第102話 謝罪!?
トラ丸のお守り首飾りのアイデアがまとまり、サラさんが帰った後、おばばさまと楽しく晩ご飯を食べていると、ピンポ~ン♪ と玄関チャイムが鳴りました。
「誰か来たみたい」
「なぅ?」
「ふむ、わしが出ようかのう。お前さんたちは、ゆっくり食事を続けておるとええ」
おばばさまが立ち上がり、玄関へと向かいました。
「う~ん、この感じ、ハンターギルドのギルマスとアーニャさんだわ。どうしたのかしら」
「なー?」
水龍ちゃんが、気配で誰だか言い当てて、何の用だろうかと小首を傾げると、トラ丸も なんだろうねー? と同じく小首を傾げました。
「私に用があるのかもしれないわね。さっさとご飯を食べてしまいましょ」
「なー」
水龍ちゃんとトラ丸は、残りのご飯を急いで食べると、ちょうど食べ終わった頃におばばさまが戻ってきました。
「ハンターギルドのギルマスじゃったわい。ご飯を食べ終わるまで、待っとれと言っておいたのじゃが……」
おばばさまは、話の最後で口籠りました。どうやら水龍ちゃんが食事を終えたことに気付いたようです。
「ちょうど食べ終わったところよ」
「そのようじゃな……」
「私がお茶を入れるから、ばばさまは、ゆっくりご飯を食べてちょうだい」
「うむ、そうさせてもらうのじゃ」
おばばさまは、ギルマス達の対応を水龍ちゃんに任せることにして、残っていた食事を食べ始めました。
水龍ちゃんは、トラ丸を連れて食べ終わった食器を台所へ運ぶと、お茶を入れてリビングへと向かいました。そこには、疲れた顔をしたギルマスとアーニャさんがソファに座っていました。
「こんばんは、お茶を持ってきたわ」
「「ありがとう」」
「なー」
水龍ちゃんがお茶を出すと、トラ丸が、ぴょいっとローテーブルの上に乗って軽く挨拶です。かわいいトラ丸の登場に場が和みます。
「このお茶、水龍ちゃんが入れてくれたのかな?」
「ええ、そうよ」
お茶を一口飲んだギルマスの問いに、水龍ちゃんは、にっこり笑顔で答えます。
「うんうん、どうりで美味しいわけだ」
「ギルマス、嬉しそうにお茶を飲んでいる場合じゃありませんよ」
「おっと、そうだった!」
お茶を実に美味しそうに飲むギルマスでしたが、アーニャさんに、窘めるように一言言われて、本題を思い出したかのように額をぺちんと叩きました。
「今日は水龍ちゃんに、謝罪に来たんだよ」
「えっ? ギルマスに謝られるようなことなんて……」
いきなりギルマスに謝罪すると言われても、水龍ちゃんには何のことやら分からないようです。
「はっ!? もしかして、ハンター登録取り消しになるとか!」
「いや違うから! そんなこと絶対にしないからね!」
水龍ちゃんが、はっとして思い至ったことを口走ると、ギルマスは焦ったようすですぐに否定しました。
「あ、でもハンター登録してなくても困らないかも?」
「そんな、寂しいこと言わないで!!」
続けて水龍ちゃんが、小首を傾げて零した言葉に、ギルマスが、すごく悲しそうな顔で叫びました。
確かに水龍ちゃんは、ハンター登録していなくてもデメリットはなさそうです。普通のハンターならば、ハンター登録することで、倒した魔物の素材や採集した薬草などをハンターギルドに適正価格で買ってもらえて、尚且つ税金支払いの心配も無くなります。
しかし、今の水龍ちゃんは、商業ギルドの信頼もあるため、集めた素材の販売先を探すのも容易ですし、ポーション売買等の帳簿を付けているので、税金の支払いも一緒にすれば良いだけです。
しかも、魔物を生け捕りにすれば、ハンターギルドよりも高額で買い取ってくれる販売ルートも持っていますし、ダンジョンに入るのも、特にハンター登録している必要はないのです。
ギルマスは、1つ咳ばらいをすると、水龍ちゃんに向けて姿勢を正し、真剣な顔つきで口を開きました。
「昨日、うちのダンジョン出張所の職員達が、水龍ちゃんに対して、あってはならない対応をしてしまいました。ギルドマスターとして正式に謝罪します。本当に申し訳ございませんでした」
そう言って、ギルマスは深々と頭を下げました。同時にアーニャさんも一緒に頭を下げます。
「えっ? あれ? あの、ギルマスもアーニャさんも悪いことしたわけじゃないし、その、困ります?」
「ふははははは、こりゃぁ、面白いことになっておるのう」
水龍ちゃんが、あたふたしていると、おばばさまが笑いながら入ってきました。
「ばばさま、これ、どうなってるの?」
「まぁ、ハンターギルドとして、謝罪したいということじゃよ」
「ギルマスもアーニャさんも悪いことしてないわよ?」
「組織として、職員の管理、教育がしっかり出来ていなかったことを詫びておるのじゃよ。まぁ、組織を束ねる者としての仕事じゃな」
水龍ちゃんは、困った顔でおばばさまに助けを求めると、おばばさまは、ギルマス達が頭を下げた理由を教えてくれました。
「なるほど、お仕事なら、しょうがないのかしら?」
「ふはははは、そうじゃ、仕方がないのじゃ。じゃからお前さんは謝罪を受け入れて同じことが起こらないよう何か考えてくれと言っておけばよいのじゃよ。そうじゃろう、ギルドマスター殿」
仕事ならばという水龍ちゃんに、おばばさまは、こういう時はとアドバイスをすると突然話をギルマスへと振りました。
「そうですな。再び若葉マークの新人が被害を被らないように何か考えないとなりませんな」
「ほかに被害にあった新人ハンターへの損害賠償もしなければなりませんね」
ギルマスが、おばばさまの話に同意して真剣に対応する姿勢を見せると、アーニャさんが被害者への対応についても言及し、ギルマスは、もちろんだと言うようにしっかりと頷きました。
「ギルマスのお仕事も大変ですね」
「そうなんだよ~。水龍ちゃんの入れてくれたこのお茶だけが癒しだよ~」
水龍ちゃんの言葉に、ギルマスは、先ほどまでのギルマスらしい姿は何処へ行ったのか、デレっとだらしない顔でお茶をすすると、アーニャさんは溜息を吐き、おばばさまは呆れた顔をし、トラ丸は、なぜかドヤ顔をするのでした。
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