第67話 新型ポーションの販売準備
「おはようございまーす! 納品でーす!」
早朝、いつものように、水龍ちゃんはハンターギルドの通用口から元気な声を出して入って行きます。
ギルド職員に手伝ってもらって納品を済ませると、恒例のアーニャさんとの雑談タイムです。アーニャさんは、いつものようにトラ丸をモフモフしています。
「アーニャさん、新しく開発した治癒ポーションなんですけど、効果確認の依頼を出したいです」
さっそく水龍ちゃんは、特許ポーションの話を切り出しました。実のところ、例の特許ポーションは鑑定魔道具で1級ポーションと判定されていますが、使用実績がありません。
そのため、水龍ちゃんは毒消しポーションの時のように、ハンターギルドに依頼を出すことにしたのです。
「あら? 治癒ポーションっていうと、例の特許待ちになってたやつかしら?」
「そうです。まだ特許審査は終わってないけど、特許取得は間違いないから販売していいって言われたの」
「ふぅん、昨日、薬師ギルドのお偉いさんに、新しいポーションを作るところを見てもらうって言ってたけど、その時かしら?」
「そうです。特許審査部トップとかいう人が太鼓判を押すって言ってくれました」
アーニャさんとは、毎日雑談でいろいろな話をしているので、アーニャさんは、開発した苦くない治癒ポーションの話や、昨日の水龍ちゃんの予定なども知っていました。そのため、水龍ちゃんとの会話もスムーズに話が進んでいゆきます。
「分かったわ。依頼内容や料金は青毒ポーションの時と同じだけど、いいかしら?」
「もちろんです。今日、ポーションを持ってきたので、よろしくお願いします」
「了解よ。今から依頼書を作るから、少し待っててね」
「はい」
話がまとまると、アーニャさんはトラ丸をモフる手を止め、すぐに依頼書の作成に取り掛かってくれました。水龍ちゃんは、バックパックからポーションケースを取り出し、受付カウンターへと置きました。
トラ丸がポーションケースをぺしぺししている間に、アーニャさんがささっと書類を書き終えると、水龍ちゃんは、すぐに書面を確認して依頼料を支払いました。
「これが新型ポーションね。透き通っていて綺麗な青色ね」
アーニャさんがポーションケースから新型ポーションを1つ取り出して、まじまじと見つめて素直な感想を述べました。
「依頼は何日くらいかかるかしら?」
「ふふふっ、今日中に依頼をこなしてくれるかもね」
「えっ? ……まさか、ギルマスの脅しが入るとか?」
「それは……、あるかもだけど。そんなの無くても、猫の手印の毒消しアイテムの評判が良いから、同じ猫の手印の新型ポーションの件なら、依頼の奪い合いになるくらいには、みんな飛びついてくると思うわよ」
どうやら、ハンター達の間では、猫の手ブランドがしっかりと評価されてきているようです。アーニャさんは、そんな予想をどこか嬉しそうに話してくれました。
帰宅した水龍ちゃんは、いつものように食事を取ってから2級ポーションを作って薬師ギルドへと向かいました。
「水龍ちゃん! 1級ポーションを開発したって聞いたわよ!」
「今日から販売するそうね!」
「もちろんギルドでも買取りするわよ!」
「さぁ、早く見せてちょうだい!」
薬師ギルドへ入るやいなや、水龍ちゃんは、鼻息を荒くした女性職員達の熱烈な歓迎を受けて、いつもの買取カウンターへと連れられて行きました。
肩に乗っていたトラ丸は、女性職員達の勢いに驚いたのか、水龍ちゃんの首筋にすり寄って小さくなっていました。
「あ、あの……、1級ポーションは治癒効果の確認中なので、今日はまだ……」
「「「「えええええーっ!!!」」」」
水龍ちゃんが、困った顔で言うと、女性職員達からの悲痛な叫び声がギルド内に響き渡りました。
「あの、今朝、ハンターギルドに効果確認の依頼を出したので、早ければ、明日にも結果が出ると思います……」
明らかに落胆した女性職員達に、水龍ちゃんは、ちょっと申し訳なさそうに現状を告げました。
「あーっと、ごめんなさいね。昨日、ギルド本部のお偉いさんが来てたでしょう。それで、水龍ちゃんが開発した1級ポーションの話をしていたから、みんな期待しちゃって、舞い上がっちゃってたの」
いち早く立ち直った女性職員のお姉さんから、謝られてしまいました。
「あははは……、期待して頂いてありがとうございます。でも、新しく開発した治癒ポーションなので、ちゃんと治癒効果が得られるのか確認しておきたくて……」
「そ、そうよね。販売前に確認しておくのは大事よね」
水龍ちゃんが、苦笑いしながら自身の胸の内を明かすと、お姉さんは、きちんと理解して同意してくれました。
「今日は、いつもの2級ポーションですけど、1級ポーションの効果が確認できたら薬師ギルドにも買取りしてもらうつもりなので、よろしくお願いします」
「ふふっ、ありがとね」
そして、水龍ちゃんが、ちょっと申し訳なさそうに苦笑いしながら、今後の展望を話すと、お姉さんは、にっこり笑顔でお礼を言ってくれました。
「はいはい、そういうことだから、みんな、気落ちしてないで仕事しなさーい」
「「「「はーい」」」」
続いてお姉さんが、すっかりテンションの下がってしまった女性職員達へ向けて、パン、パンと手を打ち鳴らしながら声をかけると、みんな揃って返事をして、気持ちを切り替え仕事に戻るのでした。
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