第五章 水龍ちゃんの薬草研究

1.水龍ちゃん、お花畑でお試しです

第104話 お花畑のお友達

 水龍ちゃんとトラ丸は、先回、ダンジョンで見つけた岩山頂上のヒール草群生地を再び訪れました。


「ふふっ、きれいなお花畑ねー」

「なー」


「あら? 先客がいるわね」

「なぅ?」


 ヒール草のお花畑の奥の方に、小さな魔獣が水龍ちゃん達の方をじっと見つめていました。小さなシカのような魔獣は、頭に生えた角が綺麗な青色をしています。


「あれは、ヒールジカね。ヒール草の花と同じ青色の角が特徴で、ヒールの魔法が使えるのよ。あのきれいな角が高く売れるらしいわ」

「なー?」


「捕まえるのかって? う~ん、おとなしい魔獣だから、コロシアムとかに売れないんじゃないかしら。もっと好戦的な魔物を捕まえましょ」

「なー」


 どうやら、ヒールジカは捕獲の対象外となったようです。水龍ちゃんが、にっこり笑顔を向けると、ヒールジカは、ほっとしたようすでヒール草をむしゃむしゃと食べ始めました。


「さぁ、ヒール草を採集しましょうか。今回は、花と葉、茎と分けて採集するわよ」

「なー!」


 水龍ちゃんは、トラ丸の応援を受けると、バックパックから採集用のナイフと袋を取り出して、せっせとヒール草の採集に取り掛かりました。


 先回採集した時は、茎も葉も花もまとめて採集していたのですが、それぞれに特徴があるのかもと考えて、今回は別々に採集することにしたのです。


「ふぅ、結構取れたかしら」


 水龍ちゃんは、採集の手を止め、3つの採集袋を眺めながら呟きました。


「そろそろお昼に……って、トラ丸?」


 トラ丸がそばにいないことに気づいて、ぱっと振り返りました。

 視線の先には、お花畑の奥の方で、小さなヒールジカと楽しそうに遊んでいるトラ丸の姿がありました。


「ふふっ、トラ丸ったら、お友達が出来たのね」


 水龍ちゃんは、ヒールジカと仲良く遊ぶトラ丸を微笑ましく見つめると、敷物を敷いてお昼ご飯の準備を整えました。


「トラ丸ー、お昼にしましょー」

「なー!」


 水龍ちゃんの呼びかけに気付いたトラ丸は、お友達になったヒールジカと共に水龍ちゃんの下へと元気よく駆け付けて来ました。


「なーなー」

「ふふっ、お友達を紹介してくれるのね」


 水龍ちゃんの胸にぴょいっと飛び込んだトラ丸は、さっそくお友達になったヒールジカを紹介してくれました。お友達のヒールジカは、少し手前で立ち止まり、そわそわしながら水龍ちゃんを見上げてきました。


「トラ丸と遊んでくれてありがとう」

「なー」


 水龍ちゃんは、立派な青い角を生やしたヒールジカの頬をそっと撫でました。すると、ヒールジカは、嬉しそうに小さな尻尾をふりふりしながら水龍ちゃんの手に頬をすりすりしてきました。トラ丸は、水龍ちゃんの肩に乗って、お友達のようすを嬉しそうに眺めていました。


 ヒールジカは、頭を上げても水龍ちゃんの腰くらいの高さしかないくらいの小さな魔獣で、見た目はとても愛らしいです。しかし、怒らせると、小さいながらも枝分かれした硬い角を使って刺突攻撃をしてくるし、傷をつけてもヒールで回復してしまうという厄介な魔獣でもあります。


「あなたも一緒にお昼ご飯を食べる? とは言っても、あなたの大好物はヒール草なのよね。一緒の場所で食べる感じだけど、いいのかしら?」

「なー」


 水龍ちゃんが、ヒールジカを撫でながらお昼ご飯に誘うと、ヒールジカは小さく首を縦に振り、トラ丸が、いっしょだねー、と嬉しそうに鳴きました。


「いただきまーす」

「なー」


 水龍ちゃんとトラ丸は、間近でヒール草をむしゃむしゃ食べるヒールジカを眺めながらお弁当を食べました。今日は五目御飯のおにぎりに、魚の塩焼きがメインですがトラ丸の好きな たこさんウインナーもたくさん持ってきています。


「おいしいねー」

「なー」


 水龍ちゃんもトラ丸もご満悦で、ヒールジカもどこか嬉しそうな気配を見せるのでした。



 お昼ご飯を食べ終えて、片付けを済ませた水龍ちゃんは、昼前に採集したヒール草の花の入った袋を覗き込んで小首を傾げました。


「う~ん……、なんか変な感じ?」

「なー?」


 水龍ちゃんのようすを見て、ヒールジカとじゃれていたトラ丸が、どうかしたの? と声を掛けてきました。ヒールジカもトラ丸と一緒に水龍ちゃんの方へ視線を向けて首を傾げていました。


「お昼前に採った花なんだけど、なんだか変な感じなの。なんて言えばいいのかしらねぇ、元気がなくなったというか……」


 水龍ちゃんは、袋から採集した花を取り出して見つめながら説明しようと試みるのですが、上手く説明できません。採集した植物ですから萎れてしまうのは仕方のないことですが、そういうことではないようです。


 とにかく何か違和感を感じているようで、まだ採集していない地面に咲いた花と交互に見比べてみています。


「はっ!? もしかして、ここにヒール草の秘密があるのかも!」

「なぅ?」


 はっとした水龍ちゃんは、ヒール草の秘密とやらを口にしました。トラ丸とヒールジカが首を傾げて頭にハテナを浮かべます。


「採集したヒール草の乾燥方法とかの前処理方法、それから花とか葉とか部分ごとの錬成だとかいろいろ実験しようと思っていたのだけど、生のヒール草を錬成した場合にどうなるのかも実験に加えたいわね……」


 水龍ちゃんは、顎に手を当てながら呟くと、意を決したように顔を上げ、小さな拳をきゅっと握りしめました。


「よし、生のヒール草を使ってポーション錬成してみましょ」

「なー!」


 ふんすとやる気を見せる水龍ちゃんに、トラ丸がお友達のヒールジカと並んで、がんばれー! と声援を送るのでした。

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