第72話 ウキウキワクワク休暇作戦
水龍ちゃんは、明るい未来の為に休暇を勝ち取ることを決めた後、ちゃちゃっと新型治癒ポーションを作ってから、いつものように薬師ギルドへ行って買取りを済ませました。
「トラ丸、ウキウキワクワク休暇作戦を考えるわよ!」
「なー!」
薬師ギルドを出た水龍ちゃんは、意気揚々と歩き出しました。
「ウキウキワクワク休暇作戦の最大の難関は毒消しサンドね。あまり日持ちがしないと思うし、まずは、アーニャさんと相談しましょ」
「なー」
水龍ちゃんの考えを聞いて、トラ丸は、そーだねー、というように鳴き声を返しました。
「アーニャさん、相談です!」
「なー!」
ハンターギルドの2階へ上がり、受付の奥で働くアーニャさんを見つけた水龍ちゃんとトラ丸は、意気揚々と元気よく声を掛けました。
「ふふっ、こんな時間に珍しいわね。いったい何の相談かしら?」
「お休みを下さい!」
「なー!」
にっこり笑顔で受付カウンターへ出て来て対応してくれたアーニャさんに、水龍ちゃんは、勢いのまま用件を伝えたのですが、ちょっと言葉が足りないようです。
「えっ? お休み? ちょっと待ってね……。えーっと、どういうことなのか、もう少し詳しく教えてくれない?」
アーニャさんは、ちょっと驚きの声を上げ、少し混乱していたようですが、すぐに落ち着きを取り戻して、大人の対応で詳しい事情を話すように促してきました。
「えーっとですね、——」
水龍ちゃんは、ここのところ毎日納品しているため、お休みを取っていないこと、おばばさまから受けた休暇作りのアドバイスなどを説明し、現状、日持ちのしない毒消しサンドが一番の問題だと考えていることを話しました。
アーニャさんは、トラ丸をモフモフしながら、うんうんと真剣に最後まで聞いてくれると、頑張っている水龍ちゃんを労うように優しく声を掛けてくれます。
「そうね、毒消し魔物の討伐依頼を出し始めてから、水龍ちゃんには、毎日、毒消しポーションや毒消しサンドを収めてもらってるものね」
「アーニャさんも、しばらくお休み取ってないですよね?」
「えっ? あはは……、私はね、午後からお休みもらったりしてるのよ」
「ええー!? 納品する時、いつもいるから、私と同じでお休み取れてないと思ってたのにー」
アーニャさんが、話の流れ的にちょっとばつが悪そうに半日休暇を取得していたことを明かすと、水龍ちゃんは、その事実にショックを受けたようすで非難めいた声を上げました。
「ほら、ハンターギルドって年中無休でしょ。だから、みんな交代で休暇を取るようになってるのよ」
「むむぅぅ……」
「まぁ、ハンターギルドって大きな組織だからね。給料は安いけど、その辺はしっかりしているわ」
「くっ、ハンターギルドもなかなかやるわね……」
ハンターギルドが意外としっかりした雇用環境であることを知って、なぜか少し悔しそうにする水龍ちゃんでした。
「そんな顔しないで。毒持ち魔物討伐の件だけど、増えすぎた魔物も随分と数を減らしているようだから、そろそろ打ち切ろうかって話が上がっているのよ」
「そうなんですか?」
「ええ、そうなれば、毒消しアイテムを毎日納品してもらう必要もなくなるわね」
「つまり、お休みが取れるということね!」
なんと、タイミングよく毒持ち魔物討伐依頼の打ち切りの話が出ていると知り、水龍ちゃんは、休暇取得がぐっと近づいてきたように感じたのでしょう、とても嬉しそうな笑顔に変わりました。
「ふふっ、あの討伐依頼がなくなると、水龍ちゃんの売り上げが落ちて困るんじゃないかってギルマスが心配していたけれど、そんな心配いらなかったようね」
「最近売り出した新型治癒ポーションの売れ行きが好調なので、全然平気ですよ」
どうやら、ハンターギルドマスターが、水龍ちゃんのことを心配してくれていたようですが、水龍ちゃんは、全く気にしていないようでした。
もともと、毒持ち魔物の討伐依頼は、赤毒ポーション不足が原因で増えすぎた毒持ち魔物を緊急討伐するという特別依頼です。
水龍ちゃんが開発した赤毒サンドを使えば、赤毒ポーション1つ分の薬草から、赤毒ポーション1つと赤毒サンド2つを作れることが分かったため、特別依頼限定としてギルド側で水龍ちゃんの毒消しアイテムを独占販売することにしたのです。
ハンターギルドは、基本的にポーション類などを直接販売することはしないため、特別依頼が打ち切りとなれば、水龍ちゃんは、毒消しアイテムを別のルートで販売しなければなりません。そのあたりを、ギルマスは心配したのでしょう。
「急に毒消しアイテムの納入を止めると、水龍ちゃんもいろいろ困るでしょうから、依頼を打ち切る数日前には、連絡入れるわね」
「よろしくお願いします!」
「なー!」
ウキウキワクワク休暇作戦の最大の難関である毒消しサンドの毎日納品ノルマの解消が見えて来て、水龍ちゃんとトラ丸は、ほくほく顔でハンターギルドを後にするのでした。
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