4.水龍ちゃん、赤毒ポーションを改良です

第77話 スパイス

 翌朝、いつものように毒消しアイテムの納品を終え、帰宅した水龍ちゃんとトラ丸は、おばばさまと一緒に朝食のテーブルを囲みます。


 今朝のご飯は、厚切りハムのステーキとサラダ、そして食べ放題の端っこパンが大皿に山盛りです。端っこパンにお好みでつけるジャムや蜂蜜、バターが取り揃えてあり、飲み物は牛乳です。


 水龍ちゃんが、相変わらず美味しそうに食べながら、昨夜、特大錬金釜で新型治癒ポーションを作ったことを話すと、おばばさまは、目ん玉が飛び出んばかりに驚いてからの呆れ顔での溜息を経て、豪快に高笑いするという、三連コンボを見せてくれました。


 それから、おばばさまと一緒に薬師ギルドへ行って、ポーション買取りを済ませた水龍ちゃんとトラ丸は、図書館へ向かわずに真っ直ぐ帰宅しました。


「さぁ、今日からスパイスの研究を加速するわよ!」

「なー!」


 水龍ちゃんは、トラ丸を連れて調合室に入るなり、フンスと気合を入れてスパイス研究を始めます。


 前々から、赤毒ポーションの辛みを完全に取り除くのは難しいと考えて、より美味しく飲めるようにと味付けの研究をしているのです。


 カレーみたいに辛くても美味しければいいわよね、という安易な発想から、カレー用のスパイスを中心に研究を始めて、今ではハーブ類にまで手を広げて研究を進めています。


 水龍ちゃんは、メモを片手にたくさん集めた様々なスパイスやハーブから、今日の実験に必要なものを選んで取り出してゆきました。


「えーと、前回、良さそうだったブレンドを基にするとして、どうアレンジしてみようかな?」


 水龍ちゃんは、前回の実験記録をテーブルに広げて眺めながら腕を組み、追加してみたいスパイスやハーブについて、その配合比率を含めてしばし思いを巡らせると、追加のスパイスを棚から取り出してきました。


 そして、配合するスパイスの重さを丁寧に測ってはメモを取り、スパイスたちをブレンドします。トラ丸は、スパイスの入った瓶や缶の匂いをすんすんと嗅いでは、むにゅーっと顔を顰めて、かわいらしく百面相をしていました。


「まぁ、こんなもんかな?」


 もう何度も何度も繰り返したスパイスブレンドです。水龍ちゃんも慣れたもので、適当なところで妥協して、実験用の小さな錬金釜へとブレンドしたばかりのスパイスを入れて、魔法で水を注ぎ入れます。


 そして、コンロで加熱し、ときどき掻き混ぜては味見して、しばらくするとコンロを止めて、茶こしでスパイスを取り除きました。


「さてと、いい味になればいいなぁ」

「なー」


 水龍ちゃんの言葉に、トラ丸は、そーだねー、とでもいうようにかわいらしく相槌を打ちます。


 さて、水龍ちゃんは、昨日作っておいた実験用の赤毒ポーションが入った小瓶を手にとり、小さじへ注いで味見用の小皿に移します。そして、たった今出来たばかりのスパイス液を同量取って混ぜ合わせました。


「う~ん……、いい線行ってるんだけど、思ったのとちょっと違うのよねぇ……」

「なー?」


 水龍ちゃんは、赤毒ポーションとスパイス液の混合液を舐めてみて、微妙な顔で呟きました。トラ丸は、そうなの? と首を傾げて水龍ちゃんを見つめています。


「少しスパイスの配合比率を変えてみようかしら?」

「なー!」


 水龍ちゃんは、さらなる改良へ向けて呟くと、トラ丸の応援のもと、再びメモを取りながらスパイスのブレンドを繰り返してゆきます。


 もうすぐ、ハンターギルドの毒持ち魔物討伐依頼が打ち切りになるため、水龍ちゃんは、それまでにどうにか赤毒ポーションを完成させたいと考えています。


 ちなみに、今もハンターギルドに赤毒ポーションを販売しているのですが、水龍ちゃん的には、若干辛みが残っていて納得がいかないので、それは、という位置づけなのです。


 そして、水龍ちゃんは、赤毒ポーション完成まで、あと一息と思っているので、今日から図書館で本を読む時間を削って、最後の追い込みをかけているのです。




 それから2日後の午前中。


「うん、これよ! これなら赤毒ポーションも美味しく飲むことができるわ!」

「なー!!」


 調合室で、水龍ちゃんとトラ丸の歓喜の声が響き渡りました。ようやく納得の味が得られたのです。


「あとは、仕上げね。これをベースに、若干スパイス配合を変えたものも試してみましょ」

「なー!」


 水龍ちゃんには、もうゴールが見えているようです。

 トラ丸の声援を受けて、もくもくと作業を続ける水龍ちゃんの顔は、生き生きとした笑顔に満ち溢れています。


 そして、その日の夕方、ポーション鑑定装置の前で、水龍ちゃんとトラ丸が、ゆらゆらと動くアナログメーターをじっと見つめていました。


 ピロリロリ~ン♪と魔道具から鑑定完了の音が鳴ると、アナログメーターは、3級を示していました。


「うん、品質も問題ないわね。うふふっ、トラ丸、ついに新型赤毒ポーションが完成したわよ!」

「なー!」


 新型赤毒ポーションの完成の瞬間です。水龍ちゃんは、思わずトラ丸を抱き上げて小躍りして喜ぶのでした。

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