第89話 お休みの過ごし方

 昨日、納品用のポーションを大量に作った水龍ちゃんは、トラ丸を肩に乗せて、おばばさまと一緒に薬師ギルドへと向かいました。


「おはようございまーす」

「なー!」

「「「「いらっしゃいませー」」」」


 薬師ギルドに入り、水龍ちゃんとトラ丸が元気よく声を上げると、ギルド職員達がみんな笑顔で迎えてくれます。


 毎日毎日、治癒ポーションを買い取りしてもらっているうちに、水龍ちゃんは、すっかり薬師ギルドに馴染んでいました。


「今日も買い取りお願いします」

「なー」


 買い取りカウンターの受付で、いつものように水龍ちゃんが笑顔でお願いすると、トラ丸がカウンターへ飛び降りて、よろしくねー、とでもいうように鳴き声を上げました。


「了解よ。今日もトラ丸はかわいいわねー」

「な~♪」


 受付のお姉さんは、にっこり笑顔で応対しながらカウンターのトラ丸をモフモフしました。トラ丸は、気持ちよさそうに目を細めて尻尾をゆらゆら揺らしています。


「今日は、なんだか嬉しそうねぇ。何かあったのかしら?」

「えへへ、今日はお休みなんですよ」


「そうなのね。う~ん、休みが一緒なら美味しいご飯を食べに行けたのに、私の休暇は明後日なのよ。残念だわ」


 お姉さんは、残念そうに肩を竦めました。


「明後日なら、私も休みですよ」

「えっ? でも、今日が休みなんでしょう?」


 水龍ちゃんの言葉に、お姉さんは、目をパチクリさせました。


「ふっふっふ、連休なのです」

「まぁ!」


 水龍ちゃんが腰に手を当て自慢げに告げると、お姉さんは、口に手を当てて驚いていました。


「ふふっ、それじゃぁ、一緒に美味しい物を食べに行けるわね」

「はい!」

「なー!」


 受付のお姉さんのお誘いに、水龍ちゃんとトラ丸は、嬉しそうに元気に返事をするのでした。これで、また1つ休暇の予定が決まりました。




 治癒ポーションの買取を終え、薬師ギルドを出た水龍ちゃんは、図書館へと足を運びました。


「おはようございます」

「なー」

「おはようございます、水龍ちゃん。トラ丸も久しぶりですね」


 図書館の入口で受付のお姉さんと挨拶を交わしました。受付カウンターにぴょいっと飛び降りたトラ丸は、受付のお姉さんにモフモフされて気持ちよさそうです。


「はい。しばらくポーション作りで忙しくて来れなかったんですけど、ようやくお休みを取れるようになったんです!」

「そうだったのですね」


「これからまた、本を読みに来ますので、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いしますね」


 水龍ちゃんの話を聞いて、受付のお姉さんは嬉しそうに微笑むと、思い出したように口を開きました。


「そうそう、鬼滅の拳の新刊が入りましたよ」

「本当ですか!?」


 お姉さんからもたらされた情報に、水龍ちゃんの目が、カッと見開きました。ちょっと大きな声が漏れてしまったので、お姉さんに人差し指で、しー、っと注意されてしまいました。


「ふふっ、新刊コーナーに置いてありますので、是非とも読んで行ってくださいね」

「さっそく、読んでみます」


 水龍ちゃんは、すぐに新刊コーナーへ行き、鬼滅の拳の最新刊を手に取りました。


「うふふっ、今回はどんな展開になるのか楽しみね」

「なー」


 机と椅子が並べられた読書コーナーに陣取って、水龍ちゃんは鬼滅の拳の最新刊を読みふけります。トラ丸も水龍ちゃんと本の間にちょこんと陣取り、一緒に本を眺めています。


 鬼滅の拳は、鬼滅龍拳の使い手である主人公が、人を喰らえば喰らうほど異様な能力を身に付けて強くなるゴブリンやオーガを拳1つで倒していくというハラハラドキドキのバトル小説です。


 そして、主人公が使う秘奥義の1つ、”昇龍パンチ”が炸裂するシーンは、毎回格好良い挿絵が入っていて、水龍ちゃんのお気に入りなのです。


「ふう、面白かったわー。ファイヤーオーガに窮地に追い込まれてからの、必殺の昇龍パンチで逆転劇、ハラハラドキドキの展開だったわ」

「なー」


 物語を一気に読み終えた水龍ちゃんが、満足げに感想を述べると、トラ丸は、よかったねー、と愛嬌いっぱいに水龍ちゃんの顔を見上げました。


「う~ん……、少し早いけど、お昼ご飯にしようか」

「なー」


 水龍ちゃんは時計を確認すると、少し早いけれど、お昼ご飯を食べに図書館を出ることにしました。


「ご飯を食べてきます」

「了解しました。ごゆっくりどうぞ」


 水龍ちゃんが、受付にご飯を食べに出ることを伝えると、受付のお姉さんは、にっこり笑顔で見送ってくれました。


「なにを食べようかしら」

「なー」


 通称、屋台広場を歩きながら今日のお昼を考えていると、トラ丸が、おいしそー、と鳴き声を上げました。


「えっ? あそこの屋台がいいの?」

「なー!」


 トラ丸のリクエストした屋台は、美味しそうな唐揚げの屋台で、おにぎりも一緒に並べられていました。ちょうどお昼時なためでしょう、どんどん唐揚げが揚げられてゆき食欲をそそります。


「おいしそうね。よし、今日のお昼は唐揚げにしましょ」

「な~♪」


「Lサイズ1つと、こっちのおにぎり2つ下さい」

「毎度あり! 揚げたてをサービスしとくよ!」


「ありがとう!」

「なー!」


 水龍ちゃんが、にっこり笑顔で注文すると、気の良さそうなおじさんが、揚げたての唐揚げを少し多めにサービスしてくれました。


 屋台広場は、フードコートのような自由に使えるテーブルが点在しています。水龍ちゃんとトラ丸は、あいているテーブルに着いて、お昼ご飯にします。


「ん~♪ 揚げたての唐揚げ、おいしいわ~」

「な~♪」


 水龍ちゃんもトラ丸も幸せそうな顔で唐揚げを頬張ります。


「このスパイスの味わい深さ、なかなかやるわねぇ」


 しばらくスパイスの研究をしていた水龍ちゃんは、ついつい唐揚げに使われているスパイスの配合に気が行ってしまうようでした。


 そんな感じで、お休みモード?でゆっくりまったりと食事を終えると、水龍ちゃんとトラ丸は、再び図書館へと向かうのでした。


「今日は、まだまだ本を読むわよ!」

「なー!」


 この日の水龍ちゃんは、図書館を存分に満喫するのでした。

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