第92話 ダンジョン散策
水龍ちゃんとトラ丸が、ダンジョン入口の大きな洞窟を一直線に駆け抜けると、洞窟の出口の先には、広大な草原が広がっていました。
「ん~、青い空、ダンジョン散策日和ね!」
「なー!」
青空の下、水龍ちゃんは、大きく息を吸い込むと嬉しそうに空を見上げました。トラ丸も上機嫌で水龍ちゃんの周りを駆けまわります。
「ふふっ、トラ丸、とりあえず5階層くらいまで、一気に駆け抜けるわよ!」
「なー!」
水龍ちゃんは、トラ丸へ声を掛けると、ばびゅんと駆け出しました。トラ丸も、意気揚々と水龍ちゃんを追いかけて行きます。
武器らしい武器も持たず、服装も普段着の水龍ちゃんですが、ちゃんとダンジョンについては調べてきました。水龍ちゃんの頭の中には、ダンジョンの地図がはっきりと入っています。
水龍ちゃんとトラ丸は、ハンター達の邪魔をしないように右へ左へ草原を蛇行しながらも、下の階層へ向けてほぼ最短ルートを駆け抜けて行きました。
そして、水龍ちゃんとトラ丸は、いちいち魔物の相手などせず、魔物のそばを駆け抜けるのです。魔物達はというと、水龍ちゃんとトラ丸のスピードに意識が追い付かないのでしょうか、なんだ? という感じで呆然としていました。
そんな感じで、水龍ちゃんとトラ丸は、危なげなく5階層までやって来ました。
「はっ!? お昼ご飯を食べるの忘れてたわ! ダンジョンだってことで、ついついはしゃいでしまったわね」
「なー」
「トラ丸、少し遅くなったけど、お昼ご飯にしましょ」
「なー!」
はっとして、お昼がとうに過ぎたのではと気付いた水龍ちゃんが、ご飯を食べようとトラ丸に言うと、トラ丸は、タタッと軽く駆け出して止まり、振り返りながら水龍ちゃんを誘うように、あそこー! と鳴き声を上げました。
「えっ? あそこへ登るの?」
「なーなー」
「なるほど、見晴らしが良さそうね。行ってみましょ!」
「なー!」
トラ丸が水龍ちゃんへ示した先には、垂直に切り立った大きな岩山がありました。確かに岩山に登れば見晴らしは良さそうですが、足場もほとんどなさそうな断崖絶壁を登らなければ辿り着けそうにありません。
しかし、水龍ちゃんとトラ丸は、岩山まで一直線に駆け寄ると、少ない足場をひょいひょい飛び跳ねるように断崖絶壁を駆け上がり、あっという間に岩山の頂上へと辿り着きました。
「うわぁ! きれいなお花畑だわ!」
「な~♪」
岩山の頂上には、かわいらしい小さな青い花がびっしりと咲き乱れていました。
「あら? このお花、ひょっとしてヒール草じゃないかしら?」
「なぅ?」
水龍ちゃんの呟きに、トラ丸は小首を傾げて目の前の草花をジッとみつめます。すぐに水龍ちゃんもしゃがみ込んで、足元の草花をよくよく観察しました。
「やっぱり、ヒール草だわ。こんなところに群生してたのね」
「なー?」
「ふふっ、ヒール草っていうのはね、——」
水龍ちゃんは、小首を傾げて見上げるトラ丸に、ヒール草について話しました。もちろん図書館で読んだ薬草の本で得た知識です。
ヒール草というのは、僅かに回復効果があるとされる薬草で、その群生地に立つとヒールの魔法と同様の効果が得られるといいます。ダンジョンにしか生育しないようで、高品質なポーションが作れるのではないかと研究されている素材なのです。
「さぁ、遅くなったけど、お昼ご飯にしましょ」
「な~♪」
水龍ちゃんは、見晴らしが良さそうな場所へ移動し、バックパックから出した小さな敷物を敷くと、トラ丸と共に敷物に座り、お弁当を出して広げました。
そして、お弁当箱から、小さなおむすびと、たこさんウインナーやたまご焼きなどのおかずをトラ丸専用の木皿に取り置くと、水筒からカップにお茶を注いで準備完了です。
「いただきまーす!」
「なー!」
水龍ちゃんとトラ丸は、美味しそうにお弁当を食べ始めました。トラ丸は、たこさんウインナーが大好きで、水龍ちゃんから追加のたこさんウインナーを貰って、とても嬉しそうに食べていました。
「ヒール草のお花畑もきれいだけど、この景色もなかなかのものねぇ」
「なー」
水龍ちゃんが、お茶を片手に岩山から見下ろす景色を堪能していると、トラ丸が、同じ景色を見ながら、だよねー、と相槌を打つように鳴きました。
「さぁてと、お片付けして、ダンジョン散策の続きといきましょ」
「なー」
お茶を飲み干した水龍ちゃんは、ぐぅっと伸びをしてから、テキパキと後片付けをしてしまいました。
「忘れずにヒール草を採取しなくちゃね」
「なー」
水龍ちゃんは、トラ丸が見守る中、小さなナイフを手にヒール草を採集してバックパックに詰め込みました。
「よし、トラ丸、行くわよ!」
「なー!」
水龍ちゃんとトラ丸は、楽しそうにタタッと駆け出すと、岩山の上からぴょいっと飛び降りました。かなりの高さからの大ジャンプでしたが、水龍ちゃんとトラ丸は、すちゃっとたいした音も出さずに着地すると、何ごとも無かったかのように駆けて行きました。
しばらく、ダンジョンを駆け抜けていた水龍ちゃんとトラ丸は、低木が疎らに生えた丘の上で立ち止まりました。
「この辺りが良さそうね」
「なー?」
腰に手を当て、辺りを見回し、うんうんと頷く水龍ちゃんに、トラ丸は、んー? と頭にハテナを浮かべています。
「この5階層では、稀に珍しいスパイスが取れるそうなのよ。ダンジョン散策しながら探してみようかなってね」
「なー!」
水龍ちゃんの説明に、トラ丸も俄然やる気になったようです。
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