第84話 新型赤毒ポーション生産開始
「トラ丸、新型赤毒ポーションの完成版を作るわよ!」
「なー!」
水龍ちゃんとトラ丸は、競売用の新型赤毒ポーションの生産を開始しようと、ふんすと気合を入れました。
今朝の毒消しアイテム納品時、アーニャさんから新型赤毒ポーションの有効性が確認できたと報告があったのです。
「まずは、薬草の下ごしらえからね!」
「なー!」
なぜか調合室で、水龍ちゃんは、赤毒に効く成分を含むアカレギョウンという薬草を計量スプーンで量って小鍋に入れました。
そこに魔法で水を入れ、さらに、塩を計量スプーンで量って入れて軽く掻き混ぜ、魔導コンロの加熱と共に、魔法を使って温度を上げて、沸騰したところで魔導コンロを弱めて沸々と煮込みます。
なるほど、小鍋を使うには、調合室の小さな魔導コンロが扱いやすいのですね。
「ふふっ、こうやって塩ゆですることで辛み成分が抜けるのよ。それでいて、毒消しの有効成分はほとんど出てこないから不思議よねー」
「なー」
水龍ちゃんは、鍋の沸騰具合を見てちょうどよい加熱量だとみると、秤を前に籠の中からスパイスを取り出して、重さを量り始めました。
籠の中には、新型赤毒ポーションで使うスパイスとハーブを一式入れてあります。少量しか使わないものもあり、秤を使って正確に量っているのです。
「ふふふん、ふふふん、ふふふのふん♪」
「なぅな~、なぅな~、なぅなぅな~♪」
水龍ちゃんは、鼻歌を歌いながら次々とスパイスやハーブを量り、1つのお椀に入れてゆきます。トラ丸も、テーブルの上に置かれた置時計の前で、体と尻尾をゆらゆら揺らして楽しそうです。
水龍ちゃんは、必要なスパイスを一通り量り終えるとトラ丸へ視線を向けました。
「なー、なー」
「あと1分ほどで10分経つのね。ありがと、トラ丸」
トラ丸が、置時計を確認し、塩ゆで時間を教えてくれると、水龍ちゃんは、満面の笑みでトラ丸をなでなでしました。
「なーなー」
「ありがと、トラ丸」
1分後、トラ丸が時間だよーと知らせると、水龍ちゃんは魔導コンロを止めて、茶こしを通して塩ゆで汁を大きめの鍋に捨てました。
そして、ボウルに魔法で水を張って塩ゆで薬草をすすぎ洗いし、水を切ってきれいなボウルへ取り置きました。
「さぁ、下ごしらえは十分だわ。ポーション錬成するわよ!」
「なー!」
場所を移して、水龍ちゃんとトラ丸は、ポーション錬成部屋の特大錬金釜の前に立つと、ふんすと気合を入れ直しました。
水龍ちゃんは、ボウルに取り置いた塩ゆで薬草を特大錬金釜へと入れると、魔法で水を出して魔法水を注ぎ入れてゆきます。
特大錬金釜の半分ほどを魔法水で埋めると、水龍ちゃんは、魔導コンロのスイッチを入れ、お椀に入れたスパイス類をドバっと特大錬金釜へ投入しました。
さらに、ロゼールソウを計量スプーンで量って投入します。ロゼールソウは、綺麗な赤色の成分が抽出されるハーブで、紫色の赤毒ポーションを赤紫にして青毒ポーションと色分けしやすくするために入れています。
「ふふふん、ふふふん、ふふふのふん♪」
「なぅな~、なぅな~、なぅなぅな~♪」
水龍ちゃんは、トラ丸と一緒に鼻歌を歌いながら、魔法を使って特大錬金釜の魔法水の温度を上げて沸騰させると、魔導コンロの加熱を弱くしました。
「さぁ、ポーション錬成開始よ!」
「なー!」
水龍ちゃんは、トラ丸の応援のもと、大きなミスリル製の掻き混ぜ棒を手に取り魔力を込めながら特大錬金釜の中をかき混ぜ始めました。
「ふふふん、ふふふん、ふふふのふん♪」
「なぅな~、なぅな~、なぅなぅな~♪」
楽し気に鼻歌を歌いながらポーション錬成をしていると、特大錬金釜の魔法水がぽわわと淡い光を発し、赤みの強い橙色からだんだんと色合いが紫色っぽく変化してゆきました。
「うん、いい色合いね。トラ丸、時間はどうかしら?」
「なー」
「12分ね。丁度いいくらいだわ。15分を過ぎると酷い辛みが出て来るのだから不思議よねー」
水龍ちゃんは、大きなミスリル製の掻き混ぜ棒を錬金釜から引き上げると、魔導コンロを止めました。
薬草やスパイスの混じった赤毒ポーションは、以前の試作品と比べて若干くすんだ赤紫色となっています。スパイスの影響で、若干くすんだ色になったのです。
「さて、お味の方は、どうかしら?」
水龍ちゃんは、人差し指をピッと立て、水流操作で特大錬金釜から赤毒ポーションを少しだけ宙に浮かせ、パクっと口の中へと放り込みました。
「うん、悪くないわ」
「なー」
にっこり笑顔で頷く水龍ちゃんに、トラ丸もよかったねー、と笑顔で答えます。
「それじゃぁ、ろ過するわね」
「なー!」
水龍ちゃんは、トラ丸の声援を受けながら両手をかざし、水流操作で特大錬金釜の赤毒ポーションを薬草ごと全て空中に浮かせると、腕をふわっと動かしました。
特大錬金釜の真上にぷよよんと浮いた大きな赤毒ポーションの塊から、細い水の流れが2本立ち昇り、くるくると螺旋を描きながら降りてきて、特大錬金釜へと注がれてゆきます。
みるみるうちに、宙に浮かせた赤毒ポーションが小さくなってゆき、ソフトボール大の茶殻入りポーションとなったころ、水の糸がプツリと切れました。
「ふぅ、こんなもんね」
水龍ちゃんは、残った茶殻入りポーション玉をボウルに注ぎ入れると、洗浄済みの空の特大瓶1ケースを特大錬金釜の隣に運び、全ての蓋を外しました。
「さぁ、瓶詰開始よ! それー!」
水龍ちゃんが、特大錬金釜へと両手をかざし、掛け声とともにぶわっと両腕を上げると、6本の細い赤毒ポーションの水流が立ち昇り、放物線を描いて、それぞれ特大瓶へと注がれてゆきました。
あっという間に瓶詰を終え、蓋をすれば瓶詰作業は完了です。
「最後に、ポーション鑑定ね」
「なー」
水龍ちゃんは、特大錬金釜に少しだけ残しておいた新型赤毒ポーションを小瓶に入れて、調合室のポーション鑑定魔道具に掛けました。
「うん、3級ね。品質よし!」
「なー」
品質確認を終えて満足顔の水龍ちゃんに、トラ丸が、ごくろうさまー、と声を掛けるのでした。
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