第73話 今後の展望

 水龍ちゃんとトラ丸が、上機嫌でハンターギルドから帰ると、おばばさまが、お昼ご飯に焼きそばを作ってくれました。


「美味し~い!」

「な~♪」


 水龍ちゃんとトラ丸は、キャベツとお肉がたっぷりの焼きそばを食べて、ほくほく顔です。おばばさま特製オリジナルブレンドソースで焼いた焼きそばは、お店では食べられない格別の美味しさを引き出しているといってよいでしょう。


 とても美味しそうに食べる2人を見ながら、おばばさまは、うんうんと満足げにゆっくりと焼きそばを食べていました。


「ばばさま、もうそろそろハンターギルドの毒持ち魔物討伐依頼が打ち切りになるそうなの。そうしたら、もう毎日たくさんの毒消しサンドを納入する必要がなくなるから、お休みが取れるようになるわ」


 焼きそばを最後まで平らげて、水龍ちゃんは、嬉しそうに話しました。


「ほう、それは結構なことじゃのう。それで、その依頼が打ち切りになったあと、毒消しポーションと毒消しサンドの販売はどうするのじゃ? たしか、その依頼を出している間だけ特別にハンターギルドで買い取ってもらう話じゃったろ?」


「そうねぇ、赤毒ポーションはまだまだ研究中だし、青毒ポーションだけ、どっかの商会を通して販売してもらおうかしら。毒消しサンドは、もう作らなくてもいいわよね。なにげに作るの大変だし」


 水龍ちゃんが、今後の展望を話してにっこり笑顔をみせると、おばばさまは、なにか気になったのでしょうか、片眉を上げました。


「毒消しサンドは、もう作らないのかい? たしか、ハンター達に評判が良かったと言っておったじゃろ?」

「それって、毒持ち魔物の討伐依頼だから売れたんだと思うのよね。普通にダンジョンへ潜るなら、毒消しポーションがあれば十分だわ」


「討伐依頼が打ち切られれば、それほど売れないということかの?」

「そう思うわ。それに、日持ちも良くなさそうだし、お休みを取るには不向きな商品だと思うの」


 おばばさまの問いに答える形で水龍ちゃんが、毒消しサンドの商品価値について思うところを話しました。


「ふはははは、休みを取るのに不向きときたか」

「そこが一番大事なところよ!」


 楽し気に大笑いするおばばさまに、水龍ちゃんは、その小さな拳を握りしめて、休暇取得に対する並々ならぬ意気込みを示すのでした。


「それはそうと、ばばさま、もっと大きな錬金釜が欲しいんだけど、あるかしら?」

「ほう、そういえば、調合室には、3号サイズまでの錬金釜しか置いておらんかったのう。4号サイズと5号サイズは弟子たちに譲ってしもうたし……」


 話は変わって、水龍ちゃんの問いに、おばばさまは、そういえばと思い出すように話しますが、良い答えは出てこないようです。


「無いなら、買おうかしら」

「買うにしても、手元に届くまでに相当な時間がかかるぞい。錬金釜は注文を受けてから作り始めるからの。4号以上のサイズじゃと、数ヶ月はかかるじゃろうな」


「えっ!? そんなに時間が掛かるの!?」


 軽~く、買おうかなんていう水龍ちゃんに、おばばさまは、錬金釜を手に入れるまでにはかなりの時間が掛かると教えてくれました。数ヶ月と聞いて、さすがの水龍ちゃんも驚きの声をあげました。


 そんな水龍ちゃんに、おばばさまは、その理由を話してくれました。おばばさまによると、錬金釜は錬成効果を上げるために特殊な材料が必要で、さらには特殊な製法により作りあげられるのだといいます。


 その詳細は、職人達の間で秘匿されているらしく、おばばさまにはさっぱり分からないのですが、職人の腕によっても出来が違ってきて、錬金釜のサイズが大きくなるほど、その差が大きく出るのだそうです。


 なので、出来の良い錬金釜は、弟子に譲る形で受け継がれてゆくか、高額で取引されるものだと、おばばさまが教えてくれました。


 ちなみに、1号サイズの錬金釜は、水龍ちゃんが毎日実験でよく使っている小さな錬金釜で、ポーション小瓶2個分を錬成するのに丁度いいサイズです。


 2号サイズは、1号のおよそ3倍の容量があり、3号サイズは、1号の約6倍の容量で、大瓶1本分のポーションを作るのに丁度いいサイズです。


 水龍ちゃんが毎日使っているのは、実験用1号サイズと、生産用に3号サイズとなっています。


「う~ん、大鍋くらいの大きな錬金釜で、一度にたくさんのポーションを錬成すればいいと思ったんだけどなぁ」

「いや、大鍋くらいって……、どんだけ一度に作ろうと思っておるのじゃ?」


「どんだけって、10日分くらいだけど、少ないかしら?」

「……冗談を言ってるつもりはないようじゃな」


 おばばさまは、水龍ちゃんが本気で10日分くらいのポーションを1度に錬成しようと考えているようすに、ほとほと呆れかえってしまったようです。


「う~ん、何ヶ月もかかるのかぁ……。どっかその辺に落ちてないかしら?」

「石ころじゃあるまいし、落ちてる訳なかろうて……。やれやれ、お前さんに使えるかどうかは分からぬが、規格外の錬金釜が物置に置いてあるはずじゃ」


 天然のボケをかました水龍ちゃんに、おばばさまは、軽く突っ込みを入れると、規格外なる錬金釜があるのだと言い出しました。


「ほんと!?」

「ああ、わしの師匠でも使いこなせなかった代物じゃが、譲り受けた手前、捨てるわけにもいかんし、物置部屋の肥やしになっとるのじゃよ」


 ぱぁっと明るい顔になった水龍ちゃんに、おばばさまは、その錬金釜について軽く由来を話すと、水龍ちゃんとトラ丸を引き連れて物置部屋へと向かうのでした。

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