第106話 鑑定結果は?

 水龍ちゃんは、両手でカップを持って、その中身をじぃっと見つめました。カップには、生のヒール草を使った作り立てのポーション?が入っています。


「う~ん、勢いで作ってみたけど、効果はあるのかしら?」

「なー?」

「……?」


 水龍ちゃんが小首を傾げると、トラ丸とヒールジカちゃんも同じように小首を傾げました。


「なんとなく魔力を感じるし、何らかの効果はありそうなんだけどね。一度ポーション鑑定魔道具に掛けてみたいけど、どうやって持って帰ろうかなぁ……」


 水龍ちゃんが頭を悩ませていると、ヒールジカちゃんが、ずいっと身を乗り出してきて、カップと水龍ちゃんを何度も交互に見つめました。


「ん? ひょっとして、ヒールジカちゃんは、これが飲みたいの?」


 水龍ちゃんが問いかけると、ヒールジカちゃんは、瞳をキラキラと輝かせてコクコクと首を縦に振りました。


「ふふっ、ヒール草で作ったから、いい香りでもするのかしらね」

「なー」


 水龍ちゃんは、ヒールジカちゃんのようすに微笑むと、カップを敷物の上に置いてバックパックからトラ丸用の小さな深皿を取り出します。


「なーなー」


 ヒールジカちゃんが、敷物の上に置かれたカップに口先を突っ込もうとして、トラ丸に何か言われています。トラ丸とカップを交互に見つめるヒールジカちゃんの姿はとてもかわいらしいです。


 水龍ちゃんは、小さな深皿にカップのポーション?を注ぎ入れると、ヒールジカちゃんの前へすっと置きました。


「はい、どうぞ」

「なー」


 水龍ちゃんとトラ丸が見守る中、ヒールジカは、ヒール草で作ったポーション?を美味しそうに飲み始めました。


「ふふっ、おいしそうに飲むわねぇ」

「なー、なー」


 水龍ちゃんが、ヒールジカをなでなでしていると、トラ丸が、何やら言ってからヒールジカちゃんに代わってポーション?を舐めました。


「ぅなっ!?」

「あらら……、トラ丸の口には合わなかったようね」


 少しだけ舐めて身震いしたトラ丸を見て、水龍ちゃんは苦笑いでしたが、ヒールジカちゃんは、どうして? とでもいうように、頭にハテナを浮かべた表情です。


 水龍ちゃんは、バックパックからトラ丸用のお皿を出して、水筒からハーブティーを注ぎ入れました。


「はい、トラ丸、口直しにハーブティーを飲むといいわ」

「なぅ……」


 飲み物用の小さな深皿はヒールジカちゃんが使っているため、お弁当の取り置き用のお皿を使ったので少し大きいのですが問題ありません。トラ丸は、渋い顔をしながらハーブティーを飲みました。


「そうだわ、ヒール草で作ったポーションは、この水筒に入れて持ち帰ればいいのよね。うん、そうと決まれば残りのハーブティーを飲んでしまいましょ」


 水龍ちゃんは、そう言って、カップにハーブティーを注ぎ入れてごくごくと飲むのでした。


 水筒を空にした水龍ちゃんは、魔法で水を出して水筒を洗うと、さっそくヒール草を採取して再びカップを使ってポーション錬成を行いました。


 先ほどと同じ要領で作るので、悩むことも無くテキパキと錬成を終えると、ろ過したポーションを水筒へと注ぎ入れました。


 ろ過して残ったみじん切りのヒール草は、もちろんヒールジカちゃんが美味しくむしゃむしゃしていました。


「さてと、トラ丸、ちょっと早いけど、家に帰りましょ。作ったポーションを早く鑑定してみたいわ」

「なー?」


「えっ? 魔獣は捕まえないのかって? そうねぇ、帰りに適当なのを捕まえて帰りましょうか」

「なー!」


 魔獣を捕まえると聞くと、トラ丸は、やったー! と、とても嬉しそうに鳴き声を上げました。


 先回は、水龍ちゃんがカミツキスッポンを一撃で気絶させてしまうのをトラ丸は見ていただけなのですが、実は、トラ丸も魔獣を捕まえたいと思っているのかもしれません。


 水龍ちゃんは、荷物を片付けると、ヒールジカちゃんの頭をなでました。


「ヒールジカちゃん、また来るわね」

「なー」


 そう言って、水龍ちゃんとトラ丸は、タタッと駆け出し、ヒールジカちゃんに見送られながら断崖絶壁をひょいっと飛び降りて行きました。


 帰る途中で大きなクワガタみたいな魔物を見つけると、トラ丸が、電撃を浴びせて痺れさせて捕獲しました。もちろんトラ丸はドヤ顔です。


 体長が大人の背丈ほどもあるクワガタでしたが、水龍ちゃんは、軽々と頭の上に持ち上げて運ぶのでした。




 クワガタを魔物ショップへ売却してから帰宅した水龍ちゃんは、さっそく調合室へと入りました。


「いったい何級のポーションになるのか楽しみね」


 そう言いながら、水龍ちゃんは、バックパックから水筒を取り出すと、入れておいたポーション?をポーション瓶へと注ぎ入れました。


「ん? 気のせいかしら。感じられた魔力が弱くなってる気がするわ」

「なー?」


 水龍ちゃんは、トラ丸と共に小首を傾げつつも、まぁいいかと、ポーション鑑定魔道具へと掛けました。しばらくすると、ピロリロリ~ン♪と音が鳴り、ポーション鑑定が完了しました。


「残念、5級だわ。全然だめだったわね」

「なー……」


 水龍ちゃんもトラ丸もがっかり顔です。ポーション鑑定魔道具のメーターは、5級の上の方を示していました。


「う~ん、今まで作った治癒ポーションも毒消しポーションも、こんなにはっきりとした魔力は感じなかったから期待したのよね」


 水龍ちゃんは、ポーション鑑定魔道具から、お花畑で錬成した黄色い試作のポーション?を取り出して、じっと眺めながら、そう呟くのでした。

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