第76話 大量生産

 お風呂上がりの水龍ちゃんは、ポーション錬成部屋の特大錬金釜の前で不敵な笑みを浮かべて、今からポーション作りをすると言い出しました。



「昨日は、入れ物が足りなかったから断念したけど、今日は、ちゃんと特大瓶を仕入れたから問題ないわ。さぁ、やるわよ!」

「なー!」


 フンスと気合を入れてやる気満々の水龍ちゃんに、トラ丸は、がんばれー! と応援するように鳴きました。


「ふふふん、ふふふん、ふふふのふん♪」

「なぅな~、なぅな~、なぅなぅな~♪」


 水龍ちゃんは、鼻歌交じりに魔法でドバドバと水を出して、特大錬金釜へと注いでゆきます。特大錬金釜は、昨日のうちにきれいに洗っておいたので、ぴかぴかです。


 トラ丸が、体と尻尾をリズミカルに揺らしながら一緒に歌う姿は、とってもかわいらしいです。


「あら? この温度計じゃ、大きな錬金釜にはうまく取り付けられないわね。あとでばばさまに相談しなくちゃだわ」


 調合室から持ってきた温度計は、錬金釜のふちに取り付けるタイプなのですが、錬金釜が大きすぎてダメだったようです。


 水龍ちゃんは、まぁ、いいかという感じで、温度計を手に持って水温を測りながら魔法で水の温度を上げてゆきました。


 ある程度温度が上がったところで、水龍ちゃんは、温度計をトラ丸に預けて、計量スプーンで薬草を量り、準備していた木のお皿に取り置きました。


「ふふふん、ふふふん、ふふふのふん♪」

「なぅな~、なぅな~、なぅなぅな~♪」


 水龍ちゃんとトラ丸は、楽しそうに鼻歌を歌いながらポーション作りを進めます。


 水龍ちゃんは、左手に温度計を持ち水温を見ながら魔法で水温を調節し、適温になったところで取り置いておいた薬草をドバっと錬金釜へ入れました。


 そして、温度計を片手に魔法水の温度を確かめながら、水流操作で軽く特大錬金釜の中を掻き混ぜます。


 水龍ちゃんは、置時計を見て所定の時間が経ったところで温度計を外し、ざるでザパパっと茶殻を掬い取りました。


「よし! ここからが勝負よ!」

「なー!」


 気合を入れた水龍ちゃんは、トラ丸の応援を受けながら、両手をかざし、水流操作で特大錬金釜の中の薬草茶をすべて空中に浮かせました。


「細かな茶殻を残して、薬草茶だけを取り出すわよ」

「なー!」


「それー!」


 水龍ちゃんは、掛け声とともに腕をふわっと動かしました。すると特大錬金釜の真上にぷよよんと浮いていた大きな薬草茶の塊から、細い水の流れが2本立ち昇り、くるくると螺旋を描きながら降りてきて錬金釜へと注がれてゆきます。


「ふふふっ、これなら、ろ過する時間を大幅に短縮することができるわね」

「なー!」


 水流を操作しながら、水龍ちゃんが満足顔で言うと、トラ丸も嬉しそうな顔で、さすがだね! というように鳴き声を上げました。


 宙に浮いた薬草茶の塊は、みるみる小さくなってゆき、ピンポン玉くらいのサイズになると水の糸がプツリと切れました。空中に残った水の玉には、細かな茶殻がたくさん混ざっています。


「うん、ろ過完了!」


 水龍ちゃんは、宙に浮いた茶殻交じりの水の玉を見て、にっこり笑顔で頷くと、それをカップへ捨てました。


「さぁて、一気にポーション錬成しちゃうわよ!」

「なー!」


 水龍ちゃんは、特大錬金釜とセットになっている特大ミスリル掻き混ぜ棒をぎゅっと握りしめると、魔力を込めて、ゆっくりと特大錬金釜の中の薬草茶を掻き混ぜ始めました。


「ふふふん、ふふふん、ふふふのふん♪」

「なぅな~、なぅな~、なぅなぅな~♪」


 水龍ちゃんとトラ丸の鼻歌が奏でられる中、薬草茶がぽわわと淡く光を発して、ゆっくりと黄色から緑色、そして青色へと変わってゆきました。


「よし、完成! 苦みが出てないといいのだけれど……」


 水龍ちゃんは、人差し指をピッと立て、水流操作で錬成したポーションを少しだけ宙に浮かせると、そのビー玉くらいのポーション玉をそのままパクっと口の中へと放り込みました。


「うん、苦くないわ!」

「なー!」


 どうやら、特大錬金釜でも苦くないポーションが錬成できたようです。水龍ちゃんとトラ丸は、嬉しさいっぱいの笑顔になりました。


「よーし、あとは、特大瓶に入れるだけね」

「なー?」


「ん? ビンを洗わないのかって? そうね、念のため、一度、特大瓶を洗っておきましょ」

「なー!」


 水龍ちゃんは、購入したばかりの特大瓶をケースから取り出して、1本ずつ魔法で出した水を操って、中を洗って床に並べてゆきます。ちなみに、木製のケースには、特大瓶がちょうど6本入るように仕切りがついています。


「さぁ、瓶詰開始よ! それー!」

「なー!」


 水龍ちゃんが、特大錬金釜へと両手をかざし、掛け声とともにぶわっと両腕を上げると、10本の細くて青いポーションの水流が立ち昇り、放物線を描いて床に置いてある10本の特大瓶へと注がれてゆきました。


 あっという間に瓶詰を終えて、水龍ちゃんは特大瓶の1本1本に蓋をして、木製のケースへと収納しました。


「うん、完璧ね」

「なーなー?」


 水龍ちゃんが、腰に手を当て、やりきったぞという顔をしていると、トラ丸が、何かを訴えながら前足でぺしぺししてきました。


「ん? 鑑定しないのかって? そういえば忘れてたわ。教えてくれてありがとね、トラ丸」


 トラ丸の助言に、水龍ちゃんは、嬉しそうに笑顔を見せて、トラ丸をなでなでするのでした。


 水龍ちゃんは、調合室からポーション小瓶を取ってきて、水流操作で特大錬金釜に残っていたポーションをちょちょっと小瓶に移すと、再び調合室へ移動します。


 そして、調合室のポーション鑑定魔道具へとポーション小瓶をセットして、魔道具のスイッチを入れました。


 キュイーンと甲高い音が鳴り、魔道具正面のアナログメーターがゆるゆると動き出しました。しばらくすると、ピロリロリ~ン♪と魔道具から音が鳴り、鑑定が完了しました。


「うん、1級ね。品質も問題ないし、これならもっと生産が増えても、なんとかお休みがとれそうね」

「なー」


 いつもと遜色のないポーション鑑定結果をみて、水龍ちゃんとトラ丸は、新型治癒ポーションの大量生産ができると分かり、満足そうに微笑むのでした。

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