第69話 プリンだー!

 今日は、改めて新型治癒ポーションの販売について商業ギルドで打ち合わせです。

 水龍ちゃんが、昨日と同じくらいの時間に商業ギルドへやって来ると、シュリさんが出迎えてくれて、すぐに応接室へと案内されました。


「よく来たなー! あたしが商業ギルドのギルドマスター、プリンだー!」


 ドアを開けた途端、ソファーの上に立ち上がって腕を組み、楽しそうに大声で名乗りを上げる女の子の姿がありました。


「あ、初めまして、水龍です」

「おおっ! 話には聞いていたが、ちっこいなー! 背丈は、あたしとくらいかー? なんか親近感が半端ないなー!!」


 突然のことにビックリしつつも、水龍ちゃんが挨拶を返すと、プリンちゃんがソファーからぴょんっと飛び降りて来て、水龍ちゃんの手を取り、ブンブンと振りながら元気いっぱいに話しかけてきました。


 このテンション高めの赤毛の女の子は、ぱっと見、水龍ちゃんに負けず劣らずの小柄な子供で、とてもギルドマスターには見えません。


「えっと、この子はトラ丸です」

「おおー! ちっこい子猫かー! かわいいなー! あたしはプリンだー! トラ丸よろしくなー!!」

「なー!」


 続いて、水龍ちゃんが、肩に乗せているトラ丸を紹介すると、プリンちゃんはトラ丸にグッと顔を近づけて、元気よく挨拶してきました。対するトラ丸も嬉しそうに元気いっぱいに挨拶を返しました。


「ギルドマスター、挨拶はそのくらいにして、打ち合わせに入りたいのでお座りください」

「おー、そうであったなー! あたしも忙しいし、さっさと終わらせてしまおー!」


 シュリさんに促されて打ち合わせに入るようですが、プリンちゃんは、水龍ちゃんの手を引いて、2人並んでソファーに座るのでした。


 水龍ちゃんとプリンちゃんの対面に、ローテーブルを挟んで座っていたトーマスさんの隣にシュリさんが腰を下ろしました。


 普通は、商業ギルド側としてプリンちゃんとシュリさんが並んで座るところでしょうが、プリンちゃんが、ご機嫌で水龍ちゃんと並んで座ってしまったので、仕方なしといったところでしょう。


 トーマスさんは、どうやら商業ギルドに呼ばれて来たと思われますが、プリンちゃんの行動を前に苦笑いしていました。


「それでは、前代未聞の1級ポーションの販売にあたって、商業ギルドから提案させていただきます」


 シュリさんは、そう切り出して提案事項の書かれた書面を配り、その内容について順に説明してゆきました。


 商業ギルドの提案内容は、要約すると次のとおりでした。

 ・水龍ちゃんは、特大瓶にて新型治癒ポーションをエメラルド商会へ納品する。

 ・エメラルド商会は、品質確認と小瓶への小分けを行い商業ギルドへ納品する。

  (小瓶に猫の手シールを貼ること)

 ・商業ギルド主催による競売形式で各商会へと販売する。

  (エメラルド商会も競売に参加して仕入れること)

 ・各商会での販売価格は自由とする。

 ・水龍ちゃんからエメラルド商会への卸値は特大瓶単位で設定する。

 ・エメラルド商会から商業ギルドへの卸値は小瓶単位で設定する。

 ・競売の利益は、商業ギルドの手数料を差し引いて、水龍ちゃんへ還元する。

 ・競合が現れた場合、速やかに対応を協議する。


 商業ギルド側から、このような提案をするのは、水龍ちゃんの作る1級治癒ポーションを巡って、各商会による骨肉の争いが起きないようにするためだと説明がありました。


 なので、水龍ちゃん以外にも1級ポーションを作って販売する者が出て来た場合には、その時の状況に合わせて対応を協議すると記載しているのだそうです。


 エメラルド商会としては、商業ギルドが表立って提案してくれた方が何かと都合が良いとのことで、内容的にも特に異論はないということです。


 水龍ちゃんは、細かいことは良く分からないけど、エメラルド商会にだけ販売すればいいため、当初の予定と同じようなものかな、と言って承諾しました。


 そして、卸値については、シュリさんから提示された金額でスタートし、競売の状況をみて改訂していくこととなりました。


「それでー? いつから販売するのだー?」


 商業ギルドによる提案事項について話がまとまったところで、プリンちゃんが首を傾げて問いかけると、皆の視線が水龍ちゃんへと集まりました。


「えっと、今朝、ハンターギルドから治癒効果については問題ないとの報告がありましたので、特大瓶の準備が出来次第、新型ポーションを作れます」

「それでしたら、今日中に特大瓶をお届け致しましょう」


 水龍ちゃんとトーマスさんが、それぞれ答えると、プリンちゃんが、とても満足そうな顔でうんうん頷き、口を開きました。


「よーし! それでは、明日から生産を開始することということで良いなー!!」


 水龍ちゃんもトーマスさんも異論はなく、にっこり笑顔で頷きました。プリンちゃんも2人のようすを見て、うんうんと満足顔です。


「じゃ! そう言うことで、よろしくなー!!」


 プリンちゃんは、これで打ち合わせは終わったとばかりに、応接室から飛び出して行きました。その勢いを見てトーマスさんは苦笑いです。


「ところで、水龍様、ハンターギルドで毒消し関連の商品を販売なさっているそうですね」

「はい。なかなか売れ行きも好調で嬉しい限りです」


 シュリさんが、毒消しアイテムの話を持ち出してきて、水龍ちゃんは、嬉しそうに答えました。


「それは良いことですね。それで、帳簿の方はちゃんと付けられておりますでしょうか?」

「ん? 帳簿???」


 帳簿の話を問われて、水龍ちゃんは、きょとんとして頭にたくさんのハテナを浮かべてしまいました。


「きちんと帳簿をつけておかないと大変なことになります。場合によっては、脱税とみなされて罰金が課せられます」

「なんと!!」


 シュリさんから脱税とか罰金とかいう言葉が出て来て、水龍ちゃんは、ビックリ仰天、目を見開いてしまいました。

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