第82話 毒消しポーションの販売ルート

 水龍ちゃんが、新しく開発した赤毒ポーションを特許申請していないと言うと、プリンちゃん、シュリさん、トーマスさんの3人が、驚きの声を上げました。


「ちょっと美味しくなっただけで、ポーション等級は変わらないわよ? さすがに特許は取れないんじゃない?」

「これほど、飲みやすくされたのですから、特許の取得も十分可能と思われますよ」


 味が変わっただけで特許なんてという水龍ちゃんに、シュリさんが、ハンカチで額の汗をぬぐいつつ苦笑しながら答えました。トーマスさんは、シュリさんの意見にうんうんと大きく頷きます。


「ふ~ん、そうなのね。でも、ばばさまは何も言ってなかったわ」

「ほう、あのおばばさまがですか……」

「何かあるのかもしれませんね……」


 水龍ちゃんがおばばさまの話を出すと、シュリさんとトーマスさんは何やら難しい顔をしながら呟きました。

 対して、プリンちゃんは面白そうな顔で口を開きました。


「特許手続きなー! 薬師ギルドマスターがやってたんだろー?」

「ん? 新型治癒ポーションの方ならお任せだったわよ?」


 ちょっと言葉足らずなプリンちゃんの質問に、水龍ちゃんは、思いつくままに補足しつつも答えると、プリンちゃんは、ニヤリと口角を上げました。


「やっぱりなー! あの子狐のことだー! 古狸どもと化かし合いにでも興じているのだろー!」

「ん? 子狐? 古狸?」


 プリンちゃんの物言いに、水龍ちゃんがトラ丸と共になんのことかと頭にハテナを浮かべていました。そんな様子に、プリンちゃんは豪快に笑い出しました。


「ぶわっはっはっはー! 特許のことは、おばばと薬師ギルドマスターに任せておけばいいってことだー!」


 プリンちゃんが、水龍ちゃんの背中をバシバシ叩きながら話をまとめましたが、水龍ちゃんとトラ丸は、さらに頭にハテナを増やしていたようでした。


 そして、プリンちゃんは、次なる青毒ポーションを手に取り、蓋を開けるとごくりと一口飲みました。


「おおー! 青毒ポーションも美味いぞー! こっちも特許取ってないんだろー?」

「うん。なんにもしてないわ」


「よーし! 特許の話は置いといてだー! 毒消しポーションをエメラルド商会を通して販売したいのだったなー!」

「ええ、そうよ。是非ともお願いしたいわ」


 プリンちゃんの問いに、水龍ちゃんは、もう友達感覚で素直に答えました。

 そして、水龍ちゃんとプリンちゃんは、トーマスさんへと視線を向けました。


「エメラルド商会としてはどーだー?」

「我が商会としては、是非ともお願いしたいところです」


 プリンちゃんから話を振られたトーマスさんは、すっと姿勢を正し、いつもの営業スマイルを顔に張り付け、即答しました。

 それに対して、シュリさんが、難しい顔をして口を開きました。


「しかし、新型治癒ポーションと同じく猫の手印ですし、この味ですから、ほかの商会が何か言って来るかもしれませんね」


 どうやら、シュリさんは、水龍ちゃんの猫の手ブランド効果もあわせて、ほかの商会がどう動くのか気になるようです。


 たしかに、今、話題の新型治癒ポーションと同じ猫の手ブランドとなれば、注目を浴びるのは間違いなさそうです。


 それに加えて、味の革命といえるほど美味しくいただける毒消しポーションですから、インパクトも抜群で、店頭に並べれば売れることは間違いありません。


 そんな商品であれば、どこの商会も取り扱いたいと思うのは当然のことでしょう。それがまさかの1商会による独占販売となれば、文句の一つも出てもおかしくはありません。


 エメラルド商会の利益拡大とばかりに俄かにほくそ笑んでいたトーマスさんも、シュリさんの冷静な指摘を受けて、若干顔を引き攣らせてしまいました。


「したたかな商人たちですから、生産者である水龍ちゃんのところへ取引したいとこぞって押しかけることも考えられます」

「うええー……」


 さらにシュリさんが、商人たちの取りそうな行動をほのめかすと、水龍ちゃんは、露骨に嫌~な顔を見せました。


「ぶわっはっはっはー! それは面倒だなー! よし! 当面、治癒ポーションと一緒に毒消しポーションも競売にするかー!」

「ふぅ、仕方ないですね。水龍ちゃんに嫌な思いはさせられませんからな」


 プリンちゃんが、話をまとめるべく叫ぶと、渋い顔をしていたトーマスさんは、大きく溜め息を吐いて、水龍ちゃんの為だと競売を承諾しました。


 しかし、トーマスさんは、すぐにいつもの商人らしい笑顔を張り付け、もみ手をしながら、水龍ちゃんへ向けて口を開きました。


「ところで、毒消しサンドの販売は、どのようにお考えですか? こちらは競売とはいかないと思いますが……」


 さすがは、トーマスさんです。毒消しポーションは諦めたようですが、毒消しサンドは何としてもエメラルド商会が関与したいという圧が感じられます。


「毒消しサンドはもう作らないですよ」

「えっ? そうなのですか?」


 水龍ちゃんが淡々と答えると、トーマスさんが驚いた顔を見せました。シュリさんも片眉をピクリと動かして、一瞬驚いた顔を見せました。


「ええ。あれって、作るの大変なんです」

「……そうですか。それは、残念です」


 水龍ちゃんが、苦笑いで理由を告げると、トーマスさんが、心底残念そうに溜息を吐くのでした。



 その後、毒消しポーションの競売について取り決めをしましたが、新型治癒ポーションに準じた形でサクサクと話が進みました。


 そして、赤毒ポーションの効果確認が取れてから、赤毒、青毒両方の毒消しポーションを競売にかけることに決まりました。


 水龍ちゃんとトラ丸は、新たな毒消しポーション販売ルートが決まって、とても嬉しそうでした。

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