4.水龍ちゃん、採集品を試してみる

第99話 薬草茶の味

 アーニャさんとのお買い物がキャンセルになって、水龍ちゃんは、震えるトラ丸を抱いて帰宅しました。家に着くころにはトラ丸の震えはすっかり収まり、顔色も良くなっていました。


「さて、今日は、ダンジョンで採れた薬草やスパイスなんかを使って、いろいろ試してみようかな」

「なー」


「とりあえず、薬草茶にしてみて、味比べをしたいわね」

「なー」


 ハーブティーを嗜みながら、水龍ちゃんは、今日の予定を立ててゆきます。トラ丸は、それもいいねー、などと相槌を打っていて、すっかり落ち着きを取り戻したみたいです。


 一息ついた水龍ちゃんは、トラ丸を連れて調合室へ入ると、昨日ダンジョンで採ってきた薬草をいくつか準備しました。昨日のうちに、薬草の本で得た知識を頼りに、乾煎りしたり陰干ししたりと大雑把に処理をしてあります。


「ふふっ、どんな味なのか楽しみねー」

「なー」


 水龍ちゃんは、いくつか用意したカップにそれぞれ別の薬草を入れてから、小さな鍋にお湯を沸かして、カップにお湯を注いで薬草茶を作ります。


 お茶にするにしても、それぞれの薬草に対して適したお湯の温度は違うのでしょうが、まずは様子見とばかりに沸騰したお湯で作りました。そもそもこれらの薬草が薬草茶に適するのかも分からないのですが、とりあえず試すのです。


 水龍ちゃんは、適当に時間を置いて蒸らした後、薬草が浮いたままのカップに口をつけました。


「うん、苦いわ」

「なー」


「うん、美味しくない」

「なー……」


「うわっ、こっちは苦みに加えて渋みが……」

「なぅ……」


「……」

「……」


 結果、どれも苦くて美味しくなかったようで、水龍ちゃんは、途中から無言で渋い顔をしながら味見していました。その様子をみていたトラ丸は、味見もしていないのに同じように渋い顔をしていました。


「もう少し、低い温度ならどうかしら」

「なー……」


 一度きれいに片付けてから、水龍ちゃんが、次の実験内容?を呟くと、トラ丸が、まだやるのー、と呆れた顔で鳴いていました。


 水龍ちゃんは、もう一度、今度は低い温度で薬草茶を作って味見をしました。味見の間、終始無言で渋い顔をしていた水龍ちゃんは、味見を終えると机に突っ伏してしまいました。


「全然おいしくないー……」

「なー……」


 水龍ちゃんが、げんなりした声で呟くと、トラ丸は、やっぱりね……、と溜め息を吐いていました。


 しばし机に突っ伏していた水龍ちゃんですが、お昼ご飯の時間だと気付くと、後片付けをして昼食を食べに出かけました。


「今は、カレーライスが食べたいわ!」

「なー!」


 美味しくない薬草茶を味わい続けていたからなのかは分かりませんが、水龍ちゃんは、無性にカレーライスが食べたくなったようで、トラ丸も たべたーい! と嬉しそうに鳴きました。


 水龍ちゃんとトラ丸は、アーニャさんに教えてもらったカレーの美味しいというお店へ入ると、メニューを開きました。いろいろなトッピングのカレーライスがあって目移りしてしまいそうです。


「う~ん、野菜ゴロゴロ具沢山カレーにしましょうか」

「なー!」


 水龍ちゃんが選んだのは、野菜ゴロゴロ具沢山カレーで、トラ丸も わーい! と嬉しそうです。


 しばし待つこと、出て来た野菜ゴロゴロ具沢山カレーは、その名のとおり大き目にカットされた具材がゴロゴロと山のようになっていて、具材の方がライスよりも多いくらいでした。


「トラ丸、なんかいろんな野菜が山盛りよ」

「なー」


「そうね、ちゃんとお肉もたくさん入っているわね」

「なー」


 水龍ちゃんは、トラ丸と話しながら、いつも持ち歩いているトラ丸用の木皿へと野菜ゴロゴロ具沢山カレーを取り分けます。


「いただきまーす!」

「なー!」


 水龍ちゃんとトラ丸は、野菜ゴロゴロ具沢山カレーを食べ始めました。


「あ、違う種類のお芋が入ってるわ」

「なーなー」


「そうね、いろんな豆も入っているわね」

「なー」


 野菜ゴロゴロ具沢山カレーには、芋やニンジンなどの根菜類を始め、いろいろな豆類、きのこ類など、ふんだんに入っていました。


 水龍ちゃんとトラ丸は、様々な具材の味や食感を楽しみながら、ほくほく顔で完食しました。




 お昼ご飯を食べて満足した水龍ちゃんとトラ丸は、図書館へと向かいました。水龍ちゃんは、薬草の本を取り出してきて、調べものです。


「う~ん、ヒール草を使ったポーションの研究が続けられているってあるけど、具体的な研究内容までは書かれていないわね」


 ヒール草のページを開いて読み込んでいた水龍ちゃんは、悩まし気に呟きました。一緒に本を眺めていたトラ丸は、水龍ちゃんの顔を見上げました。


「せっかくヒール草を見つけたから、研究されているというポーションを作ってみようかって思ったんだけどなぁ……」

「なー?」


「ん? 諦めるのかって? そうねぇ、ヒール草の薬草茶はおいしくなかったし、ほかに使い道もなさそうだから、ダメでもともと、適当にポーション錬成してみましょうか」

「なー」


 ちょっと残念そうに本を閉じた水龍ちゃんは、採集してきたヒール草で、ダメ元のポーション錬成を試みようかと言うと、トラ丸は、そだねー、と笑顔で軽い鳴き声を返すのでした。

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