンプルなものにしておいて、料理によって後で混ぜることで味を調えれば良いとの判断です。
そして、ミスリル製の掻き混ぜ棒を使って魔力を込めながら混ぜてゆけば、青毒消し成分入りの青毒マヨネーズの出来上がりです。
「よし、できたわ。あとは、瓶詰めすればOKね。取りあえず、マヨネーズが入っていた瓶を再利用しましょ」
「なー?」
「いいのかって? 今回は商品サンプル用だから大丈夫よ。あとで瓶の大きさとかトーマスさんと相談しなくちゃね」
打ち合わせでは、まず、商品サンプルとして、パン屋さんなど売れそうな顧客へ提供して感触を確かめることになっていました。なので、サンプル品の入れ物は、どんな物でもよかったのです。
再利用したマヨネーズ瓶に入りきらなかった分は、家にあった適当な空き瓶に入れておきました。
「よし、次は、赤毒ポーションと赤毒マヨネーズを作るわよ」
「なー!」
続いて、水龍ちゃんは、赤毒ポーション作りを始めました。毒消しマヨネーズ作りのために、ろ過して取り除いた薬草をすりつぶしておきます。
赤毒ポーションを作り終えると、先ほどの青毒マヨネーズと同様に、赤毒消し成分入りの赤毒マヨネーズを作りました。
ちなみに、青毒マヨネーズ、赤毒マヨネーズの呼び名は、商業ギルドで打ち合わせた時に、何とはなしにみんなそう呼んでいました。ポーションの呼び名に倣っているので特に違和感もなかったようです。
「よしっと、これで商品サンプルの準備はできたわ。夕方、トーマスさんが取りに来ても大丈夫ね」
「なー」
出来上がった毒消しマヨネーズの瓶を前に、水龍ちゃんが腰に手を当て満足顔で言うと、トラ丸が、そだねー、と相槌を打ちました。
「あとは、治癒ポーションの在庫を増やしておきましょ。また、明日からダンジョンへ行くためにね」
「なー!」
水龍ちゃんは、トラ丸の声援を受けて、休憩もせずに続けて新型治癒ポーションの生産に取り掛かるのでした。
夕刻、ポーションの在庫を積み上げ終えた水龍ちゃんが、おばばさまと、楽しく晩ご飯を作っていると、ピンポ~ン♪と玄関チャイムの音が鳴りました。
「きっと、エメラルド商会ね。トーマスさんも一緒に来るって言ってたわ」
「毒消しマヨネーズの件じゃな」
「ええ、商品サンプルを渡さなくちゃ」
「なー」
水龍ちゃんは、トラ丸を引き連れてトテトテと玄関へ向かい、玄関ドアを開けると予想通りトーマスさんといつもの陽気なお兄さんがいました。
「こんにちは、水龍ちゃん。約束通り、毒消しマヨネーズを受け取りに来ましたよ」
「こんにちは、トーマスさん。ちゃんと準備はできてますよ」
「なー!」
ニコニコと上機嫌な顔で挨拶するトーマスさんに、水龍ちゃんとトラ丸もにっこり笑顔で返すと、水龍ちゃんは、トーマスさんと陽気なお兄さんをポーション錬成部屋へ通しました。
「ほほう、これはまた、大きな錬金釜がありますなぁ」
「ふはははは、その特大錬金釜は特注もんじゃ。よそでは見ることは出来まいて」
ポーション錬成部屋へ初めて入ったトーマスさんが、特大錬金釜に目を見張っていると、後ろからおばばさまがドヤ顔で説明しました。
「これはこれは、おばばさま。お邪魔しております」
「ほれ、今日は、そこの毒消しマヨネーズが目当てじゃろ? どうじゃ、そいつは売れそうかい?」
「それはもう、大ヒットの予感しかしませんな」
「ふはははは、お前さんがそう言うのなら、間違いないじゃろうな」
トーマスさんとおばばさまが、そんな話をしている間に、水龍ちゃんは、陽気なお兄さんと治癒ポーションの受け渡しを済ませてしまいました。
「それでは、商品サンプルを預からせてもらいます。必ずや美味しい毒消し料理を作って広めてみせますからね」
「よろしくお願いします!」
「なー!」
毒消しマヨネーズを受け取ったトーマスさんは、毒消し料理市場の開拓に意欲をみせると、水龍ちゃん達に見送られる中、上機嫌で帰って行くのでした。
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