第80話 新型治癒ポーションの問題点?

「まずは、新型治癒ポーションの話をするぞー! 水龍ちゃんは、競売の状況を知っているかー?」


 プリンちゃんが、元気よく議題の1つを持ち出すとともに、隣に座る水龍ちゃんへと競売について尋ねました。


「ん? 知らないわ」

「そーかー! ならば、そこから説明が必要だなー! シュリー!」

「かしこまりました」


 きょとんとした顔で答える水龍ちゃんに、プリンちゃんは、説明をシュリさんに丸投げしました。


 まるで執事のごとく、恭しく一礼したシュリさんにより、これまでの新型治癒ポーションの競売状況について説明がありました。


 説明によると、発売当初から商業ギルドで想定していた競売落札価格を大きく上回るほど販売は好調で、生産量を2倍に増産してからも購買意欲は衰えを知らずというか、より旺盛になっているそうです。


 そして、落札価格は、日を追うごとにどんどん高騰し、昨日はついにダンジョン産の治癒ポーションを上回ってしまったといいます。


 ダンジョン産の治癒ポーションは、ポーション鑑定装置では1級ポーションの最大級の値を示すため、水龍ちゃんの作る1級ポーションよりも性能が上です。なので、品質に対し価格が逆転してしまうという困った現象が起きたのです。


「なんでまた、そんなことに……」

「ふははははははー! 物珍しさに金持ち共が群がったのだろー! なにせ商業ギルド本部に、こんな面白いものがあるからと宣伝しておいたからなー!」


 水龍ちゃんの呟きに、プリンちゃんが、大笑いしながら言いました。


「ギルドマスター、それは初耳なのですが……」

「そっかー!」


 シュリさんが、片方の眉をピクリとさせて、プリンちゃんへ抗議の視線を送りましたが、プリンちゃんは、何食わぬ顔で元気に相槌を返しました。


「どうりで、各地から問い合わせが多いわけですなぁ……」

「予想外の高騰の原因は、おそらくは……」


 トーマスさんとシュリんさんが遠い目をして呟きました。


 どうやら、プリンちゃんが商業ギルド本部へ宣伝した結果、エメラルド商会を始めとする大手商会へ注文が集まり、予想以上の価格上昇につながったようです。


「それでだー! これからどうするんだー?」


 プリンちゃんからの視線を受けて、シュリさんは、軽く溜め息を吐き、一呼吸ついてから口を開きました。


「これが、骨董品や宝物の類ならば、放っておいて良いと思いますが、今回の件は、ポーションという消耗品です。ゆえに性能に見合った価格に落ち着いてもらうのが一番と考えます」


 シュリさんとしては、より性能の高いダンジョン産のポーションよりも高値が付いているのが問題と考えているようです。


「そうですねぇ、後で騙されたなどと言って来るような者も出て来るでしょうから、無難な価格に落ち着いて欲しいものですなぁ」


 トーマスさんは、高値で購入した顧客から、後々出て来るであろう不満を危惧しているようです。


「具体的には、どうするのだー?」


 プリンちゃんの言葉に、シュリさんが、ちらりと視線を水龍ちゃんに向けてから、再びプリンちゃんへと視線を戻しました。


「方法は2つ考えられます。1つは生産量を大幅に増やすことですが、水龍様にご協力いただく必要がございます。もう1つは競売価格に上限を設定することですが、競売の後で価格が一気に吊り上がり、転売が横行すると予想されます」


 シュリさんは、一気に2つの案を提示しました。2つ目の案については懸念点も付け加えています。


「私は、競売価格に上限を設けるのは反対ですな。そんなことをすれば、我々商会の方は利ざやが増えて儲かりますが、生産者である水龍ちゃんの儲けが減ってしまうことになる。生産量を増やす方が得策だと思いますね」


 すかさず、トーマスさんは、2つ目の対策に否定的な意見を述べました。商会の儲けだけでなく生産者の利益のことを考えてくれるところは好感が持てます。


 そして、皆の視線は水龍ちゃんに集中しました。


「えーっと、どのくらい生産すればいいの?」


 水龍ちゃんは、少しばかり苦笑いを浮かべながら問いかけました。水龍ちゃんとしては、ウキウキワクワク休暇計画を遂行するため、これ以上仕事が増えることは勘弁して欲しいのです。


「多ければ多いほど良いのですが、そうですねぇ、1日当たり特大瓶4本、いや5本納入頂ければありがたいのですが、厳しいでしょうか?」

「えっ?」


 シュリさんが、難しい顔をしながらも具体的な生産量を示し、可能かどうか問い返してきたところ、水龍ちゃんは、ちょっと呆けた声を上げてしまいました。

 すかさず、トーマスさんが口を開きます。


「いやいや、さすがに特大瓶5本は無理でしょう。大の大人でも特大瓶3本も作れば多い方ですよ。それ以上は、魔力が持たないでしょうし、作れたとしても品質が保てないでしょう」


 そうトーマスさんが言うとおり、普通のポーション職人ならば、頑張ってもせいぜい特大瓶2本か3本が限界だといわれています。


「水龍ちゃんは、大瓶5本くらい行けるかー?」


 プリンちゃんが、期待交じりのワクワク顔で尋ねると、皆の注目が、再び水龍ちゃんへと集まりました。


「えっと、大瓶5本くらいなら大丈夫ですよ?」

「「えっ?」」


 水龍ちゃんが、そんなに少なくていいの?という意味で、ちょっと戸惑い気味に答えると、シュリさんとトーマスさんの驚く声が重なり、プリンちゃんは瞳をキラキラ輝かせていました。


「ふははははははー! さすがは水龍ちゃんだなー! 半端ないわー! 大瓶10本でも行けるんじゃないかー?」


 プリンちゃんだけが、大喜びして、さらに冗談交じりの勢いで倍の量を吹っ掛けてきました。


「まぁ、10本くらいなら、こないだ作ってみましたよ?」

「「「えええーっ!?」」」


 しかし、水龍ちゃんが頬を軽く掻きながら答えると、今度はプリンちゃんを含め、3人そろって目が飛び出さんばかりに驚くのでした。

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