第88話 休暇計画始動

「もうこんな時間だわ。トラ丸、薬師ギルドへ行くわよ!」

「なー!」


 警察の事情聴取を終えて帰宅した水龍ちゃんは、ポーション錬成部屋で新型治癒ポーションの入った大瓶をバックパックへ詰め込んで、トラ丸と共に薬師ギルドへ向かいました。


「おはよう水龍ちゃん。今日は、来るのが遅かったけど、何かあったの?」

「それがですねぇ、——」


 薬師ギルドのポーション買取カウンターで、担当職員のお姉さんが雑談感覚で話しかけて来たので、水龍ちゃんは、今朝の早朝バトルのことを話して聞かせました。


「水龍ちゃんって、商業ギルド向けに新型治癒ポーションを大量に作ってるんでしょう? そんなに忙しいところに事件なんて、たいへんねぇ……」


 トラ丸をモフモフしながら話を聞き終えた職員のお姉さんは、忙しいのにと眉を下げて同情してくれました。

 だが、しかし、水龍ちゃんは、不敵な笑みを浮かべて口を開きました。


「ふっふっふ、それがですねぇ、なんと、今日からウキウキワクワク休暇計画を発動するのですよ」

「なー!」


 ここぞとばかりに、待望の休暇計画のことを自慢げに話す水龍ちゃんに合わせて、受付カウンターの上でモフられていたトラ丸も、すごいでしょー、とドヤ顔を決めました。


「ウキウキワクワク休暇計画?」

「そうです、そうなんです! ようやく、卵サンドの納品が終了したんです。朝っぱらから事件に巻き込まれはしたんですけど、些細なことです。かねてから準備してきたウキウキワクワク休暇計画を発動し、明日は休暇を取るんです!」


 微笑まし気に小首を傾げたお姉さんに、水龍ちゃんは、小さな拳を握りしめ、思いの限りを熱く語るのでした。もちろん、トラ丸はドヤ顔です。


「ふふっ、ちゃんとお休みを取るつもりなのね。安心したわ。今度、お休みの日に美味しいご飯でも食べに行きましょうね」

「はい!」

「なー!」


 どうやら、薬師ギルドのお姉さん達に、少し心配されていたのかもしれません。

 お姉さんからの食事のお誘いに、水龍ちゃんとトラ丸は、嬉しそうに返事をするのでした。


 薬師ギルドで新型治癒ポーションを買い取ってもらった水龍ちゃんは、いつものように、おすそ分けポーションをお姉さんに渡して喜ばれると、嬉しそうに薬師ギルドを後にしました。




 途中、屋台で串焼きを買って帰った水龍ちゃんとトラ丸は、家に入ると、さっそく端っこパンの盛り合わせを用意すると、お茶を入れて、お昼ご飯にしました。


 水龍ちゃんは、串焼き肉を串から外して、トラ丸用の木皿にのせてあげると、自身も串から外したお肉を端っこパンの上にのせ、いただきますをしてからパクリと頬張ります。


「う~ん、このタレが美味しいのよね~」

「な~♪」


 屋台特製の焼肉のたれは絶品で、水龍ちゃんもトラ丸も、思わず幸せな笑みをこぼします。パクパクもぐもぐと、あっという間に食べつくしてしまいました。

 水龍ちゃんとトラ丸は、食後のハーブティーを飲んでほっこりです。



「さてと。トラ丸、ウキウキワクワク休暇計画を開始するわよ!」

「なー!」


 食休みも十分に取った水龍ちゃんは、いよいよとばかりに計画を実行に移すべく動き出します。


「まずは、新型治癒ポーションの量産よ!」

「なー!」


 水龍ちゃんは、トラ丸の応援を受けながら、特大錬金釜を使って新型治癒ポーションの大量生産を行います。先日、特大錬金釜を目一杯使って生産することで、1回の生産で特大瓶12本、ちょうど2ケース分の治癒ポーションを作ることに成功しています。


 もくもくと生産を続けた水龍ちゃんは、何度も生産を繰り返し、新型治癒ポーションの山を積み上げてしまいました。


「ふぅ、こんなものかしら」

「なー」


 ようやく生産を止めた水龍ちゃんに、トラ丸は、おつかれさまー、とでも言う感じで労いの鳴き声を上げました。


「よし、調子がいいから、一気に毒消しポーションも作ってしまいましょ」

「なー!」


 水龍ちゃんは、休憩も取らずに、毒消しポーションも作ってしまうようです。そんな水龍ちゃんをトラ丸は、がんばれー、と応援しています。


 水龍ちゃんは、勢いそのままに、鼻歌交じりで赤毒ポーションと青毒ポーションを交互に作り、順調に在庫を積み上げてゆきました。



そして夕方。


「調子はどうかの?」

「あ、ばばさま、お帰りなさーい」

「なー」


 帰宅したおばばさまが、ポーション錬成部屋を覗いて声を掛けると、青毒ポーションを作っていた水龍ちゃんとトラ丸が、お帰りなさいと挨拶しました。どうやら、水龍ちゃんは、ポーション作りに夢中になっていて、おばばさまの帰宅に気付かなかったようです。


「ふっふーん、ポーション作りは絶好調よ。これを作り終えれば、計画通り10日分のポーション生産が完了するわ」

「なぬぅ!?」


 水龍ちゃんの返答を聞いて、おばばさまは、目玉が飛び出すほどに驚きました。見れば、部屋の壁際にポーション入りの特大瓶の入ったケースが、きれいに何段も積み上がっています。


「はぁ……、まさか、本当に1日で10日分を作るとはな。お前さんのやる事には、もう驚かなくなったと思っておったのじゃが、久しぶりにたまげたわい」

「なー!」


 おばばさまの言葉に、トラ丸がドヤ顔で胸を張り、どうだ、と言わんばかりに元気よく鳴き声を上げる中、水龍ちゃんは、実に楽しそうに青毒ポーション作りを続けるのでした。

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