2.水龍ちゃん、ダンジョンを散策する
第91話 ダンジョンへの道
「トラ丸、今日はダンジョンへ行くわよ!」
「なー!」
水龍ちゃんとトラ丸は、ワクワク顔でダンジョンへと向かいます。
先日、ハンター登録試験の場で、水龍ちゃんが倒した小太り男は、なんと、新人ハンターいびりで悪名高い中堅どころのハンターだったのですが、水龍ちゃんは、小太り男を余裕で倒したことから、ハンターとして十分な力があると認められ、本来の試験なしにハンター登録することができました。
ちなみに、ちびっ子受験者2名は、水龍ちゃんの戦いぶりにビビったようで、年齢を偽っていたのだと正直に告げて、試験を辞退したとのことです。
水龍ちゃんとトラ丸は、ダンジョンへ続く道をトコトコ歩いて行きます。
「綺麗に整備されていて、竜車も走りやすそうね」
「なー」
幅広の道は石畳が敷かれ、しっかりと整備されており、ときおり荷物を積んだ竜車が通って行きます。
「この道はね、昔、普通に踏み固めただけの道だった頃、毎日、竜車がたくさん通るから、すぐに凸凹になっちゃって、直すのが大変だったそうよ」
「なー」
「だから頑丈な石を敷き詰めて整備したんだってー」
「なー」
水龍ちゃんとトラ丸は、そんなたわいのない話をしながら、トコトコトコトコ歩いて行きます。道の周囲は田畑が広がり、青々とした作物がそよ風にゆらゆらと揺られて気持ちが良さそうです。
2時間くらい歩いたところで、建物が寄り集まった集落が見えてきました。
「あれがダンジョン村ね。アーニャさんが言ってたわ。ダンジョンで狩った魔物素材や採集品を目あてに人が集まって来て村のようになったのだそうよ」
「なー」
「道沿いに行けば、ハンターギルドの出張所があるそうなの。まずは、そこへ行ってみましょ」
「なー」
水龍ちゃんは、ダンジョン村と呼びましたが、入ってみれば村というよりも小さな町のようでした。宿や飲食店、武器や防具の店に薬屋など、ハンター達が利用するであろう店が軒を連ねています。
石畳の道に沿って、トコトコ歩いていくと、ハンターギルド出張所の看板を見つけました。町の端っこのようで、その先に建物はないようです。
「あそこが、ハンターギルドの出張所ね」
「なー!」
水龍ちゃんとトラ丸は、意気揚々と、ハンターギルド出張所へと向かいます。
どっしりとした大きな看板が建てられていて、巨大駐車場のような広いスペースの真ん中に木造平屋の建屋がポツンと建っています。
「アーニャさんに聞いてたとおり、大きな広場があるわね。ここで魔物素材の買い取りが行われるそうよ」
「なー」
「夕方、ハンター達がダンジョンから帰って来るころには、商人たちも集まって来てとても賑わうそうなの」
「なー」
通常、ハンター達が獲得した魔物素材や採集品は、一度ハンターギルドが買い取ってから売りに出されるのですが、ダンジョンから持ち帰られる品物は数が多いため、ここでは商人たちを集めて直接取引をさせているそうです。
ハンターギルドは場所を提供し、商人たちから買い取り価格に応じてハンターギルドが金銭を受け取るのだそうです。レアな物などは、即興で競売が行われるなど、毎日盛況とのことです。
水龍ちゃんは、トラ丸と共に広場の奥にある平屋へと歩いて行くと、平屋の軒下にある掲示板の前で立ち止まりました。
「これが、アーニャさんの言ってた掲示板ね」
「なー」
水龍ちゃんが、ふむふむと掲示板を覗き込むと、トラ丸は、ぴょいぴょいっと水龍ちゃんの肩へと登って、一緒に覗き込みました。
掲示板には、ダンジョンの状況とか品薄で高価買取が見込める素材など、いろいろな情報が載っているので、ダンジョンへ入る前に見ておくといいと、アーニャさんからアドバイスを受けていました。
「あっ! 高価買取だって。こっちにも。こっちもだわ! ふふっ、たくさんあって目移りするわねぇ」
「なーなー」
「そうね、今日は、お散歩に来たのだから、帰りにちょっとだけ獲って帰ろうか」
「なー」
高価買取の文字を目ざとく見つけて、目を輝かせる水龍ちゃんに、トラ丸が、きょうはおさんぽだよー、とでも言ったのでしょうか、水龍ちゃんが、帰りにちょっとだけと言うと、トラ丸も納得したようです。
ささっと一通り掲示板を確認した後、水龍ちゃんとトラ丸は、ハンターギルド出張所のある広場を通り抜け、林の中の大きな道を歩いて行きます。この林の向こうにダンジョンがあるそうです。
林を抜けると、見上げるほどの巨大な岩にあいた大きな洞窟がありました。ダンジョンの入口です。そこは、竜車が数台並んで入れそうなほどの大きな洞窟で、ハンターらしき人達がちらほら出入りしています。
「なかなか良さそうなダンジョンね!」
「なー!」
ダンジョン入口まで来た水龍ちゃんが、ワクワク顔で両の拳をきゅっと握って声を上げると、トラ丸も嬉しそうに元気な鳴き声を上げました。
ただでさえ子供にしか見えない水龍ちゃんですが、普段着で武器も持たずにバックパックを背負っているだけなので、どう見てもダンジョンに入るとは思えない姿で、場違い感が半端ないです。
「おい、そこの子供!」
水龍ちゃんを心配したのでしょう、ほどよい距離を歩いていたハンター達のうち、人の良さそうな男が声を掛けて来ましたが、水龍ちゃんもトラ丸も気付くようすはありません。
「トラ丸、駆けっこしましょ!」
「なー!」
テンション上げ上げの水龍ちゃんとトラ丸は、ハンターの掛け声に全く気付かないまま、ばびゅんと、ものすごい勢いで走りだしてしまいました。
水龍ちゃんに声を掛けて来たハンターを含めて、近くにいたハンター達は、水龍ちゃんとトラ丸が、あっという間に小さくなるのをポカーンと口を開けて見つめるのでした。
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