第87話 ハンター登録の話
倒したタキシードおじさんとマフィアギルドの男達のことは、ハンターギルドのギルマスに任せて、水龍ちゃんは、毒消しアイテムを納品するためハンターギルドへとやって来ました。
水龍ちゃんは、ハンターギルドの職員へ事情を話して、マフィア達の処理に残ったギルマスの応援に向かってもらうようにお願いしてから、いつものように、毒消しアイテムを買い取ってもらいました。
「最後の納品、お疲れさまでした」
「お買い上げいただき、ありがとうございます」
アーニャさんの労いの言葉に、水龍ちゃんがわざとらしく丁寧に返答すると、2人はふふふと笑い合いました。カウンターの上のトラ丸も何だか嬉しそうにゆらゆらと尻尾をゆらしています。
「それじゃぁ、水龍ちゃんを誘拐しようとした犯人達の顔でも見に行きましょうか」
「はーい」
「なー」
アーニャさんが声を掛けると、水龍ちゃんとトラ丸が素直に返事をしました。マフィア達は、現場に残ったギルマスが対応していますが、誘拐されそうになった水龍ちゃんも警察に事情を説明する必要があるため、納品が終わったら顔を出すようにと言われているのです。
「そうそう、毒持ち魔物が減ってダンジョンも正常運転に戻ったから、水龍ちゃんもハンター登録できるようにしようかって、ギルマスが話してたわよ」
「ほんとですか!?」
「ええ、本当よ。明日、ギルド内で定例の打ち合わせがあるから、そこで決定すると思うわよ」
「やったー!!」
現場へ向かいながら、アーニャさんがハンター登録の話を持ち出すと、水龍ちゃんが飛び上がるほどに喜んでいました。
実のところ、よその町のハンターギルドで年齢を偽った子供をハンター登録して問題になったということで、現在、全てのハンターギルドで子供のハンター登録を停止していました。
水龍ちゃんは、10人からの盗賊共を一網打尽にするほどの実力を示しているのですが、どう見ても子供にしか見えないため、ハンター登録を断られていたのです。
水龍ちゃんたちが誘拐未遂の犯行現場に到着すると、縄で手足を縛られた犯人たちが集められていました。警察官の姿もあります。
ギルマスと合流した水龍ちゃんは、その場で警察に事情を説明しました。
対応してくれた警察官は、以前、水龍ちゃんが盗賊を捕まえた時にも対応してくれた人で、水龍ちゃんを見て、また君か、と苦笑いしていましたが、水龍ちゃんは全然覚えていなかったようで首を傾げていました。
その警察官は、水龍ちゃんがタキシードおじさんをぶちのめしたと聞いても、素直に受け止めてくれましたが、トラ丸が、マフィアギルドの男1人をアフロ頭にしたことにはちょっと驚いていました。トラ丸って、見た目は小さな子猫ですから、そんなことが出来るとは思えなかったのでしょう。
そんな感じで警察への説明は淡々と進められ、思いのほかあっさり終わりました。
「ギルマス! 私、ハンター登録できるようになるんですか!?」
「なー?」
警察への説明が終わるなり、水龍ちゃんはギルマスを捕まえて、鼻息荒く尋ねました。トラ丸も水龍ちゃんの肩の上で、どうなのよ? と、ギルマスに視線を向けています。
ギルマスは、ちょっと驚いたようですが、視線をアーニャさんへ送ると、アーニャさんは、にっこり笑顔で頷きました。アーニャさんが水龍ちゃんに話したのだと分かったのでしょう、ギルマスは、仕方がないなぁ、という感じで口を開きました。
「まぁ、明日の定例会議で正式に決定となるんだが、実年齢を偽っている可能性のある少年少女は、実力試験を行うことにしようって話なんだよ」
「試験?」
「なぅ?」
「ああ、ハンターとしてやっていけるだけの身体能力があるかどうか、特に危険な魔物に対応できるだけの技量があるかを確認するための試験だよ」
「なるほど」
「なー」
ギルマスの説明に、水龍ちゃんとトラ丸は、納得したようです。
「それでな、水龍ちゃんには申し訳ないのだが、ハンター登録をするなら一応その実力試験を受けて貰わなければならないんだ」
ちょっと申し訳なさそうに、ギルマスが告げました。水龍ちゃんは、どこからどう見ても幼い子供に見えるので、大人の年齢に達していたとしても試験を受けることになってしまうのです。
この実力試験自体が、未熟な子供が年齢を偽ってハンター登録してしまい問題になってしまったことに対する対策なのですから仕方がありません。
「要は、その試験に合格すればいいのよね。がんばるわ!」
「なー!」
水龍ちゃんが、小さな拳をぎゅっと握りしめると、トラ丸が、がんばれー、とばかりに応援してくれました。
そんな姿をアーニャさんとギルマスは微笑ましく見つめるのでした。
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