第101話 首飾り

 水龍ちゃんが、ヒール草を使って試行錯誤しながらポーション錬成していると、おばばさまが帰宅して調合室の扉を開けました。


「おや、お前さん、もう戻っておったのかい」

「ばばさま、お帰りなさーい」

「なー」


「もう少し帰りが遅くなると思っておったのじゃがのう」

「それがね、アーニャさんが仕事の予定が入っていたのを思い出したっていうから、今日のお買い物は取りやめになったの」


 意外そうな顔で話すおばばさまに、水龍ちゃんは、ポーション錬成しながら顔だけおばばさまへと向けて、残念そうに買い物が取りやめになったことを話しました。


「ふむ、あの嬢ちゃんが仕事を忘れていたとは思えんのじゃが……」

「ギルマスとダンジョンの出張所へ行くって言ってたわ」


 おばばさまが眉を寄せて呟いていると、水龍ちゃんが、アーニャさんの仕事について零しました。すると、おばばさまが笑い出しました。


「ふはははは、なるほどのう。そうかそうか」

「ん?」

「なぅ?」


 おばばさまは、得心が言ったとばかりに笑みを浮かべましたが、水龍ちゃんとトラ丸は、笑い出したおばばさまに小首を傾げました。


 おばばさまは、水龍ちゃんからダンジョン出張所での出来事を聞いていたため、アーニャさんが、一連の問題を解決するために動いたのだということに、すぐに思い至ったのでしょう。




 ヒール草を使った実験も一段落し、水龍ちゃんが、おばばさまと一緒に晩ご飯を作っていると、ピンポ~ン♪と玄関チャイムが鳴りました。


「エメラルド商会かしら。きっと治癒ポーションを取りに来たのね」

「そのようじゃな」

「なー」


 水龍ちゃんは、トラ丸を引き連れてトテトテと玄関へ向かいます。


「こんちはー! エメラルド商会でーす!」

「ソレイユ工房でーす!」


 玄関ドアを開けると、エメラルド商会の陽気なお兄さんに続いて、サラさんが元気よく挨拶をしてくれました。


「こんにちは。サラさんも一緒なのね」

「なー」


「少し遅くなったけど、トラ丸用の椅子を持ってきたよ」

「なー!」


 ソレイユ工房のサラさんが、これだよと示すように、両手で持っていた毛布に包んだ荷物を軽く動かして見せました。すると、トラ丸は、やったー! という感じでぴょいっと軽く跳ねてから、そわそわとサラさんの足元を動き回ります。


 水龍ちゃんは、エメラルド商会のお兄さんとサラさんをポーション錬成部屋へと通しました。


 元気なお兄さんが、治癒ポーションを運んでいる間に、サラさんは、そわそわしたトラ丸が見守る中、荷物をテーブルの上へ乗せて包んでいた毛布を取り外しました。


「なー!」


 トラ丸の椅子が現れると、トラ丸は、大喜びで、ひょいひょいっと椅子の上へと飛び乗りました。


「あははっ。喜んでくれたみたいで嬉しいよ」

「な~♪」


 サラさんが、満面の笑みを浮かべて椅子の上のトラ丸を撫でると、トラ丸は、ありがと~、とばかりにサラさんの手にすりすりしてきました。


 水龍ちゃんが、エメラルド商会へと治癒ポーションを納品し、伝票の受け渡しを終えると、お兄さんは、まいどー! と元気に挨拶をして帰って行きました。


「トラ丸も椅子を気に入ったようね」

「な~♪」


 水龍ちゃんは、特大錬金釜を覗ける位置に置かれた専用椅子の上に座ってご機嫌なトラ丸を撫でました。トラ丸専用椅子を作成したサラさんも満足顔です。


「サラさん、これ代金です。テーブルを始め、いろいろ作ってくれてありがとうございました。とっても使いやすいです」

「それは良かった。今、領収書を出すよ」


 水龍ちゃんは代金を支払い、サラさんが用意してきた領収書を受け取りました。


「あの、サラさんに相談があるんですけど」

「ん? 何だい?」


「これに首紐を付けて、トラ丸の首飾りにしたいんです。サラさんは、こういった物の加工もできますか?」

「へぇ、金色の野苺か。見た感じ、金属じゃないようだけど、木彫りか何かかな?」


 水龍ちゃんが、ダンジョンで採取してきた金色のスパイスベリーを出して、加工の可否を尋ねると、サラさんは、スパイスベリーのパッと見の印象を口にしました。金色なので、作り物だと思ったようです。


「スパイスベリーっていうダンジョンで採れる実なんですけど、金色はとても珍しくって幸せを運ぶと言われているんです」


 そう言いながら、水龍ちゃんは、普通の赤いスパイスベリーをいくつか取り出して見せて、こっちが普通のだと示しました。


「なるほど、幸運を運ぶスパイスベリーか……」

「かわいい感じのアクセサリーにして、トラ丸に着けたいんですよね」


 サラさんが、なるほどと呟き、普通の赤いスパイスベリーを手に取って観察している横で、水龍ちゃんが、首飾りの希望を伝えました。


「う~ん、小さな穴を開けて金具を取り付け、それに首紐を付けることも出来るだろうけど、あまり長持ちはしないだろうな……。ポロリと取れて無くしてしまうかもしれない」

「そうですか……」


 サラさんの見解を聞いて、水龍ちゃんは、ちょっとしょんぼり顔です。しかし、サラさんは話を続けました。


「それよりも、お守り袋みたいなのに入れて、それを首紐に付けてみてはどうかな。可愛くするならお守り袋の見た目や首紐をアレンジするといい」

「なるほど! 丈夫なお守り袋に入れておけば、壊れたり無くしたりしなくて良さそうですね!」


 サラさんの提案に、水龍ちゃんの顔がぱあっと明るくなりました。費用もそれほどかからないだろうとのことで、水龍ちゃんは、トラ丸のお守り首飾りをサラさんに作ってもらうことに決めました。


 それからは、トラ丸も含めてみんなで、金色のスパイスベリーを入れるお守り袋のデザインについて、あーだこーだと楽しそうにアイデアを出すのでした。

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