第79話 なんの話?
水龍ちゃんは、肩にトラ丸を乗せて、商業ギルドへとやって来ました。エメラルド商会のトーマスさんと、猫の手印の毒消しポーションの販売について打ち合わせる予定です。
いつものように、水龍ちゃんとトラ丸が101番窓口へ行くと、シュリさんが、トーマスさんの待つ応接室へと案内してくれました。
打ち合わせには、やはりシュリさんも参加するようで、まもなく商業ギルドマスターのプリンちゃんも来るそうです。
軽く挨拶を交わしてから、水龍ちゃんはシュリさんに促され、トーマスさんの対面のソファーへと座りました。
「このタイミングで打ち合わせを打診されるとは、水龍ちゃんは、商売というものを心得ていらっしゃいますなぁ」
「ん?」
プリンちゃんが来るまでの雑談とばかりに、トーマスさんが、ニコニコと話し掛けてきましたが、なんだか良く分からない評価?をされて、水龍ちゃんは、小首を傾げてしまいました。
「いやはや、商業ギルドとしても、どう対応しようかと頭を悩ませていたところでございます」
「んん??」
「ぅな?」
続くシュリさんの言葉に、水龍ちゃんは、頭にハテナを浮かべてしまいました。水龍ちゃんの膝の上にいたトラ丸も、かわいらしく小首を傾げて見せました。いったい何の話なのか、水龍ちゃんには分かりません。
「まぁ、今日の打ち合わせで、水龍ちゃんのご意見を伺えば、その悩みも解決するかもしれませんよ」
「んんん???」
「そうでございますね。解決の糸口でも見つかれば、商業ギルドにとっても僥倖でございます」
「んんんん????」
さらにトーマスさんとシュリさんが、謎の悩みの話に水龍ちゃんの意見とかなんとか、わけの分からないことを言っていて、水龍ちゃんの頭のハテナは、増えてゆくばかりです。
「えーっと、なんの話ですか?」
とうとう水龍ちゃんは、談笑する2人に対して小首を傾げて尋ねました。
そんな水龍ちゃんを見て、トーマスさんとシュリさんが、おやっ?という表情を見せたあと、2人で顔を見合わせました。
「新型治癒ポーションの話ですよ。今日の打ち合わせの……」
「えーっ!? 毒消しポーションの話じゃないのー!?」
トーマスさんが、何か変だなという顔をしながらも答えてくれましたが、水龍ちゃんは、思ってたのと違うといわんばかりに叫びました。
そんな水龍ちゃんの反応に、トーマスさんとシュリさんが、再びお互いの顔を見合わせました。
「もしや、――」
「おはよー! あたしが商業ギルドのギルドマスター、プリンだー!!」
シュリさんが何か言いかけたところで、応接室の扉がバーンと開け放たれ、プリンちゃんが、楽しそうに大きな声で名乗りを上げました。
皆の注目を一身に浴びたプリンちゃんは、あっはっは、と快活な笑い声を上げながらずかずかと応接室へ入り、水龍ちゃんの隣へドカッと座りました。
「さー! とっとと打ち合わせを始めるぞー!!」
プリンちゃんが、腕を突き上げ、嬉々として開始宣言をします。
「その前に1つ確認をよろしいでしょうか?」
「なんだー?」
シュリさんが、片手を上げて発言を求めると、プリンちゃんは、間延びした声で発言を促しました。すると、シュリさんは水龍ちゃんへと視線を移しました。
「先ほどのご様子ですと、水龍様は、本日の打ち合わせが、例の新型治癒ポーションの話だとは知らずに来られたようですね?」
「はい。私は、トーマスさんと毒消しポーションの販売について相談をするつもりで来たんです」
シュリさんの問いに、水龍ちゃんが正直に答えると、シュリさんの視線がトーマスさんに向けられ、釣られるように水龍ちゃんとトラ丸、そしてプリンちゃんもトーマスさんへと目を向けました。
「た、確か、昨日の朝、水龍ちゃんからポーションについて話しがしたいとの言伝を受けたので、それならば、商業ギルドを交えてと思いまして、シュリさんに話を持ち掛けたのですよ」
「あー、……」
トーマスさんが、皆の視線を一身に浴びて、額にうっすらを汗を滲ませながら経緯を説明すると、水龍ちゃんが、ようやく話が見えたとばかりに声を漏らしました。
しかし、今度は、水龍ちゃんに皆の視線が集まりました。
「たしかに、ポーション関係で打ち合わせたいって言伝を頼んだけど、私が作った赤毒ポーションと青毒ポーションの販売について相談しようと思っていたの」
「そ、そうでしたか。私はてっきり、問題となっている新型治癒ポーションの価格高騰の話だとばかり思っておりました。申し訳ございません」
水龍ちゃんの説明に、今度は、トーマスさんが冷や汗を流しながら、勘違いしてたことを正直に言って謝罪しました。
どうやら、トーマスさんと水龍ちゃんの間で、少しすれ違いがあったようで、2人とも微妙な顔で苦笑いです。
「ぶわっはっはっはー! なんだか知らんが、水龍ちゃんは毒消しポーションの話がしたいのだなー! よし! みんなまとめて打ち合わせだー!!」
話を聞いていたプリンちゃんが、事の次第を理解したのかしていないのか、盛大に笑い出し、まとめて打ち合わせすると言い出しました。
そんなプリンちゃんの勢いが、微妙な空気感をあっさりとぶち壊して、まぁ、いいか、という雰囲気で、打ち合わせがスタートすることとなりました。
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