第105話 採りたて素材

 水龍ちゃんは、生のヒール草を使ってポーション錬成の実験をする気満々で、もっと具体的に実験内容を考えます。


「できれば、採れたてのヒール草を使ってポーション錬成したいわね。今度来るときは錬金釜を持ってこなくちゃ」

「なーなー?」


 水龍ちゃんが、ポーション錬成するために必要な錬金釜について呟くと、トラ丸が何か訴えてきました。


「えっ? 錬金釜が無いとポーション錬成できないのかって? う~ん、どうなのかしら?」

「なー」


「試してみればって? そうね、やってみれば分かるわね」

「なー!」


 水龍ちゃんは、トラ丸に促されて、錬金釜を使わずにポーション錬成を試してみることにしました。


 さっそく水龍ちゃんは、準備に取り掛かります。お昼ご飯にお茶を飲んでいたカップを取り出し、魔法で出した水で綺麗に洗います。


「錬金釜の代わりは、このカップでいいわね。せっかくだから、採れたての新鮮なヒール草を使いましょ」


 水龍ちゃんは、改めてヒール草を採取すると、人差し指をピッ立てて空中に魔法で水を出しました。


そして、採取したヒール草をひょいっと空中に浮かすと、ナイフでスパパパパッと切り刻みます。


さらに、ふよふよ浮かせておいた魔法の水を操作して、風に流されるみじん切りのヒール草をキャッチすると、錬金釜代わりのカップへ注ぎ入れました。


「材料よし、水よし、温度はどうしようかしら? それと掻き混ぜ棒がないわね。どうしたものかしら……」


 水龍ちゃんは、両手でカップを持って、その中身をじぃっと見つめながら考えています。


「なー!」

「ん? トラ丸?」


 トラ丸が、何か閃いたようすで、水龍ちゃんに一声掛けて、タタッとお花畑を駆けて行きました。ヒールジカもトラ丸の後を追いかけます。


水龍ちゃんは、どうしたのだろうかと頭にハテナを浮かべながらトラ丸の行動を見守ります。


 トラ丸が、お花畑の中で見つけた何かをカリカリと引っ掻いていると、ヒールジカが、それをくわえて持ち上げました。


「まぁ、それって、ヒールジカの角じゃない」


 水龍ちゃんの言うとおり、土の付いた青色のそれは、抜け落ちたヒールジカの角でした。


 トラ丸とヒールジカは、水龍ちゃんの下へとタタッと駆け寄って来ると、ヒールジカが、くわえた角を水龍ちゃんへと差し出しました。


「なー」

「ふふっ、これで掻き混ぜろっていうのね。ありがと、トラ丸。ヒールジカちゃんもありがとね」


 ヒールジカの角を受け取った水龍ちゃんは、トラ丸とヒールジカちゃんにお礼を言って、順番になでなでします。それから魔法で水を出して、ヒールジカの角に浮いた土や汚れを綺麗に洗い流しました。


「さぁ、ポーション錬成してみましょー!」

「なー!」


 水龍ちゃんは、トラ丸の応援を受けて、手にしたヒールジカの角へと魔力を通してカップの中のヒール草入りの水を掻き混ぜ始めました。ヒールジカの角は枝分かれしているので、やり難そうに見えますが、水龍ちゃんは器用に使いこなしています。


 トラ丸とヒールジカちゃんは、水龍ちゃんがポーション錬成するようすを大人しく眺めています。


「う~ん、あまり変化が無いみたいね。少し温度を上げてみましょ」

「なー」


 水龍ちゃんは、ポーション錬成しながら魔法でカップの中の水の温度を少しずつ上げてゆきます。すると、ヒール草からお茶?の成分が溶け出してきて、カップの水が黄色く染められてゆきました。


「ふふっ、黄色くなってきたわ。持ち帰ったヒール草の時とは違うわね」


 水龍ちゃんは、色の違いが出たことでとても嬉しそうです。先回持ち帰ったヒール草をポーション錬成したときは、青緑色になっていたので、その違いは明らかです。


 さらに、ポーション錬成を進め、見た目に変化が無くなったのを確認すると、水龍ちゃんは、錬成するのをやめました。


「うん、こんなところね。ろ過しちゃいましょ」

「なー!」


 水龍ちゃんは、がんばれー!と、トラ丸の応援を受けながら、水流操作でカップの中のポーション?をヒール草が混ざったまま空中に浮かせると、人差し指をピッと立てて、ひょいひょいっと動かしました。


 すると、空中に浮かせたヒール草入りポーション?の塊から、細い水の流れが立ち昇り、くるくると螺旋を描きながら降りてきてカップの中へと注がれてゆき、あっという間にろ過が終わりました。


「あら? ヒールジカちゃん、これが欲しいの?」

「なー?」


 水龍ちゃんが、空中に残ったヒール草の塊をガン見していたヒールジカちゃんに気付いて声を掛けると、トラ丸も そうなの? と鳴き声を上げました。


 すると、ヒールジカちゃんは、あめ玉くらいの大きさのヒール草の塊から目を離さないまま、かわいらしくコクコクと首を縦に振りました。


「これはもう捨てるだけだから、好きにしていいわよ」


 水龍ちゃんが、そう言って、水分多めのヒール草の塊をヒールジカちゃんの鼻先へと差し出すと、ヒールジカちゃんが、嬉しそうにパクリと食いつきました。


「ふふっ、さすがヒールジカちゃん、ヒール草が大好きなのね」

「なー」


 むしゃむしゃと美味しそうに食べるヒールジカちゃんを見て、水龍ちゃんとトラ丸はにっこりと微笑むのでした。

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