第74話 特大錬金釜
「そこにあるのが、規格外の錬金釜じゃ」
「うわぁっ! いつも使ってるのよりも、断然大きいわ!」
「なー!」
おばばさまに連れられて、水龍ちゃんとトラ丸が、調合室に隣接する物置部屋へ入ると、片隅に大きなバケツくらいの錬金釜が置いてありました。
いつも水龍ちゃんが使っている1号サイズや3号サイズの錬金釜と比べて、格段に大きなサイズで、水龍ちゃんとトラ丸のテンションが爆上がりです。
「その昔、どこぞの国の王様が、当時最高峰の技術を持つ職人に作らせたという特大錬金釜だそうじゃ。しかし、釜が大きすぎてまともにポーションを錬成できる者がおらなんだそうじゃ」
「ん? 大きすぎるとダメなの?」
おばばさまから特大錬金釜の由来を聞いて、水龍ちゃんは、小首を傾げて問いかけました。
「一度に作るポーションの量が多いと、錬成する魔力が不足して効率が悪くなり、粗悪なポーションとなってしまうのじゃよ」
「う~ん、粗悪なポーションって等級が低いポーションってこと?」
「そのとおりじゃ。いくら時間を掛けて錬成しても等級は上がらんし、時間を掛ければ掛けるほど、どんどん苦みが酷くなってしまうのじゃ」
「なるほど……。う~ん、魔法水が多いと、それだけ魔力が分散してしまうからポーション錬成する時の魔力濃度が薄くなってしまうのかしらね」
おばばさまの説明を受けて、水龍ちゃんは、小さな腕を組み、真剣な顔で粗悪ポーションとなってしまう要因を推察しました。
「ふはははははは、やはりお前さんは賢いのう。少し話しただけで、すぐに本質を理解してしまいよる」
「ん?」
おばばさまは、たいそう愉快そうに声を大にして笑いましたが、水龍ちゃんは、そんなおばばさまの反応に、小首を傾げていました。
「さて、調合室の魔導コンロじゃと、ちと小さくて心もとないでな、魔導コンロは新しいのを買った方がええじゃろう」
「そうね、キッチンにあるくらいの魔導コンロがいいかしら?」
おばばさまが、錬金釜から魔導コンロへと話を変えると、水龍ちゃんは、すぐに頭を切り替えて、魔導コンロのサイズを吟味しはじめました。
「うむ、それくらいのが、ちょうどええじゃろうな」
「でも、どこに置こうかしら」
水龍ちゃんは、新しい魔導コンロを調合室のどこにおこうかと首を捻ります。今使っている調合室は、こじんまりと使いやすいようにまとまっていて、キッチンサイズの大きな魔導コンロは、置き場所に困ります。
「そうじゃのう、この部屋を片付けて、お前さん専用のポーション錬成部屋とするとよかろう」
「えっ? いいの?」
「もちろんじゃよ。そこの錬金釜が使えなかったとしても、そのうち4号や5号くらいの錬金釜で錬成するようになれば、今の調合室では手狭じゃろう。それに、薬草などを管理するにも、部屋が分かれておった方が都合がよかろう」
「ばばさま、ありがとう!」
こうして、水龍ちゃんは、専用のポーション錬成部屋を手に入れました。
「不要な物は、一度、奥の空き部屋に置いて整理しようかのう」
「運ぶのは、任せておいて!」
「なー!」
おばばさまは、これを機会に物置部屋に置きっぱなしだった不要物を整理するつもりのようです。水龍ちゃんとトラ丸は、お手伝いをする気満々に、ふんすと気合をいれました。
さっそく、みんなで物置部屋の荷物を運び出しました。水龍ちゃんは小さな見た目とは裏腹に、重たい荷物も軽々と持ち上げて奥の部屋へと運び出しました。
「ふはははは、お前さんのおかげで、あっという間に片付いたのう」
「ばばさま、奥に運んだ物はどうするの?」
「1つずつ確かめて、不要な物は処分するつもりじゃよ」
「荷物を移動する時は声を掛けてね。ぱぱっと運んじゃうんだから」
「重い物は腰にくるからのう。遠慮なく頼むとしよう」
「任せて!」
「なー!」
すっかり荷物を運び終えた水龍ちゃんは、荷物運びはいつでも任せてと、小さな胸をどーんと張ってみせるのでした。一緒に胸を張るトラ丸がかわいらしいです。
その後、特大錬金釜と、まだ使えそうな戸棚を残して、すっきりと片付いた元物置部屋の床を軽く掃除をしてから、水龍ちゃんは、調合室で翌日納品する分の毒消しポーション作りを始めました。
途中、バゲットなどの配達と新型治癒ポーションの買取りに訪れたエメラルド商会への対応を挟んで、水龍ちゃんが、各種毒消しポーションや毒消しマヨを作り終えた頃には晩ご飯が出来上がっていました。
今日のご飯は、きのこの炊き込みご飯と白身魚のフライに付け合わせのサラダ、海藻たっぷりのお味噌汁です。フライは、おばばさまが、散歩のついでに買ってきたと言っていました。
「ご飯が美味し~い!」
「な~♪」
「ふはははは、良いきのこが手に入ったでのう、おばば特製、きのこの炊き込みご飯じゃ。今日のは、きのこの旨味がしっかり出ていて良い出来じゃぞ」
炊き込みご飯を美味しそうに食べる水龍ちゃんとトラ丸に、作ったおばばさまは、とても嬉しそうに、会心の出来であることを伝えます。
「このフライも美味しいわ!」
「な~♪」
「揚げたてを買うてきたからのう。美味いはずじゃ」
白身魚のフライは、おばばさまがひいきにしているお店の品で、とても美味しそうに食べる水龍ちゃんとトラ丸に、おばばさまも満足顔でした。
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