第81話 価格高騰対策

「まさか大瓶10本も作れるとは……」

「信じられませんなぁ……」

「ぶわっはっはっはっはー! こんなに驚いたのは久しぶりだなー!」


 水龍ちゃんが、大瓶10本の新型治癒ポーションを作ったと聞いて、シュリさんとトーマスさんが額に汗を滲ませて信じられないとばかりに呟き、プリンちゃんに至っては、たいへん愉快そうに大笑いしていました。


「毎日、大瓶10本あれば、何とかなりそうじゃないかー!」

「ええ、まぁ、それだけあれば、何とか……」


 プリンちゃんが、楽観的な観測を述べると、シュリさんは、たどたどしく言葉を紡ぎました。どうやら、シュリさんは、まだ驚きから回復しきっていないようです。


「で、ですが、商業ギルド本部が、世界中の各支部へと宣伝していたとなれば、日を追うごとに注文数が増えてゆくのではないでしょうか?」

「ぶわっはっはっはっはー! たしかにそーかもなー!」


 トーマスさんが、今後の見通しを述べると、その原因を作ったプリンちゃんが、何食わぬ顔で、あり得ることだと高笑いしていました。そんなプリンちゃんに、みんなそろって苦笑いです。


「なーなー?」

「おーっ! トラ丸もなんか言いたいようだなー!」


 水龍ちゃんの膝の上で大人しくしていたトラ丸が、プリンちゃんをペシペシしながら鳴き声を上げたため、プリンちゃんが、反応しました。さすがにプリンちゃんはトラ丸の言うことが分かりません。


「えっと、落札価格の上限を決める方は、どうするのかって聞いてるわ」

「おおー! 水龍ちゃんは、トラ丸の言葉が分かるのかー!」


「ええ、何となく分かるわよ」

「うおおー! すごいなー!!」


 水龍ちゃんが、トラ丸の言いたいことを伝えると、プリンちゃんは、トラ丸の言葉を理解する水龍ちゃんに感激しきりで、瞳をキラキラと輝かせていました。


「なーなー?」

「おー! 落札価格の上限についてだったなー!」


 再びペシペシしてきたトラ丸に、プリンちゃんは、トラ丸を抱き上げながら、シュリさんとトーマスさんに目を向けました。


「やはり、私は反対ですな。それよりも、ダンジョン産のポーションの方が効果が高いことを必ず顧客に伝えるよう、商業ギルドから各商会に対して、周知徹底した方がよろしいかと思います」

「なるほどなー! 後で文句言ってきても、ちゃんと伝えただろーってことかー!」


 トーマスさんが意見を述べると、プリンちゃんは、彼の意図するところを直接的に明言して、うんうんと頷きました。


 その後もあーだこーだと皆で意見を出し合って、最終的に、新型治癒ポーションの価格高騰対策は、以下のとおりとなりました。


 ・生産量を1日当たり特大瓶2本から特大瓶10本へと増やす。

 ・競売落札価格の上限は設けない。

 ・1級ポーションの表記と共に、ダンジョン産より効果が低いことを明記した

  タグをポーション瓶に付ける。


 3項目のタグを付けるのは、後で言った言わないの水掛け論にならないようにするためです。


「よーし! 治癒ポーションの話は決まったなー! 次は、水龍ちゃんの毒消しポーションの話だなー!」

「えーっと、——」


 プリンちゃんが、上機嫌で話を切り替えると、ようやく本題だとばかりに、水龍ちゃんが、猫の手印の毒消しポーションの話を始めました。


 水龍ちゃんは、現在、青毒ポーションと試作の赤毒ポーションをハンターギルドの要望で毒持ち魔物討伐依頼を受けるハンター限定で販売していることから話し始めました。


 そして、毒消し魔物討伐依頼が近々打ち切りになるため、今後、毒消しポーションをエメラルド商会経由で販売して貰えないか、トーマスさんに相談したかったのだと続けました。


 さらに、水龍ちゃんは、新しく赤毒ポーションの開発を完了し、現在、ハンターギルドに効果確認依頼を出していることも話しました。


「そうかー! その新しく開発した赤毒ポーションも、新型治癒ポーション並みに質が良いのかー?」

「ポーション鑑定結果は、普通に3級ですよ。でも、飲みやすいポーションってことで開発したんです!」


 プリンちゃんが、最新版の赤毒ポーションのことを瞳をキラキラと輝かせて尋ねてきたので、水龍ちゃんは、ここぞとばかりに開発ポイントをアピールしました。


 さらに、水龍ちゃんは、バックパックからポーションケースを取り出して、中から赤毒ポーションと青毒ポーションを3つずつローテーブルに並べました。


「おおー! 赤毒、青毒、両方持ってきたんだなー!」

「今までの毒消しポーションと違うということを実際に味わってもらおうと思って持ってきました」


 テーブルに並んだ赤紫と青紫のポーションを見て喜ぶプリンちゃんに、水龍ちゃんが持ってきた理由を話しました。


「うほー! さっそく飲んでみるぞー!」

「人数分ありますので、シュリさんとトーマスさんも味見してみてください」


 さっそく赤紫色のポーションを手に取るプリンちゃんを横目に、水龍ちゃんは、にっこり笑顔でシュリさんとトーマスさんにも味見を勧めます。


「うひゃー! なんじゃこりゃー!! 初めての味だー!」


 新型赤毒ポーションを一口飲んだプリンちゃんが、目をまん丸にして驚きの声を高らかに上げると、シュリさんとトーマスさんも、俄然興味が湧いて来たようで、それぞれポーション瓶を手に取り、飲み始めました。


「なんと、あの強烈な辛みが感じられない!」

「本当に飲みやすいですねぇ……」

「ぶははははー! うまいなこれー!!」


 シュリさんとトーマスさんが、信じられないといった顔で感想を述べ、プリンちゃんに至っては、とても気に入ったようすで、ぐびぐびと飲み干してから大笑いしていました。


 そんな様子をみて嬉しそうな水龍ちゃんの膝の上で、ドヤ顔を決めるトラ丸がかわいらしいです。


「こいつも特許申請中なのかー?」

「ん? そんなことないわよ」


「「「えっ?」」」


 軽い口調で尋ねてきたプリンちゃんに、水龍ちゃんがきょとんと小首を傾げて答えると、3人は驚きの声を上げて水龍ちゃんを見やるのでした。

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