第66話 薬師ギルドの盛り上がり

 特許取得手続きの一環で、水龍ちゃんは、自身が開発した治癒ポーション作りを実演して見せ、出来上がったポーションを差し出しました。


「おお、あの透き通った青色は、事前に提出のあった1級ポーションそのものだ」


 水龍ちゃんの作った出来立てポーションを見て、薬師ギルドの特許審査部トップの男性が、目を見開いて呟きました。おそらく、事前にサンプルとしていくつか渡しておいた水龍ちゃんの1級ポーションが特許審査部にも届いていたのでしょう。


「うむ、では、ポーションの鑑定をするぞ」


 ギルマス自らが、受け取ったポーションをポーション鑑定魔道具へセットして、鑑定開始のスイッチを入れました。


 鑑定魔道具からキュイーンと甲高い音が鳴り、魔道具正面のアナログメーターがゆるゆると動き出します。


 その場にいる全員が、ポーション鑑定魔道具のメーターの動きに静かに注目している中、メーターがどんどん上昇してゆきました。


「おおっ! 2級を軽々と超えたぞ」

「さらに、メーターが上がってゆくな……」


 薬師ギルド職員達の間から、声を抑えつつも興奮気味の呟きが聞こえてきます。


「なんと! 1級レベルに到達したぞ!!」

「マジかよ!」

「素晴らしい!!」


 ギルド職員達は声を抑えるのも忘れて、興奮したようすで声を張り上げました。


 やがてメーターが動かなくなり、ピロリロリ~ン♪と魔道具から音が鳴って、ポーション鑑定が完了しました。もちろんアナログメーターの針は、1級ポーションであることを示しています。


「結果は、1級ポーションだ。サンプルとして本部へ送ったものと同等だな」

「うむ、つまりは、安定して生産できるということだな」


 ギルマスが鑑定結果を告げると、特許審査部トップの男が大きく頷き、品質の安定性に言及しました。


「それでは、詳細レシピを配布する。おのおの、自分自身でこの新しいポーションを作ってみて欲しい」


 ギルマスが、そう言うと、おばばさまがレシピを記載した紙を配り始めました。


「おおっ! 私でも1級ポーションが作れるのだな!」

「あー、言っておくが、誰しもが1級ポーションを作れるわけではないぞ。だが、今までのポーションよりも高品質のポーションが作れるはずだ」


 レシピを手にした男が興奮しながら叫ぶと、すかさずギルマスが、彼の思い違いを正しました。


「いやいや、子供が1級ポーションを作れるならば、私だって作れるだろ?」

「ちなみに水龍は、これまでのレシピで2級ポーションを作るからな」


「えっ!? マジで?」

「ああ、嘘ではないぞ」


 水龍ちゃんが作れるならばと主張する職員に対して、ギルマスが、水龍ちゃんの実力を教えてやると、彼は酷く驚いていました。


 それもそのはず、これまでのレシピで2級ポーションを作れる人など、数えるほどしかいないのですから。水龍ちゃんは、それだけの実力があるということです。


 さてさて、1級ポーションを作るところを目の当たりにして、興奮冷めやらぬ中、集まったほぼ全員が配られたレシピを見ながら、ポーション作りを始めました。


 今までの作り方とは違うため、先ほど水龍ちゃんが実演して見せたとはいえ、みんなレシピを確認しながら、間違えないようにと作業を進めてゆきます。


「おおっ! 2級ポーションが出来たぞ! 今までのレシピだと3級ポーションまでしか作れなかったのに。これは凄いぞ!」


 いち早く特許レシピでポーションを作り終えた職員が、ポーション鑑定結果を受けて歓喜の声を上げました。


「私も2級ポーションを作ることが出来た。レシピ1つでこんなに変わるなんて信じられないな」

「それに、この色合い。透き通った青色を見ると、今までのポーションは酷く濁っていたと感じます」

「飲んでみたけど、苦みが全然ないぞ! 効果が高くて飲みやすいなんて、まさしくポーション革命だな!」


 みんな続々とポーションを完成させて、その鑑定結果にテンション高く盛り上がってゆきました。


 そんな様子に、水龍ちゃんはトラ丸を抱いてなでながら、嬉しそうな顔をしています。ギルマスとおばばさまは、そうだろうそうだろうというように、何やら納得顔でうんうんと頷いていました。



「そうだ、今までの作り方でも作ってみようか。材料も器材も一緒で、どれだけ違いが出るか比べてみよう」

「面白そうですね。私もやってみます」


 そんなことを言い出して、新旧レシピでポーションを作って比べる職員達も現れました。結果は、もちろん、水龍ちゃんの新レシピが明らかに1ランク高い鑑定結果となり大喜びで盛り上がっていました。




 ひとしきり騒ぎが収まった頃合いをみて、ギルマスが口を開きました。


「このたび特許申請した治癒ポーションの素晴らしさを皆も分かって頂けただろう。今後、特許登録がスムーズに進むと確信している」


 ギルマスの言葉に、皆、うんうんと頷いています。


「レシピを研究開発した水龍から、なにか一言頂きたい」


 突然ギルマスから話を振られて、皆の視線を一身に浴びた水龍ちゃんは、ん?と目をパチクリさせました。


 さらに、ギルマスは水龍ちゃんの隣で、ニヤリと悪戯心満載の笑みを向けて、なんでもいいから話せ、と小声で促しました。


「えっと……、あの、このポーションを販売してもよくなるのは、いつ頃になりそうですか?」

「「「「「えっ?」」」」」


 水龍ちゃんの一言が意外だったのでしょう、一同揃って拍子の抜けた声を漏らしました。そんな中、特許審査部トップの男性が苦笑いを浮かべつつ、口を開きました。


「ははは、まぁ、特許申請中ということで、今日から売り出しても構わないだろう」

「本当ですか!」


「もちろんだとも」


 今日から大丈夫と聞いて、水龍ちゃんは、嬉しそうに確認の声を上げると、特許審査部トップの男性が、にこやかな笑顔で肯定しました。


「あの、特許取れなかったからって、後で高額請求が来るとかないですか?」

「はっ? ……特許訴訟を気にしているのか? ならば、問題ないだろう。類似の特許は出されていないからな。なんなら、薬師ギルド本部の特許審査部トップとして、高額請求などありえないと太鼓判をおそうじゃないか」


 水龍ちゃんが、高額請求について尋ねると、なんと、薬師ギルドのお偉いさんが、太鼓判を押してくれたのでした。

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