第86話 早朝バトル
突然、聞こえて来た声に、タキシードおじさんとマフィアギルドの男達が振り返ると、すぐそこにがっしりした体格の髭面男が双眸を怪しく光らせ、首と拳をコキコキと鳴らす姿がありました。ハンターギルドのギルマスです。
「貴様、いつの間に……」
スキンヘッド男が、苦々しい顔で呟きました。どうやら、ギルマスの接近に全然気付かなかったようです。
「な、何故、ハンターギルドのギルマスがいるのです!? マフィアギルドの見張りはどうしたのですか!?」
「ふん、なんか襲い掛かって来た奴らがいたが、道端で寝てるぞ」
タキシードおじさんが、驚きと動揺に狼狽えながら叫ぶと、ギルマスが鼻を鳴らして、暗に返り討ちにしてやったと告げました。
「ぐはははは、お前が、この街のハンターギルドマスターか。つまらない仕事だと思っていたが、少しは楽しめそうだなぁ!」
「「「げひゃひゃひゃひゃひゃ」」」
スキンヘッド男が、愉快気に笑い声を上げ、筋肉をムキムキと動かしてから持っていた剣を鞘から抜き放つと、マフィアギルドの男達が下卑た笑い声を上げながら各々の武器を手にして構えます。
「野郎ども、行くぞ!!」
「「「ヒャッハー!」」」
スキンヘッド男の掛け声で、彼を先頭にマフィアギルドの男達が、ギルマスに向けて一斉に攻撃を仕掛けました。
「ふん、ふん、ふん、ふん!!!!」
「がはっ!」「ぎひっ!」「ぐふっ!」「げほっ!」
しかし、ギルマスは、気合一閃、スキンヘッド男を筆頭に、片っ端からマフィアギルドの男達を殴り飛ばしてしまいました。
あっという間にマフィアギルドの連中が宙を舞い、地面に叩きつけられてしまいました。残ったのは、タキシードおじさんと出遅れてしまったマフィアギルドの男1人だけとなり、2人とも信じられないとばかりに目を見張ったまま固まっていました。
「ふん、口ほどにもないな」
ギルマスは、吐き捨てるように言うと、残りの2人をギロリと睨みつけました。
「ひ、ひえぇぇぇーーーー!!!」
「お、おい! 待てぇ!」
マフィアギルドの男が、一目散に逃げだすと、タキシードおじさんが飛び留めますが、逃げた男は止まりません。
「ギルマス、1人逃げましたよ」
「ふん、放っておけばいい」
水龍ちゃんが、逃げたマフィアギルドの男を指さしましたが、ギルマスは、目の前のタキシードおじさんの方が危険だとばかりに、鼻を鳴らして答えました。
「ダメよ。褒賞金が減るじゃない。トラ丸、頼めるかしら?」
「なー!」
水龍ちゃんが、ぷぅっと頬を膨らませて文句を言ってからトラ丸にお願いすると、トラ丸は、まかせてよー! とばかりに鳴き声を上げ、ぴょんっと地面へ飛び降りると、バビュンとものすごい勢いでマフィアギルドの男を追いかけました。
バリッ!! 「ぴぎゃっ!!」
なんと、トラ丸は、逃げるマフィアギルドの男に追いつくやいなや、額の辺りから電撃を飛ばして、一撃のもとに仕留めてしまいました。
ギルマスは、トラ丸の電撃を視界の端に捕らえると、一瞬目を見開きました。
偶然にも、ギルマスがトラ丸に意識を取られたその一瞬の間に、タキシードおじさんが、ナイフを抜いて水龍ちゃんへ向かって飛び出しました。
一瞬動き出しが遅れたギルマスですが、余裕で水龍ちゃんを守り切れると思っているのでしょう、焦る様子もなく、タキシードおじさんを追って駆け出します。
「くそっ! この娘を人質に——、ごほっ!!」
しかし、タキシードおじさんは、電光石火のごとくシュパっと一瞬で間を詰めた水龍ちゃんに、回転アッパーカット?で吹き飛ばされてしまいました。その光景を見たギルマスは、目を見開いて立ち止まってしまいました。
「しょー、りゅー、ぱーんち!!」
すちゃっと華麗に着地してから、水龍ちゃんは、地面へ叩きつけられるタキシードおじさんへ向けて、小さな拳をぽふっと突き出し、必殺技?の名前を間延びした声で叫びました。なんともいえず緊張感のない感じなのは、水龍ちゃんのご愛嬌です。
「水龍ちゃんが殴らなくても、俺が、いや、私が始末したのになぁ……」
「ふっふーん、1人くらいは、倒さないとね!」
ギルマスが、苦笑いしながら第一人称を管理者モードに訂正しなおし肩を竦めてみせると、水龍ちゃんは、腰に手を当てふんすと胸を張りました。
「それにしても、たまたま早起きして、偶然散歩に出たら、このありさまだ。水龍ちゃんが無事で良かったよ」
「あれ? 毎日、散歩してますよね?」
「えっ!? た、たまたまだよ、たまたま、偶然、偶発的ってやつ?」
「ふふっ、そういうことにしておきましょ」
たまたま偶然を連発するギルマスに、水龍ちゃんは、ふふふと笑って大人な対応です。実のところ、水龍ちゃんは、気配でギルマスが毎朝近くを散歩?していことに気付いていたのです。
その後、トラ丸が、逃げたマフィアギルドの男をずりずりと引きずって凱旋してきましたが、哀れなマフィアギルドの男は黒焦げアフロ姿でした。
「トラ丸、ごくろうさまー」
「なー!」
水龍ちゃんが労うと、トラ丸は運んできたマフィアギルドの男をほっぽり出して、水龍ちゃんの胸へと飛び込んできました。もちろん、水龍ちゃんは、そんなトラ丸を褒めながら、なでなでしまくるのでした。
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