第78話 赤毒ポーションの味
「アーニャさん、赤毒ポーションの効果確認を依頼したいです!」
「なー!」
毎朝恒例、ハンターギルドでのアーニャさんとの雑談タイムで、水龍ちゃんとトラ丸が元気よく切り出しました。
「えーっと、赤毒ポーションは毎日納品されてるわよね?」
「それは、試作品です。さらに改良した最終形態が、ついに完成したのです!」
「なー!」
アーニャさんの疑問に答える水龍ちゃんは、トラ丸と共にちょっとテンション高めで、背景に『バーン!』って効果音が流れている気がするほどの勢いです。
「そ、そうなのね。分かったわ。今から依頼書を作るから少し待っててね」
「はい!」
「なー!」
勢いに押されつつも、しっかりと仕事をするアーニャさんに、水龍ちゃんは、トラ丸と共に元気よく返事をして、バックパックから最新版赤毒ポーションの入ったポーションケースを取り出しました。
この手の依頼は、もう3度目になるので、水龍ちゃんも慣れたもので、アーニャさんの作ってくれた依頼書の内容をちゃちゃっと確認し、パパっと手続きを終わらせました。
「で、これが、最新版の赤毒ポーションね」
「えへへ、余分に持ってきていますから、試しに味見してみます?」
アーニャさんが、少しくすんだ赤紫色のポーションを手に取って、まじまじと見ていたところで、水龍ちゃんが味見の提案をしました。
「えっ? いいの?」
「もちろんですよ。アーニャさんの感想、聞かせて欲しいです」
予期せぬ提案に、アーニャさんが、きょとんと生返事を返すと、水龍ちゃんは、にっこり笑顔で、どうぞどうぞと勧めます。
「それじゃぁ、遠慮なく味見させてもらうわね」
そう言って、アーニャさんは、水龍ちゃんとトラ丸のワクワクとした視線を感じながらも猫の手印の赤毒ポーションを開封し、どこからともなく取り出したカップに注ぎ入れると、ごくっと一口飲みました。
「あら? 何て言うのかしら、不思議な味ねぇ。少しピリッとするけど、すーっと爽快感もあって、初めての味だけど飲みやすいわ」
「えへへ」
「なー!」
アーニャさんが、目をパチクリさせながら感想を述べたあと、にっこり笑顔になるのを見て、水龍ちゃんは、ちょっと嬉しそうに笑みをうかべ、トラ丸が、ドヤ顔で、どうだ、といわんばかりに元気な鳴き声を上げました。
「何をどうやったら、この味が出せるのか分からないけど、ハンター達の反応が楽しみね」
「はい!」
「それでね、もう1本、予備はあるかしら?」
「ん? ありますけど?」
話が終わったかなと思ったところで、アーニャさんが、もう1本予備のポーションがあるかどうかを尋ねてきました。水龍ちゃんは、きょとんとしつつも、正直に答えます。
「うちのギルマスが、どうしても欲しがると思うのよね。こっそり依頼用のポーションを飲みかねないわ」
「あー、なんか、そんなギルマスの姿が目に浮かびます……」
「なー……」
アーニャさんが、苦笑いを浮かべながらギルマスの話を出すと、水龍ちゃんとトラ丸が、遠い目をして納得していました。
「では、これをギルマスに渡してください」
「代金は吹っ掛けておくわね」
「いやいや、お金はいらないですよ。代わりに飲んだ感想を聞かせてもらえれば嬉しいです」
「うふふっ、ギルマスが飛び上がって喜ぶ姿が目に浮かぶわ」
そんな、冗談みたいなやり取りをしながら、水龍ちゃんは、予備の最新版赤毒ポーションをギルマス用にと渡すのでした。
「そうそう、毒持ち魔物の討伐依頼が打ち切りになったら、毒消しアイテムはどこで販売するつもりなの?」
「ん? 商会を通じて売ってもらおうかと思ってるけど、具体的には、まだ何も決まってないわ」
「そっかぁ、実はね――」
アーニャさんの話によると、ハンター達から、依頼打ち切り後の毒消しアイテム販売について何度か問い合わせがあったのだそうです。
とりあえず、ギルドでの販売は無くなるって伝えたところ、じゃぁ、どこで販売するのか教えて欲しい、と言われるそうです。
「早いところ、どこで売るか決めた方がいいかしら?」
「そうね、決まったら教えてくれると助かるわ」
水龍ちゃんは、休暇を取ることに気が向いていて、毒消しポーションの販路については、そのうちにという感じでのんびり構えてたのですが、猫の手印の製品は、思いのほかハンター達に人気が出ていたようです。
ハンターギルドから帰宅した水龍ちゃんは、朝ご飯を食べながら、毒消しポーションの販路について、改めておばばさまに相談しました。
以前、おばばさまには、エメラルド商会を通じて販売したいと話していたので、おばばさまからは、トーマスさんに話をしてみるように言われました。
おばばさま曰く、トーマスさんは、エメラルド商会の中でも最も信頼できる人物だとのことです。
水龍ちゃんは、薬師ギルドで新型治癒ポーションの買取りを終えると、さっそくエメラルド商会へ向かいました。あいにくトーマスさんは不在でしたが、ポーション関係で打ち合わせたいと言伝を頼んでおきました。
すると、その日、エメラルド商会からの配達時に、陽気な配達人を通じて連絡がありました。
「ポーションの打ち合わせの件っすけど、トーマスさんが、明日の午前中に商業ギルドで打ち合わせたいって言ってたっす。水龍ちゃんの都合はどうっすか?」
「う~ん、商業ギルドってことは、シュリさんも一緒なのかしら?」
「さぁ? 自分は分かんないっす」
「まぁ、いいわ。明日の午前中に商業ギルドでOKよ」
水龍ちゃんは、翌日、毒消しポーションの販売に関して、商業ギルドで打ち合わせをすることになりました。
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