第68話 商業ギルドで相談です

 薬師ギルドを出た水龍ちゃんは、いつもなら図書館へ向かうところですが、今日は商業ギルドへとやって来ました。


「シュリさん、おはようございます!」

「なー!」

「おはようございます、水龍様、トラ丸様」


 水龍ちゃんとトラ丸が、101番窓口で元気よく挨拶をすると、シュリさんも微笑みながら綺麗な所作で挨拶を返してくれます。


「今日は、新しく開発した治癒ポーションの販売の相談に来ました」

「ほう、新しく開発したのですか?」


「はい、特許取得は間違いないと言われて、すぐにでも販売してもいいって言ってもらえたんです。それで、実際に売り出すにあたって、いろいろ相談したいです」

「なるほど、特許案件ですので秘匿情報もあるでしょう。場所を変えてお話を伺いたいのですが、よろしいしょうか?」


 水龍ちゃんの相談が特許案件だと分かると、シュリさんが場所を変えたいと言ってきました。


「ん? いいですよ?」

「では、こちらへ」


 場所のことなど全く気にしていなかった水龍ちゃんは、ちょっと首を傾げながらもシュリさんに連れられて、応接室へと移動しました。


「商業ギルドに来られる方々は、儲け話に耳聡い者が多いのですよ。ですので、今回のようなお話は、窓口ではなく別室でお伺いするようにしております」

「そうなんですね。お気遣いありがとうございます」


 応接室へ入るなり、開口一番、シュリさんは、場所を移した理由を説明してくれました。おそらく、水龍ちゃんが、この辺りの事を理解していないと考えてのことでしょう。


 トラ丸は、ぴょいっとソファへ飛び降りて、足元の柔らかさを確認するように前足でソファをぷにぷにと押して感触を確かめています。


「それでは改めて、新しく開発したポーションについて従来品との違いなどを教えていただけますか?」

「はい! 苦くないポーションを開発したんです! そしたら、ポーションの鑑定結果も従来品より良くなったんですよ! あ、持ってきたので見てください!」


 水龍ちゃんは、とっても嬉しそうに新型ポーションの特徴を元気よくアピールすると、バックパックから持ってきた新型ポーションを取り出して見せました。


「ほう、これは、透き通っていて綺麗な色をしていますね」

「えへへ、みんなそう言ってくれます」


 シュリさんが、新型ポーションを手に取って感想を述べると、水龍ちゃんは嬉しそうな笑顔を見せました。いつの間にやらローテーブルの上へと移動していたトラ丸はシュリさんへとドヤ顔を見せていました。


「ちなみに、ポーション等級は何級なのでしょうか?」

「1級です!」

「なんと……」


 シュリさんは、新型ポーションが1級ポーションだと聞いて、目を見開いて驚いていました。トラ丸が、どうだと言わんばかりに誇らしげに鼻を鳴らしているのが、またかわいらしいです。


「いやはや、特許取得が間違いないのも頷けますね……。水龍様、特許手続きの状況についても教えていただけますか?」

「えーっと、手続きは薬師ギルドマスターにお願いしていて、あまり詳しいことは分からないんですけど……」


 シュリさんが、特許について尋ねると、水龍ちゃんは軽く頬を掻きながら正直なところを伝えました。


「なるほど。では、特許申請した経緯など、分かる範囲で教えていただけますか?」

「はい。——」


 水龍ちゃんは、開発した苦くないポーションをおばばさまと薬師ギルドマスターへお披露目して、彼女らの助言で特許登録をすることにしたことから話し始めました。


 その後、シュリさんからの質問に分かる範囲で答えながら、昨日、新型ポーション作成の実演をした時のことや、今朝、ハンターギルドに治癒効果の確認依頼を出したことも話しました。


「なるほど、だいたい分かりました。それで、販売についてのご相談ということですが、具体的には、どのようなお話でしょうか?」


 特許に関する話がだいたい終わったところで、シュリさんが尋ねてきました。

 水龍ちゃんは、ようやく本題の話が出来るとあって、にっこり笑顔を見せました。


「えっと、猫の手シールを貼って、エメラルド商会を通して売ってもらおうと考えてるんですけど、商業ギルドから何かアドバイスがあれば聞いておきたい、かな?」


 水龍ちゃんは、なぜか最後に首を傾げて疑問形になってしまいました。その様子にシュリさんの片眉が僅かに上がりました。


「……もしや、どなたかから、我々商業ギルドの方へ相談するように助言されてきたのでしょうか?」

「さすがシュリさん。実は、ばばさまから、後で面倒なことにならないように、商業ギルドに相談しなさいって言われてきました」


 水龍ちゃんは、にっこり笑顔で、シュリさんの推察通りと、すぐに背景をばらしてしまいました。


「なるほど。確かに1級ポーションを1商会で独占販売するとなると、面倒なことになっても不思議ではないですね」

「あ、ちなみに、薬師ギルドでも買い取ってもらいますよ?」


「そちらは、商業ギルドを通して各商会へ販売されるので大丈夫ですよ」

「そうですか。よかったです」


 水龍ちゃんが、思い出したように薬師ギルドでの買取りの話をしましたが、シュリさんからは、問題ないとにっこり笑顔で言われたので、水龍ちゃんもほっとした顔を見せました。


「さて、本件についてですが、商業ギルド内で対応を協議しなければなりませんので少しお時間をいただきたいですね」

「えっ? そうなの? なんか大げさじゃないですか?」


「1級ポーションが販売されるとなれば、決して大げさなことではありませんよ」


 シュリさんに、にっこり笑顔でそう言われ、翌日、改めて打ち合わせをすることとなりました。


 どうやら、水龍ちゃんが思っていたよりも、1級ポーションの販売はインパクトがあるようです。




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